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1・何故此処に居るのか(ユニカ編)

 朝の鐘の音が鳴ってから少しして。

 久しぶりに恋人のシモンからメッセージカードを受け取ってウキウキと精一杯のオシャレをしてから、カードを持って出かけた。メッセージカードを持った意味は無くて、久しぶりだったから嬉しかった、だけ。待ち合わせはいつもの公園の噴水前。昼を知らせる鐘の音を待ち合わせ時刻にして、ということだった。

 メッセージカードには場所と時刻しか書いてなかったけれどランチ時だからレストランでランチデートかもしれないって思ってた。昼時で待ち合わせをしているらしい人は他にも居たし公園内を散歩している人も何人も居た。でも、シモンは待ち合わせ時刻から数時間経っても来ない。

 時計なんて高価な物を平民やお金がない貴族は持ってないから、王国の中央にある王宮内の鐘が時刻を知らせる役割を持っている。その音色は王国内の隅々まで届く大きな鐘の音で朝・昼・夕方・夜中の四回で一日を知らせる。日が変わるのは夜中の鐘の音。一日の始まりは朝の鐘の音。一日の終わりは夕方の鐘の音。昼の鐘の音はランチ時。仕事によってランチ時は違うけれど、でも昼の鐘の音はランチ時を知らせる意味がある。

 そして私、ユニカはその昼の鐘の音から夕方の鐘の音まで、ずうっとその公園に居た。

 お金がある裕福な平民や貴族はお抱えのメッセンジャーボーイが居るけれど、お抱えが居ない平民と貴族は王宮で頼むか、王宮から依頼されて仕事にしているメッセンジャーボーイに頼むのが普通。王宮から依頼されて仕事にしているメッセンジャーボーイは各地に拠点があってそこへ依頼に行く。王都だって貴族は王宮で頼めるけれど平民は王都にある拠点へ頼みに行くわけで。

 つまり私はメッセンジャーボーイにシモンへのメッセージを託しに拠点へ行けず、ずっと夕方の鐘の音まで公園で待ち続けた。

 久しぶりだったから、遅刻しているのかもしれない、と考えて。此処から離れたらシモンに会えないかもしれないって考えてしまって。だからその場を離れられなかった。


「成る程。それが逆にあなたの立場を悪くしてしまったのね?」


 何故、此処に居るのか問われた私は、分からないのです、と首を振りながら昨日の出来事を振り返っていた。

 取り留めない私の話を辛抱強く聞いてくれている相手は、私が意識を失う直前に見た可愛らしい少女。気が付いたら彼女が私をジッと見ていて、微笑んだと思ったら問われたから話を始めていた。なので、互いに自己紹介をしていない。


「多分、先程まで問い詰めていた兵士は、私を嘘つきだと思っていたみたいで」


 彼女の質問に曖昧に答える。

 本当に何故こんな状況になっているのか、私自身がさっぱり分からない。


「そう。……あなたの名は? あ、わたくしはメイナ。メイナ・ルッキオよ」


 メイナ・ルッキオ。

 その名を聞いて私は、ハッとした。

 実は私には前世の記憶がある。生まれた時から。

 ラノベでよくある異世界転生ってやつ。日本人の女の子で年齢は大学生くらいだった。病気で余命宣告を受けていたので死にたくないと思いつつも、半ば諦め受け入れていたから、転生した時は嬉しかった。健康な身体だからやりたいことを諦める必要もないし。そして恋もしてみたかった。

 そんな私の楽しみがマンガでメイナ・ルッキオという令嬢が出てくるマンガも読んだ。……確かにこの見た目はあのマンガそっくりだ。性格は違いそうだけど。

 マンガのメイナは我儘かつ傲慢かつ高飛車だった。悪役令嬢と言われても納得出来るくらいの。でも生まれ変わってみて分かる。公爵家の令嬢だもん。蝶よ花よと育てられただろうし、誰も彼女とその両親には逆らえないだろうし、高位貴族ならプライド高くて当たり前というか、そうじゃないと権力に擦り寄る相手を一蹴出来ないだろし。

 だからそんな性格をしていても納得出来るというか、そんな環境なら性格もそうなるよねって転生したら納得出来た。だから、彼女が罪を犯して牢屋に入れられたって噂を聞いても、あの性格だもんねって納得した。……でも環境が環境なのだから牢屋に入れられるなんて、彼女からすれば有り得ないのだろうなって思ってもいた。

 だって親の権力があれば罪なんて揉み消せそうだし、彼女のプライドを守るための罪なら、寧ろ彼女からすれば何が悪いの? と思うのだろうし、と。だから、彼女が素直に牢屋に入れられたのには驚いた。

 ……いや、素直に入っているというのには語弊がありそうだけど。


「どうかした? わたくしを知っているの?」


 私がハッとしたことに気づいたのだろう、メイナが私をジッと見る。その目は観察者のもので、あまりにも冷徹。先程まで私の話を辛抱強く聞いていた時に浮かんでいた温かみのある目が消え失せていた。

 私は直感的に、コレは危険、と判断する。答えを間違えたら首と胴が離れそうな気がした。私はまだ生きたいので正しいだろう答えを探した。


「はい。私はユニカ。ユニカ・ロード。騎士爵を父がもらったので一代限りですが準貴族でございます。先の国王陛下主催の夜会には、貴族の末端として参加しておりました」


 だから、あなたを存じています、と言外に告げるとメイナの目が観察者のソレから温もりのある目に戻った。


「ああ、そういうことでしたの。あなたは、ロード士爵(騎士爵のこと)のご令嬢でしたのね」


「ご令嬢と呼ばれる程のものではないのですが、高名なルッキオ公爵令嬢様におかれましては、父をご存知とは思いませず……」


「ああ、そんな堅苦しくなくてよくてよ。名乗る前のように気楽にして頂戴な。ロード士爵のことは存じておりますわ。だってあなたのお父様に幼い頃のわたくしは命を助けられたのですもの」


「ああ、そういえば……」


 私の父が名も無き一人の兵士から一代限りの騎士爵を与えられたのは、当時第一王子と婚約を結ばれたばかりのルッキオ公爵家の令嬢・メイナの命を守ったことによった。彼女は第一王子の婚約者だけでなく王家の血を引く令嬢で順位は低いが王位継承の順位も得ている。我が王国は男女問わずに王位継承権が発生する。


「そう……。あなたがロード士爵の娘さんでしたのなら、あなたをこのような所に居させるわけにはいきませんわね。では、もう少しあなたの話を詳しく聞かせて下さいます?」


 キラリ

 そんな擬音が聞こえそうな程、メイナの目が光ったように見えて私は目を瞬かせ……あ、蝋燭の灯りの反射よね、と安堵した。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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