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2・此処に居る原因は(ユニカ編)

「では、抑々何故兵士に問い詰められるような事になったのかお聞かせ下さいな」


 言葉は穏やかだけど物言いも目も人に命じることに慣れた立場の人のもの。私は自然と口を開いた。


「シモンとは、私の幼馴染のフェズという男性から紹介されたのが切っ掛けで恋人になりました。フェズは平民ですがとある商会の三男です。短気な性格で人と争いやすくて喧嘩ばかり。父が兵士だった頃からよく父に叱られてました。ルッキオ公爵令嬢様をお助けしたことから後々騎士爵を頂くまでの間、幼馴染として関わっていまして。そのフェズが心を許していた一人にシモンが居ました。シモンは穏やかで物静かな性格の人で。フェズの実家である商会の使用人だとフェズから聞いておりました。度々フェズが問題を起こすのでその度にシモンが王都の平民向けの牢屋に入れられたフェズを迎えに行っていて、私は父の着替えを届けに行くついでにフェズに会っていたので、それでシモンにも会いました」


「出会いは分かりましたわ。それとわたくしのことはメイナで結構よ」


 物凄く雲の上の存在の方の名前を呼べ、と? いえ、嫌ですとも言えませんが。


「はい。ではお言葉に甘えまして。……シモンはどうやらフェズのお目付け役みたいなことも担っていたようでして。私とフェズは同い年ですが、シモンは私達の五歳年上で。私は彼の穏やかで物静かな所が好きになりました。私からの愛の告白をシモンは笑顔で受け入れてくれました。それから半年は仕事が忙しい中でもシモンとはよく会っていました。シモンは商会の仕事。私は成人しましたので、平民として男爵家の通いメイドを」


「あら? 話の腰を折りますが先の国王陛下主催の夜会ということは、貴族としての社交界デビュー……デビュタントを行ったのではなくて?」


「はい。最初で最後の貴族のセレモニーでした。メイナ様がご存知のように、一代限りの爵位ですから子には受け継がれません。父は男手一つで一人っ子の私を育ててくれました。私に兄弟は居ませんが生粋の貴族ではないので婿取りもしなくて良いことになってまして。しかし、父は私に貴族令嬢としての真似事をさせたいと思ってくれたのでしょう。デビュタントに出るように招待状を見せてくれました。デビュタント用のドレスは、亡き母が生きていた時に精一杯の物としてお金を貯めてくれていたそうで。一代限りの士爵の娘には本当に素敵な夜会でございました。あの夜会で貴族令嬢としての生活……と言っても全く貴族令嬢らしくなかったものですが……それに別れを告げて平民として生きていくためにメイドを募集していたとある男爵家で雇ってもらったのです」


「そう。苦労されたのね。……でもあの夜会から一ヶ月は経っていますわね? つまり平民生活も一ヶ月?」


「はい。殆ど平民のような生活でしたが。そしてその夜会の少し前からシモンには中々会えなくなり昨日、メッセージカードをもらったのが二ヶ月ぶりのことでした」


「そう。という事は、およそ八ヶ月前からシモンという殿方とお付き合いされていたのね?」


「はい」


 そう。シモンから二ヶ月ぶりのメッセージカードをもらって待ち合わせたのに、昼前から夕方まであの公園に居たのに会えないまま帰宅。そして今朝、私はフェズの実家である商会の泥棒として捕らえられてしまった……。尚、父が騎士爵を賜ったロードであることを捕らえに来た兵士は知っている上で、だった。

 そんな父はもちろん身内ということで家で監視付きで閉じ込められている。引っ立てられそうになった私を庇おうとして兵士から「罪人を庇うとはそれでも騎士か!」 と怒鳴られた。そして父はガックリと項垂れて私を見ていた。


「まぁ! なんてこと! わたくしの命の恩人であるロード士爵がそのようなお姿になられたと……?」


 私がそんな話をすれば、メイナ様は手で口を覆い衝撃を受けているよう。


「そして私は今朝兵士に捕らえられてから今まで、昨日は何をしていたのかずっと問い詰められておりました」


 シモンからメッセージカードをもらったこと、メッセージカードも提出したこと、それでも疑惑は晴れないので兵士が手足を縄で縛ったり両手の上に石を積み上げたり座っている膝の上に石を積み上げたりして、私の自白を引き出そうとしていたこと、それでも否定した私を牢屋に入れて反省するように、と此処に連れて来たことを話した。

 そして思う。


「そういえば私は、反省を促すために牢屋に入れられることになったはずですが……何故、こんな状況なのでしょう?」


 牢屋の床に絨毯が敷かれ、段々と痛みから解放されてきた身体を起こせば、白い上品な丸テーブルとソファーが置かれているのを見ることになるなんて思ってもみなかった。

 しかもそのソファーに優雅に座るのは公爵令嬢様。しかもどういうわけか紅茶も飲んでいて、檻が見えなければ、此処は貴人の一部屋みたいだ。もしかしてこれが噂で聞く貴人牢というものなのかしら。


「此処は普通の牢屋ですが、わたくしのお父様がわたくしを心配してこのように整えてしまわれましたのよ」


 それは……何と言えばいいのか。

 抑々、この方は牢屋に入れられても公爵様のお力で出られてしまう人だと思うのですが。整える前に牢屋から出るように対応した方が早い気がします。というか、そして何故私は此処に入れられたのか……。他にも牢屋はあるだろうに。


「あなたが此処に連れて来られたのは、わたくしが牢番に話を通したからですわ」


 優雅に紅茶を飲んでいたメイナ様が私の心を読んだように告げて、ニコリと微笑まれた。


「ええと」


 牢番に頼んだ、とは?


「わたくしが此処で過ごす間に、わたくしと同じように冤罪を着せられた相手がいたら、わたくしの話し相手にしたいから……と袖の下としてワインを融通しましたの」


 何でもないことのようにニコニコしながら、賄賂を送ったと仰るメイナ様が怖い。……でも、流石だなって思う。権力の正しい使い道かどうかは兎も角。権力と金に物を言わせたということなのだと思った。

 取り敢えず私がメイナ様と同じ牢屋に入れられた理由は分かった。手荒く牢屋へ放り投げられたけれど、放り投げた人が牢番だったのだろう。……手荒だったけど。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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