3・困った事態(メイナ編)
「まぁそれで、亡き第三側妃の背後に居た者を誘き出そうにも先に第三側妃に毒杯を与えてしまっては誘き出せるわけがないのよね……」
良くも悪くも王妃殿下に執着している国王陛下が、第三側妃と第四側妃をあっさりと始末してしまったものですから、背後関係を追えなくなってしまい、わたくしの婚約もそのままになってしまいました。
第三側妃は表向き病気でこの世を去ったわけですから第三側妃は瑕疵も無いわけで。当然、それをもってこの婚約が解消出来るわけがありませんのよ。
お陰で顔だけは良い無能がずっと婚約者のまま、になってしまってどうやって解消すればいいのか、第三と第四側妃が居なくなってから頭を悩ませまして。陛下、お恨みしたいですわ、と思いましたのよ。今でもその気持ちはありますわ。
まぁ第三と第四を処分してから公爵家の怒りに気づいて非公式ながら謝っては頂きましたけど。流石に王妃殿下にしか興味が無い陛下でも、仕事は出来ますから我が公爵家と事を構えるのは得策とは言えない、と判断致したのでしょう。
そう、仕事はお出来になります。こういった判断力に長けているお方です。
地方貴族派だってその気になれば抑え込めるお方ですし他国からの評価も高く、その評価は裏を返せば争い事に関わったことがない国ですが、陛下がその気になれば我が国有利で戦を終結させるだけの手腕があるので、警戒している……という意味を含んだ評価ですわ。
ただ、王妃殿下に関しては狭量になるし、いつも以上に冷酷になるだけで。
それにしても……謝られてしまったら許さないわけにはいきませんわよね。仕方ないので当初の目的通り、背後関係の洗い直しをして処罰を与える者は与えて、婚約を破棄させて下さい、としか言えませんでしたけどね。
とはいえ、第三側妃と繋がっていただろう推測される貴族も、第三側妃と第四側妃が相次いで病死してしまったことに何か不穏な物を感じ取ったのか、大人しくなってしまって……証拠が無くて動けなかったので、今の今まで状況が変わらず。でも。
「今回、第五側妃とナナハが動いてようやく背後関係の証拠が掴めそうですわ」
「はい。旦那様が全力で証拠を探しておりますので、直ぐにでも。これでお嬢様の婚約も無くなりますね」
イリンが笑ってそのまま滞在しそうだったので、わたくしが明日、また来てね、と告げると、それでは、また、と頭を下げて去って行くのを見送りながら早く終わるだろうと思ってました。
……そう思っていたのですが。
この会話は夜会が終わった直後のこと。この時のわたくしは精々五日も掛からずに全てが露見し、もう少し滞在したかった……などと思いながら牢屋を出るものだと思っておりました。
まさか、ここから膠着状態が続くなど、わたくし思ってもみませんでしたわ。
それから三日。
イリンは毎日顔を出してますが、本日は随分と硬い表情ね、と思ったのも束の間。
「お嬢様、旦那様が暫く出してやれない、と」
わたくしは目を一度だけ瞬かせました。
「それは?」
お父様の真意が読み取れず内心で困惑します。イリンは目を一度伏せてからわたくしに告げて来ます。
「第五側妃は既に毒杯を。ナナハは、父親を探し出してナナハの父親に責任を取らせるか、第五側妃の父親に責任を取らせるか、ということで二人に責任を取らせるべく地方貴族派の第五側妃の実家へ戻されました。此処まではご存知の通りでございます」
「ええ。その後ナナハは、第五側妃の父親が、ナナハの実の父親にナナハを押し付けた、とも。それでナナハの実の父は既に家庭を持っているから、夫婦間は最悪だしナナハは父親に疎まれて、使用人として家に置いてもらっている……だったかしら? それも下女としての採用だから父親のはずの男の視界にも入らないように生活させられている、とか」
わたくしはあっという間に決まったナナハの処遇を思い返しました。
「はい。第五側妃とナナハはそのような処遇に。しかしながら、第三側妃が産んだエビルの父親も未だ分からず、第三側妃が繋がっていただろう貴族が掴めず、エビル自身も中々尻尾を掴ませない、と」
「そう……。でもまだ三日だもの。少々時間がかかっても仕方ない、とお父様にお伝えして」
そう伝えてから、毎日訪れるイリンの顔色が少しずつ悪くなり……二週間後には、到頭声を振り絞って
「未だ、繋がりの貴族も実の父親も不明です」
と血反吐を吐くように告げて来ました。
「珍しいわね、お父様が梃子摺るなんて。どうして?」
わたくしは気にしないように、と常と変わらずにイリンへ対応しましたが。
「旦那様が仰るには、エビルの周囲に旦那様を欺ける程、賢い者が居る、と……」
わたくしは今度こそ、言葉を失いました。
お父様は公爵家の当主ですが、国王陛下の相談役を務めているような程に賢いお方です。そのお父様が梃子摺る程に賢い人がエビルの周囲にいた、と?
そんなこと、わたくしは知りませんわ。思い当たるような人物が思い浮かびません。一応、長く婚約者をしておりますのよ?
「旦那様もそんな切れ者を知らない、と仰っておいでで。だからこそ考え込まれています」
「そう。困った事態、ね」
わたくしはお父様より賢くて状況を読む力に長けている人間を知らないので、警戒心が沸き起こりました。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




