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2・続 元はと言えば(メイナ編)

 護衛騎士のエスコートによって、ソファーまで足を進めたわたくしは「では、これにて」 と頭を下げた護衛騎士の名を尋ね礼を述べて彼が去るのを見届けるとソファーに座ります。いつも家で使用しているソファーと同じ座り心地から察するに、公爵家御用達の家具店で購入して来たものでしょう。丸テーブルも同じ質感。此方も言わずもがな。となると。


「お嬢様、お待たせしてしまいましたか」


 檻の外から声が掛かって同時に身体を滑り込ませるようにわたくしの元に来たのは、護衛も兼ねた所謂戦闘侍女にしてわたくしの専属。


「いいえ、タイミング良くてよ。イリン、お茶をお願いね」


「畏まりました」


 流石お父様。手配に漏れが無いですわ。

 イリンから紅茶をもらい香りを楽しんでから口へ。芳醇な香りが口いっぱいに広がったのを楽しんでからイリンへ視線を向けた。


「状況の説明を致しましても?」


「良くてよ」


 視線一つで此方の気持ちを慮れるイリンなので、わたくしの専属に推挙し、無事にお父様に許可を得られたわけですが、やはり彼女は頼もしいですわね。


「では。先ずはご承知の通り、ナナハによるお嬢様への冤罪は早々に疑いを晴らしてあります」


「ええ」


「当然、第五側妃がお生みになられたナナハは失脚。そして失敗したことによって第五側妃は己の身の保身から、やはり国王陛下の子ではないことを口走りましてその一件で王族を騙ったことにより毒杯を賜ります」


 ここまでは予想通り。というか、そうなるよう進めて来たというか。

 大体、国王陛下と王妃殿下の間にお子が三年も出来なかったのも王妃殿下に避妊薬を飲ませていたから、という理由があります。

 国王陛下が王妃殿下を長く独り占めしたくて、ですわ。王妃殿下は側妃を娶ることを勧められますよ、とご進言あそばされましたのにそれでも陛下が王妃殿下に避妊薬を飲ませることを止めなかったのです。結果、見事に側妃を召し上げることを臣下から進言されました。

 まぁ多分、陛下のことですから地方貴族派が年々煩くなっていたからわざと側妃を娶る方に話を持っていったのでしょうけれど。地方貴族派の下位貴族とはいえ、理由も無しに静かに()()()なんて、いくら国王陛下でも横暴ですものねぇ。


「それにしても陛下の掌で踊らされていたことに、全く気づいてないのでしょうねぇ」


 わたくしが呟けばイリンは何も言わず紅茶のお代わりを注いでくる。わたくしの独り言だと分かっていることも優秀ですわよね。


「続けても?」


「よくてよ」


「コレで間違いなく地方貴族派の急進派は黙る事でございましょう」


「そうね。そうでなくては困るわ」


「それで旦那様はお嬢様に早く此処から出ることをお嬢様に伝えて欲しい、と仰っておりました」


 うふふ。

 それはダメよ。

 何事も経験してみなければ分からない。ということで、わたくし折角、牢屋という所に入ったのですもの。


「嫌よ」


「そう仰ると思っておりました」


 イリンは、わたくしがどういう性格かよく知っていますものね。わたくし、知らないことを知りたい欲求が強い方ですの。牢屋を知らないから牢屋に入りたいと思いましたし、冤罪を着せられたことがないから着せられてみましたの。

 尤も、本当に冤罪を着せられてしまった方達には失礼なことかもしれませんが、同じ気持ちになることで、どのような考えになるのか、ちょっと試してみたくなりましたのよ。

 この経験がもしかしたら、本当に冤罪を着せられた人なのか、冤罪を着せられたフリをしている悪人なのか、見極めることが出来るかもしれませんもの。


「暫くは此処に居るわ」


 まぁ隣の牢屋が通常の牢屋ならば、此方は牢屋とは言えないのかもしれませんけど。


「畏まりました。お伝え致します」


「それに、第五側妃・ナナハ……そして第一王子のエビルを裏で操っている者も引き摺り出さないと、ね」


「畏まりました」


 第一側妃様は我が中立派の出身。第二側妃様は王家派の出身。第三側妃が地方貴族派の出身。第一側妃様と第二側妃様は実家が侯爵家で第一側妃様の方が家格的に第二側妃様のご実家より上だったためにこの順番になっただけで、正直なところ、どちらの家が上でも問題では無いのです。

