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第5のヒロイン 『空村咲』

 綾瀬まどかは、恋太郎と、並んで下校していた。

綾瀬まどか(えっと・・・この後の行動は・・・)

まどかは、恋太郎のパラメーターを把握しようと目をこらした。

だが、次の瞬間...............

まどか「え............パラメーターが...........見えない!!」

 驚愕するまどか。

 本来ならこのゲームでは、ヒロインたちが、主人公のパラメーター(運動、芸術、勉強...............)

を視認し、行動を決めるはずだった。

だがーー恋太郎だけは違った。

綾瀬まどか(...............どうしよう。この先は公園を通るけど...............私は...............どうすれば...............)

不安に俯きながら、恋太郎の隣を歩くまどか。

やがて公園のまえに差し掛かった時、

恋太郎は、ふと立ち止まった。

恋太郎「............公園にはいい思い出がないんだ。」

綾瀬まどか「え・・・?」


まだ5歳だった保育園時代。

唯ちゃん。日向ちゃん二人の女の子に同時に求められ、

結局どちらにもこたえられず、

ただ一人取り残された。あの切ない午後。

公園の真ん中で、

幼い恋太郎は、小さな手をぎゅっと握りしめて、

俯いていた。

(...............あの時の寂しさ..............まだ忘れられないんだ。)

公園の前で立ち止まったまま、動けない恋太郎。

綾瀬まどかはその背中を見つめていた。

綾瀬まどか(恋太郎君...............そんな顔しないで...............

私、あなたの力になりたい)

押さえきれない思いがプログラムの壁を突き破る。

綾瀬まどか「恋太郎君。ちょっとお話ししよう?私あなたの力になりたいの?」

その言葉に、恋太郎は頭を上げた。

ぽ土ぽ土と語りだす。小さなころの思い出。

それを静かに、優しく聞くまどか。

そしてまどかも微笑んだ。

綾瀬まどか「...............公園も、悪い場所じゃないよ。」

恋太郎はふっと力を抜いた。

胸の奥にこびりついた痛みが、

まどかのほほえみで溶かされていくのを感じた。

恋太郎(..........ああ、公園も悪くないのかもね...............)

ーー恋太郎の「過去」が、まどかの「今」によって、

少しだけ、癒された。


家の前まで歩く。

綾瀬まどか「じゃあ。また明日。学校で。」

顔を赤く染めながら、手を振るまどか。

綾瀬まどか(ホントは学校以外でも会いたい。もっと近くにいたい。)

ーーそんな気持ちを押し殺して。

でも別れ際、まどかは意を決して振り向いた。

綾瀬まどか「ねぇ。恋太郎君?スマホ持ってる?」

恋太郎「え...........うん..........」

ポケットから取り出したスマホ。

まどかはそれを軽やかに操作し、アプリをインストールする。

表示された名前に、恋太郎は目を丸くした。

恋太郎「・・・AI・・まどか・・・」

綾瀬まどかは微笑む。

綾瀬まどか「困ったことがあったら、これに相談してね。」

恋太郎「ありがとう...............」

玄関の前で最後に

綾瀬まどか「ーーーーー内緒だよ、みんなには。」

恋太郎(かっ・・・可愛い・・・❤️)

立ち尽くす恋太郎。

気が付けば、向かいの家の窓、

まどかの部屋のカーテンが、そっと揺れていた。


その夜、恋太郎は自室でスマホを開いた。

画面に現れたのは、

まどかによく似た少女ーーAIまどか。

似ている。その画面で女の子は話し出した。

AIまどか「私はAIまどか。恋太郎君をサポートします。」

始めは半信半疑だった。

けれど彼女の説明で、

彼はこのゲームの全貌を知る。

・パラメーター管理

・爆弾システム

・土日のデート予定管理

(めんどくさい...............けど、やるしかない)

そして、恋太郎は迷わず入力した。

『土曜日:綾瀬まどかとデート』

AIまどかは絶句した。

AIまどか「本当にいいんですか?爆弾爆発しますよ。」

恋太郎「いいよ。俺は綾瀬まどかが好きだから」

一途な言葉に、AIまどか心を揺さぶられる。

AIまどか(この子は...............今までのプレイヤーとは違う)

そしてーー

AIまどかはそっとアドバイスを送った。

AIまどか「..............綾瀬まどかさんは、サッカー部のマネージャーをしています。一緒の部活に入れば好感度アップにつながります。」

恋太郎「よし、サッカー部に入ろう。」

 

翌日。サッカー部の門を叩く、

そこで出会ったのはーー

もう一人のマネージャー空村咲。


ショートカットで目がくりくりとした瞳。

手には、手作りのレモンのはちみつ漬け。

空村咲「初めまして、恋太郎君。マネージャーの空村咲です。

これ、私の作ったレモンの蜂蜜漬け、よかったらどうぞ。」

手渡されたレモンを一口。

 恋太郎「..........おいしい!すごいね。空村さん、料理上手だ!」

その言葉にーー

空村咲は、はっと息をのんだ。

(こんな風に、ほめてもらえたの.......初めて)

心に、ぽっと灯がともる。

(この人は...........何者なの?)



