求めていたものは……
一人用宇宙ポッド、Y-22298fは果ての無い暗闇とそれに浮かぶ小惑星帯、その間を縫うように抜け、孤独な航海を続けていた。
その座席に腰を沈める彼は、また一つ大きな欠伸をした。
自動操縦であり、地球本部からの指示通り動き、また定期的に情報を送る。ゆえに彼は何もすることがない。口を開ける時は今のような欠伸かナッツを一つ、放り込むことくらいだ。
気が楽でいいが一人用ということだけあって、いかんせん狭い。
体を縛るベルトを外して立ち上がる気も起きず、手足を投げ出し、お情けで付けられた小さな窓の外をぼんやりと眺める。
それでも前にいたところよりはマシと思うべきか。
あそこは狭い上にぎゅうぎゅう詰めであった。そしてそれは、このための訓練だったのだろう。他にも毎日やりたくもないことをやらされた。体に針を入れられた。苦痛を与えられた。その繰り返しで変化がなかった。
これに乗せられた時はワクワクしたが、結局は似たようなものか。
自由が欲しい。でなければせめて変化が欲しい。
そんなことを考え続けていたある時。ついに彼は欲してやまないものを手にする。
まずは変化。宇宙ポッドがある星に引き寄せられ、そして大気圏を貫き、地表へと落下したのだ。
大地を削り、土煙を上げる宇宙ポッド。
彼はその衝撃に目を見開き歯を食いしばり、大声で叫んだ。食料の残りがポッド内で乱舞し、ナッツの欠片が目に入る。
そして、静寂が訪れた。
揺れが収まると彼は頭を振り、前を見つめた。ひび割れた窓の向こうは濛々と砂埃が舞い、先は見えない。焦げた臭いが鼻を突き、粉塵が目に染みた。
どうやら、ポッドに裂け目ができたらしく、そこから砂埃が入ってきているらしかった。
彼は衝撃で半壊したベルトを外し、裂け目から外へ出た。
求めていた自由だ。彼がポッドの上に立った時、歓待の息吹が彼の全身を撫で、砂埃を散らした。
「局長。昨夜、Y-22298fの信号が途絶えました」
「どの辺りでだ?」
「こちらです」
「うーん、思ったより伸びなかったな」
「小惑星帯に突入でもしたのでしょうか」
「避けるようプログラムはしてあったが、まあ運がなかったな。やはりまだまだというわけだ。因みに生命反応は? いつまであった?」
「信号と一緒に途絶えました」
「なるほどな。じゃあ直前までは生きていたというわけだな。他はどうだ?」
「他も……ですね」
「そうか……やれやれ、資金不足だというのに、上手くはいかないものだな」
「資金不足……ああ、動物愛護団体の苦情のせいですか? 最近、あの手の連中の勢いが増してますよね。怯えたスポンサーたちが続々と降りてるって。はぁ……次はいっそ囚人でも使ったらどうですか?」
「ははは、島流しか? さすがに通らんよ。やれやれ、なにか成果が、それも大きな発見でもあればなぁ」
彼の目の前には草木のない、荒漠とした大地が広がっており、地球でいうところの太陽。輝く恒星の光、その照り返しに目を細めた。
大地の所々に、まるで水溜まりが反射するように光を跳ね返すものがあったのだ。
彼は振り返り、ポッドの軌跡を見つめた。
抉られた岩肌のその下には黄金色の、まるで切れた命綱のような線が引かれていた。