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4・冤罪を示す(ユニカ編)

「ユニカ、あなたの話は面白かったわ。でもあくまでもあなた視点の出来事。あなたが嘘を吐いていないとも限らないし、全て真実だとしてもあなたが見た景色でしか語られていないから事実ではない」


 メイナ様に話し終えたらメイナ様はそう仰った。メイナ様の言う意味は分かる。私が嘘を吐いてないことはメイナ様には分からない。それに私側の視点では全ての事実は明らかになっていない。


「例えば私を泥棒にしたら誰が得をするか、とかでしょうか」


 私の発言にまたもニンマリ笑うメイナ様。その通り、と言ったところか。


「それもあるわ。それにあなたに罪を着せる事を何とも思わないのね」


「それはどういう……?」


 メイナ様の言葉が理解出来ない。私に罪を着せる事を何とも思わないという事は、私を嫌うか憎むか恨むかということ……?


「ユニカ、今、あなたは自分が誰かに嫌われているとかそんなことを考えたでしょう」


「はい。メイナ様の言葉から考えると、だから私に罪を着せる事を何とも思わないのでは……? としか思えないので」


「違うわ。あなたを嫌いか、憎むか、恨んでいるのならきちんと……という表現も可笑しいけれど、きちんとあなたを陥れるために、確実に泥棒だと思われるような計画をしていたはずよ」


 それはそうかもしれない。

 例えば人の目がある公園での待ち合わせなんてシモンの名前を騙って呼び出すなんて、しないだろう。

 例えばシモンからのメッセージカードを処分するようにカードに書かれていたら私は不思議に思いながらも、そうしていたかもしれない。


「ユニカ、わたくしの言ったことが理解出来たようね。そうよ。あなたのことを嫌いだとかそういう感情を持ってない。もっと言えば、どうでもいいのよ。好きでもないし嫌いでもない。あなたは相手にとってどうでもいいと思われている。だから、あなたに泥棒の汚名を着せつつ、人目のある公園で待ち合わせなんて回りくどいことをした。あなたを見ている人は多いから、あなたが泥棒をした時間に公園に居たと証言する人が居るかもしれない。でも」


「私のことを見ていても覚えてなくて公園に居たことを証言する人が誰も居ないかもしれない……?」


 メイナ様の説明に私は、呆然としつつ“でも”に続く説明の先を口にした。

 メイナ様は少し憐れむように私を見てから頷く。


「ええ。正にあなたのことをどうでもいいと思っている証でしょう? あなたが公園に居たことを証言する人が居れば、あなたに掛けられた泥棒の疑惑は冤罪。でも誰も証言しなければあなたに掛けられた泥棒の疑惑は有罪となる。あなたの未来がどちらでも、相手にとってはどうでもいいと思っていることの証。でもそうね。少しだけあなたに情がある。その情がどういう種類かは兎も角として、好悪のどちらかなら、好きの部類に入るくらいの情。だから、公園という人目が多いところにあなたを呼び出した」


 それはつまり。

 私が有罪になるかもしれない、と考えて、積極的に有罪になることまでは考えてない、と……?

 誰も証言しなければ有罪になっても仕方ないとは思うくらいの感覚だけど、積極的に陥れようとは思ってないから、証言者が出れば良いよね、くらいは思っているとでも……?


「その、相手、は……私が、シモンと付き合っていることを知っていて……私とフェズが幼馴染だと、知っていて……。フェズが商会の息子だ、と知って、いて。私が商会に出入りしている、と思っていて? 私の父が、騎士爵をもらったことも知っていて……?」


「そうね」


 メイナ様は犯人像に迫る私へ、淡々と肯定する。

 そんなの。

 そんなの、たった一人しか、居ない。

 だって。


「父は、シモンと付き合っていることを知らないんです」


「そう」


「フェズは私とシモンが付き合ってることは知っているけれど、当然、私がフェズの家にも商会にも行ったことが無いことを知ってます」


「ええ」


 信じたくない。

 信じられない。

 だけど。


「数少ない友人は、貴族ではなくみんな平民ですけど、フェズの実家が商会を営んでいることを知りません。フェズのことは見かけたことはあるとは思います。でも短気で喧嘩ばかりしていて、父や他の人から叱られたり宥められたりしている姿しか知らないと思います。フェズが実家の商会に帰るのも少ないみたいで、家出ばかり繰り返してたし」


「そうすると?」


 考えたくないけれど、たった一人しか居ない。


「シモン、しか居ません……。彼、は、私とフェズが幼馴染だって知ってる。呼び出したメッセージカードはシモンの字でした。父が騎士爵をもらった事も、商会の使用人として働き、フェズのお目付け役みたいなことをしているのだからフェズが商会の息子という事は、当然知ってる……」


 私の頬を雫が伝う。

 視界がボヤける。


「私……シモンの恋人だって勝手に喜んで盛り上がって。でも本当は、シモンにはどうでもいい存在としか思われていなかったんですね……。泥棒の汚名を着せてもいいやって思われていたんです、ね」


 ショックで胸が痛いし考えもまとまらないし、涙は後から後から出るし喉がヒリついて痛い。


「シモンという殿方、あなたが商会に行ったことがないと知らないのね?」


「シモンは、私がフェズの幼馴染だということを知ったのは二年前なんです。シモンがフェズのお目付け役みたいなことを始めた時からなので。それまでもフェズにはお目付け役みたいな人が居て。でもフェズを諫めるのも宥めるのも大変になったらしく、既に二人辞めていました。シモンで三人目だったんです」


「……そう。ではユニカとフェズが幼馴染だって話だけを聞いていたから、当然、互いの家に行ったことがあると思っていたわけなのね」


「多分。フェズが父に連れられて我が家に来たことは何度かありますから……。シモンもフェズのお目付け役として我が家に来たこともありました。……恋人になってからも」


 どれだけシモン以外の誰かが私を、と考えてみても。

 どうしても全てを示すのはシモンしか居なくて。

 私はシモンへの愛情を残しながらも信頼が失せつつある自分の気持ちに気付き始めていた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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