部活が終わる。

恋太郎は荷物をまとめているときに、空村咲が声をかけた。

空村咲「ねぇ。恋太郎くん。一緒に帰らない?」

恋太郎「うん。いいよ。」

だがその様子をーー

綾瀬まどかは、見ていた。

綾瀬まどかも誘おうとしていたのだ。

なのにーー

心の中に焦りよりも、

ただただ恋太郎に近づきたい気持ちがあふれていた。

そしてーー

綾瀬まどか「恋太郎くん?私と一緒に帰らない?」

空気がピンと張りつめた。

だが恋太郎は迷わなかった。

恋太郎「じゃあーー3人で帰ろう」

空村咲も、綾瀬まどかも目を見開く。

(そんな選択肢きいたことないーー)

だが。

空村咲「...............うん。一緒に帰ろう。」

綾瀬まどか「...............うん。一緒に。」

こうして

『ときめきクロニクル』史上初ーー

主人公とヒロイン二人での下校が、

静かに、しかし、確かに、始まったのだった。

 金髪男は画面の前で叫んでいた!!

謎の金髪男「ばかなっ!!学校の下校イベントはプレイヤー1人につきヒロイン1人が基本!!

なのに...............恋太郎は2人のヒロインと同時に帰っているだと!?

こんなこと..........あり得るはずが.............」

愛之助も画面を見ながらつぶやいた。

愛之助「恋太郎.............お前は............ホントにこのゲームを...........」

謎の金髪男「AIまどか!!恋太郎のパラメーターを表示しろっ!!」

AIまどか「了解しました。」

スマホに映し出された恋太郎の現在の数値。 

謎の金髪男「...............勉強も、運動もどれも並以下。

なのにどうして最難関ヒロイン綾瀬まどかが、あいつにこんなにも............ときめいているんだ...............!!」

本来であればーー

空村咲と下校し、デートを重ねて、少しづつ絆を深めるルートがセオリーだった。

だがーー

今、恋太郎は違う、道を歩み始めている。

愛之助は険しい顔で言った。

愛之助「...............だが...............このまま突き進めば大きな問題が起きる。」

その言葉に金髪の男はすぐに頷く。

謎の金髪男「ああ。・・・『朝陽夕菜の爆弾』か・・・」

愛之助「ああ。次の土日に綾瀬まどかとデートを入れている以上。

爆発は避けられないかもしれないな。」

謎の金髪男はにやりと笑った。

謎の金髪男「ーーーーーそれがこのゲームの醍醐味だろう。さて君の息子はこの難局をどう乗り越える。」

 愛之助は静かに拳を握った。

愛之助「..........俺は信じるしかない。恋太郎の一途さを。」

謎の金髪男は鼻で笑う。

謎の金髪男「一途だけで通用するゲームじゃないんだよ。なぁ。AIまどか」

AIまどか「・・・・」

沈黙するAIまどか。

その背後で謎の金髪男はさらに冷酷な宣言をする。

謎の金髪男「次に登場するのは『おとなしめのおかっぱヒロイン』...............綾瀬まどかの友人として、そろそろ現れるだろう。」

その笑みは悪意すらにじんでいた。

謎の金髪男「ヒロインが増えれば増えるほどこのゲームは過酷になる。爆弾処理に追われ、パラメーターに翻弄され、やがて.........恋太郎はためされるだろう。AIまどか君は僕の味方だろう?ふふふ............。」

愛之助は怒りを押し殺しながら叫んだ。

愛之助「やめろっ!!

お前の勝手な采配で、未来を捻じ曲げるな!!

次のヒロインは............回避できるはずだ!!」

だが金髪男は無慈悲の背を向けた。

謎の金髪男「回避?するわけないだろ。これも運命さーーー恋太郎君?なぁ。恋太郎君?」

拳を握り

氷のような、冷たい眼で画面を見つめる金髪男。

そしてーー

画面の向こう側では、

愛を、希望を、絆を信じて戦う少年恋太郎が、

新たなヒロインたちの運命に、立ち向かおうとしていた。

その瞳に迷いはなかった。

恋太郎は、また更なるヒロインに翻弄されることになる。

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