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3・盗まれた物は(ユニカ編)

「さてらあなたの話では幼馴染の商会に泥棒が入り、あなたはその泥棒にされた……と」


 そういうことになる。


「フェズ、でしたか? その幼馴染の商会では何が盗まれたと?」


「契約書です」


「あらまぁ。それはそれは」


 メイナ様に盗まれた物を教えれば、メイナ様は少し首を傾げてからニンマリと笑った。……いや、公爵令嬢様がニンマリ笑うって思えないのだけど、どう見ても今の笑顔はニンマリという表現がピッタリだ。……前世、彼女が悪役令嬢として出てくるマンガを読んでいてもニンマリと笑う姿なんて見たことがない。

 尚、あのマンガは悪役令嬢に相応しく高笑いするシーンは山ほどあった。アレだ、おーほっほっほというヤツだ。擬音でおーほっほっほ。扇子で口元を覆って笑う姿が描かれていた。でも、ニンマリは無かった。高慢で傲慢で我儘な彼女に高笑いは似合ってもニンマリ笑顔は似合わなかったということだろう。……でも生身のメイナ様には高笑いよりニンマリ笑顔の方が何故か似合う気がした。

 それに……あのマンガは所謂恋愛系のモノではなくて、悪役令嬢としてメイナ様は出てくるけど、彼女はありがちな王子の婚約者とかでヒロインを虐めるとかではまるでなくて。主役は悪役令嬢であるメイナ様。内容は公爵令嬢としてチヤホヤされて性格がその環境により傲慢に形成されたメイナ様が、公爵家の権力やら富やらをフル活用して栄華を極めていたわけだけど、それが気に入らない下位貴族達にメイナ様が陥れられて国王陛下主催の夜会で罪を捏ち上げられて牢屋に入れられる。そして公爵家もメイナ様を足掛かりにして没落に追い込まれてしまい、それを知ったメイナ様が牢屋から脱獄して公爵家と自分を陥れた下位貴族達に復讐していく復讐モノ。

 だから高笑いよりニンマリ笑顔の方が、なんて言うのか復讐を誓ったメイナ様が色々と企んでいくことを上手く表すような気がして活き活きとしたメイナ様のような気がする。

 アレ?

 そういえば、マンガではメイナ様って良くある王子の婚約者ではなかったのに、現実のメイナ様は王子殿下の婚約者になったよね……?

 それで命を狙われていたメイナ様を父が偶然にも助けたことから、父は騎士になったのだから……。あれか。よくある名前やら何やらよく似た世界だけどあくまでも似ている世界への転生? つまりマンガ通りではない、とかいうやつ?


「ユニカ、ユニカ」


「は、はいっ」


 しまった。メイナ様に呼ばれていたのに前世で読んだマンガの内容を思い出していてボンヤリしていた。


「何を考えていたの?」


「いえ。契約書なんて私がどうやって盗むって思われたのだろうな……って」


「あら、あなたもそこに気づいたのね?」


「兵士に問い詰められていた時はなんでこんなことに……としか考えてなかったのですけど。メイナ様に話していたら、私がどうやって商会の契約書を盗んだと考えられたのかなって思いまして」


「まぁまぁ! 顔に似合わず賢いのね!」


 悪気なく言われてしまった。確かに、この国でよく見かける黒髪に焦茶の目の色をした十人並みの顔立ちの私ですから賢そうな顔立ちではないことは分かってますが、ハッキリと言われると少しは落ち込みますよ。


「あはは……」


 力なく笑うとメイナ様は目を瞬かせて少し考え込まれた。


「……ああ、悪気はないのよ、ごめんなさいね。顔と賢さは関係ないものね。それにあなたはよく見れば可愛いわよ」


「ありがとうございます」


 気を使われてしまった……と思う間もなく「それでね」 とメイナ様が続ける。


「ユニカが気づいたように、契約書を盗んだと思われる理由は何か、とわたくしも思いましたの」


「はい。兵士に問い詰められていた時は、なんでこんなことに……って思ってばかりで、昨日の出来事を話す以外に何も考えられなかったのですけど。私を泥棒だと思う人達の前提が抑々間違いだということに気づいてないんですよね」


「……あら? どういうことですの?」


 確かに私とフェズは幼馴染だし、フェズの商会で使用人として働くシモンと恋人だけど。


「私、フェズの商会に行ったことってないんです」


「……そうなの?」


「はい。フェズと私は確かに幼馴染ですが短気な性格のフェズは、五歳か六歳くらいの頃から家出を繰り返していて。その家出中に私や父と知り合いました。父がフェズを商会へ連れて行くことはあっても、父は私を連れて行くことは無かったんです。ちなみにフェズの家は商会の隣にあるそうですけど、その家も私は知らなくて。場所を知らないのに契約書をどうやって盗みに行くのでしょうね?」


 心底不思議な私の様子を見てメイナ様は「あはははは」 と大声を上げて笑います。……えっ、天下の公爵令嬢様がこんな口を開けて大声で笑います?


「ユニカ、あなた、面白いわ! そうね、その通りよ! 商会も家も場所を知らないで盗みに行けるわけないわね!」


 ……随分と笑われてしかも口調が砕けてます。


「あのぅ……面白く笑っておられる所、すみませんが」


 涙まで出て来たメイナ様の大笑いにちょっと引きながらも、更に私は気づいたことがありました。


「なぁに?」


「いえ、抑々ですが。契約書って一言で言われても何の契約書なのか分からないですし、家も商会の場所も知らない私が契約書がどこにあるのかなんて尚知らないですし、契約書を仮に盗んだとしてもその価値が分からない私が盗む利点ってなんなのでしょうか……」


 そう。契約書を盗んだって問い詰められましたけど、契約書の内容も分からないし、その契約書を盗んだ事によってフェズの実家である商会に何の不利益が出るのかもさっぱり分からないのですよね……。それなのになんで私が泥棒扱いされているんでしょうね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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