第11のヒロイン 『館川 澪』
恋太郎「なるほど!だんだん解けるようになってきた!二次関数の頂点を求めるには、平方完成すればいいんだね!」
紐緒ゆいね「その通り。因数分解できる時は、そっちの方が早く求まることもあるわよ」
紐緒ゆいねは恋太郎の隣で熱心に教えていた。前かがみになるたびに制服の胸元がちらりと見え、恋太郎の視線がつい吸い寄せられる。
恋太郎(……ごくっ。やばい、これは……)
その瞬間、横にあった拡声器が突然反応し、音声が流れる。
拡声器「ゆいねさんの胸の谷間が……セクシーだ。ブラの色は……」
恋太郎「うわあああああっ!?」
直後、彼の頭に強烈な一撃が飛んできた。
恋太郎「いったぁ!な、なんで拡声器から声が!?」
紐緒ゆいね「いま改良中なの。Wi-Fiを利用して、思考を音声化する機能を試してて……」
恋太郎「そんなの聞いてないって……!! 心臓もたないよ……」
けれど数学は理解できた。恋太郎はそっと立ち上がり、ドアの前で言った。
恋太郎「ありがとう。これで試験、なんとかなりそう」
紐緒ゆいね「……うん。頑張って」
その頬が少し赤らんでいることに、恋太郎は気づかなかった。
そして彼が教室を出ようとしたとき——
拡声器「……恋太郎……好き……デートしたい……」
恋太郎「えっ!?」
紐緒ゆいね「い、今のは……故障よ!故障!!」
顔を真っ赤にして言い訳をするゆいね。
だがその直後、彼女は勇気を振り絞ったように言った。
紐緒ゆいね「あの……今度の土曜日、デート……しない?」
その言葉に、恋太郎の鼓動が一気に高まった。
——
一方その頃。
綾瀬まどかは駆けていた。
綾瀬まどか「紐緒ゆいねの登場はランダム。こっちの予測プログラムじゃ追えない……やっぱり、難易度はヒロイン数で決まるのね」
立ち止まり、少し息を整えたまどかは、遠くを見据えた。
綾瀬まどか「彼女は天才。IQ300。発明も、人の心さえ操る……そんな彼女に恋太郎君が奪われるかもしれない……でも——」
胸に湧き上がる、説明のつかない感情。
綾瀬まどか「……恋太郎君だけは違う。彼を見てると、なぜか私の中から気持ちがあふれてくる……これが……」
まどかはまだ知らなかった。それが『愛』という感情であることを——。
——
電脳部の部室前。
そこに、もう一人の少女が立っていた。
ツインテールに潤んだ瞳。切なげに扉を見つめるその少女の名は——
館川 澪。
館川 澪「……恋太郎君……」
綾瀬まどか「あなたは……館川 澪ね」
澪はまどかを一瞥し、淡々と語る。
館川 澪「今の恋太郎君のパラメーターでは、あなたの出番はないはず。なぜここに?」
その目は真剣だった。
館川 澪「……助けたいんです。彼を。このままじゃ、彼は“恋愛イベントゼロ”で卒業を迎えてしまう。そしてこのゲームから……」
澪の言葉は衝撃的だった。
館川 澪「彼は、このゲームから出られなくなります。恋愛フラグも立たず、ただループを繰り返し、知識だけが蓄積されていく。そして最終的に、“女の子に詳しい友人ポジション”になるんです」
まどかは震えた。
——そのポジションが、かつてクリアできなかったプレイヤーの“成れの果て”だと、初めて知った。
——
恋太郎「戻ってこーい!綾瀬まどかーーー!!」
その叫びが響く中、偽のまどかの幻影がささやいた。
「あなたは……不良品」
綾瀬まどか「いやあああああああああっ!!」
叫び声とともに、電脳部の扉が開く。
恋太郎「綾瀬さん!?大丈夫かっ!?」
膝をつき、苦しむまどかに、そっと手を差し出す恋太郎。
——そして——
澪「恋太郎君、私と一緒に……このゲームから抜け出しませんか」
手を差し出す澪。しかし——
恋太郎「……悪い。俺が好きなのは、綾瀬まどか。それだけだ」
まどかの中に、またひとつ感情が芽生える。
綾瀬まどか(この気持ち……もっと知りたい……恋太郎君と一緒に……)
恋太郎「帰ろう、一緒に。テスト勉強、やるんだろ?」
まどか「……うん」
笑顔で並んで歩くふたり。
その背中に、ゆいねと澪の複雑な想いが静かに残されていた。