 問題だったのは第三側妃。

 あろうことか、地方貴族派の中でも急進派と呼ばれる下位貴族の男爵家の出身だというのに、三番目なんて気に入らない、と騒ぎましたのよ。はしたない。

 陛下が上手く宥め遇らって第三側妃は渋々納得したわけですが、側妃に召し上げられたその日に陛下の子を身籠った、と仰ったわけです。そして生まれたのが第一王子のエビルということになっていますが。そんなわけが有りません。


「陛下のお渡りがないのにお子を身籠るわけがないでしょうに……。全く愚かなこと」


 第三側妃が召し上げられたその日、陛下は確かに第三側妃と顔は合わせました。昼間に謁見の間にて臣下が居る前で、ですが。その夜にお渡りは無かったのです。何故なら王妃殿下の元にいらっしゃいましたから。

 臣下達を騙すために第一側妃様と第二側妃様の元には夜に訪れたそうですが、訪れただけだそうですわ。宵の口に訪れて夜中には立ち去った、と。話をしただけだったそうですがそれでも周りはお渡りだと思うわけで。

 でも第三側妃にはお渡りどころか謁見の間で会っただけなのに、どうしてお子を身籠ると思ったのか……。

 つまり、第三側妃が産んだ第一王子・エビルは陛下以外の子です。

 本来なら、偽りなので即刻処刑ものですが、此処まであからさまに……つまりお渡りと呼ばれる夜の訪問が無いにも関わらず、子を身籠ったと言った上にその子を産んだことですが……謀事、と考えてもおかしくないわけです。その謀事を平然としてみせる第三側妃の裏には、誰かが居ると思ってもおかしくないでしょう。

 それはそうです。お渡り無くして子を身籠ったと堂々と言うのですから。閨事について何も知らない少女ではあるまいし。

 誰の子だろうと閨事を行ったからこそエビルを産んだわけですから、何も知らないわけがない。

 そこで陛下は第三側妃を寵愛しているフリをして油断させ背後にいるだろう誰かを誘き出して尻尾を掴むことに。

 そして陛下の寵愛を受けている、と勘違いした第三側妃は更に地方貴族派の娘を二人、召し上げるように強請る。陛下はその召し上げる予定の娘二人が第三側妃の謀事に関係しているのか、ということで陛下は二人を召し上げた。それが第四側妃と第五側妃だった。


「まぁ見事に丸分かりになりましたもの、ねぇ」


 第三側妃は、第四側妃と第五側妃が召し上げられた途端に調子に乗り、第一側妃様と第二側妃様に嫌がらせを始めた。とは言っても、お二方共高位貴族出身。下位貴族出身の第三側妃が考えるような嫌がらせ程度に屈する事などなく。そよ風が吹いたくらいにしか思っておられなかった。

 で。

 止めておけばいいのに、第四側妃と第五側妃を巻き込もうとして、第五側妃はナナハを身籠っていたために断り、第四側妃と共に第一側妃様と第二側妃様へ更なる嫌がらせを行った。尚、第四側妃も第五側妃も陛下のお渡りは無いので、ナナハもエビルも一体誰の子なのか。

 さておき。

 此処で第三側妃と第四側妃は失敗した。

 手を出す相手に王妃殿下を巻き込んだ。

 陛下は第一側妃様と第二側妃様に対する嫌がらせ行為を把握していたが、王妃殿下ではなかったことで見ぬふりをした。あの方は良くも悪くも王妃殿下以外に興味が無いのだ。

 第三側妃も第四側妃も第五側妃もそのことに気付かず。陛下の怒りを買い、第三側妃と第四側妃は毒杯を賜った。

 王妃殿下の暗殺を企てた、という濡れ衣によって。

 濡れ衣だ。

 あの二人はそこまでのことは考えていなかった。

 ただ陛下が王妃殿下に執着していたことに気付かなかったために、王妃殿下にちょっとした嫌がらせをしてしまい、結果、王妃殿下暗殺を企てた罪で毒杯。消された。

 ……まぁ調子に乗っていたから仕方ないですけどね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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