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旅行日和の幻想郷  作者: すらいど
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夢現境界 -博麗神社・弐-

 

「ごめんなさい、取り乱したわね。えーっと……」


 二日酔いに苦しむ酒飲みのように額に手を当てる霊夢を見て、あなたは自分の過失をようやく思い知った。


 あの小袋は新しい世界に降り立った時、その世界に合わせた通貨がいくらか入る道具だ。


 それに一工夫加えることであなたの資金源は半ば無限に等しい事になっているのだが、そのせいであなたの金銭感覚はとっくにぶっ壊れている。


 とはいえ、それにしたって配慮が足りなかった。こんなことを繰り返していたら間違いなく悪目立ちしてしまうだろう。5円ではなく5銭にするべきだった、と後悔するも後の祭りだ。


「と、とりあえず、お茶入れるわ。あなたも良かったら飲んでってください」


 霊夢はそう言うと、あうんに支えられながら近くの母屋へ引っ込んで行く。


 しかし大金を見てあれほどまでに錯乱するとは、彼女は普段どのような生活を送っているかと少し心配になってきた。

 神社で働いている人が裕福であるという話こそ聞いたことはないが、まさか食うや食わずの生活をしているわけではあるまい。──多分、きっと、恐らくは。



 ◆



 湯気が立ち上っている湯飲みを挟んであなたと霊夢は縁側に座る。あうんは霊夢が正気に戻ったのを確認すると、神社の見回りに戻るといって駆けていってしまった。どうやら彼女は神獣と呼ばれるここの守護神だったようだ。結局妖怪は勝手に入ってくるし、仕事ぶりはお察しの通りですとは霊夢の談である。

 霊夢は静かに緑茶をすすって一息つく。あなたも渡された湯飲みを丁寧に持って、同じようにすすった。


 熱い物が舌に流れ込んだ瞬間、あなたは体に電撃が走ったかのような錯覚を覚えた。

 まさかそんなことはないだろうと、確認するようにゆっくりと味わってから何事もなかったかのように湯飲みを置いて、一呼吸。


「ふうー……お茶が美味しいわ……」


 ……薄い。ご馳走になっている身で文句をいうのは(はばか)られるのだが、それにしても薄い。ギリギリ緑茶の味がしているような気もしなくもないが、それくらい薄い。ほんのり緑色のお湯と揶揄(やゆ)できる。……それ以上に薄い。

 あなたの隣にいる霊夢はしかし、美味しそうに顔を綻ばせながらそれを飲んでいた。あなたは金銭感覚はぶっ壊れていても味覚まで捨てた覚えはないのだが。

 一応説明しておくと、緑茶は急須で入れているようなので茶葉の配分が違うということはありえない。あなたと霊夢の湯飲みに入っている物に差異はなく、正真正銘めちゃくちゃ薄い茶だ。


「今日はいつもより奮発して濃いめに淹れてみたんですけど、どうですか?」


 ちょっと何言ってるか分からない。あなたは本気でそう言いたくなった。

 喉の手前まで出かかった言葉を緑茶で押し込んでから、苦笑いを浮かべる。いや、緑茶は全然苦くないのだが。

 などと誰かに喋ってみせたら大笑い必至のジョークを言っている場合ではなく、悲しいかなここに至るまでに様々な世界の物を食べたり飲んだりしたおかげで味覚すらも壊れてしまったらしい。かえでの店で出された物の味をしっかり感じられたのは奇跡か何かだったのだろう。多分、きっと、恐らくは。


「味覚壊れるほどって、一体何食べて生きてきたんですかあなたは……」


 そんなことを冗談交じりに話してみた所、霊夢の感想がこれである。質問をそっくりそのまま返しかけたが、これも緑茶を力強く飲み込んで抑え込む。

 恐らく霊夢は相当薄味が好きなタイプなのだろう。そしてそれが生活の基準となっていつのまにか考え方が変わってしまったのだ。そう思わないと可哀想でやっていられない。

 あなたは、ここに来てから初めて飲んだかえでの麦茶が恋しかった。


「改めて、私は博麗霊夢って言います。幻想郷において……そうね、結界を管理してる巫女です」


 霊夢は湯呑みを置いて、そう切り出した。話を聞くに、幻想郷は外の世界……いわゆる日本と隔絶された空間であり、そこで忘れ去られたものが最後に流れ着く場所らしい。間接的とはいえ、故郷に限りなく近い場所に帰ってきていたことにあなたは少なからず驚いた。世界を渡り歩く力をもらう際に、二度と自分の故郷に帰ることはできないと注意されたはずなのだが。元に、あなたは過去何回も故郷に帰りたいと願ったが、一度もそれが叶ったことはなかった。


「外の世界から来たっていうんなら、私が送り返すこともできますけど、どうしますか?」


 そんな申し出を、あなたは首を振って丁重に断る。帰りたいと願ったのはこの旅が始まってからまだそれほど時間が経っていなかった頃の話で、もはやあなたにそんな気持ちはない。元々運命に従って行き先が決まっているのだ。いつの日か、帰れる日が来てしまうことだろう。

 この世界の中心人物と思われる霊夢には語っておくべきかもしれない。自分から触れ回る話では決して無いが、絶対に隠さなければならないものでもない。あなたは自分の力について、そして自分が何をしているのかについてをなるだけ分かりやすく話してみた。


「色々な世界を渡り歩いている……か。凄いことしてるんですね、あなたは」


 一連の話を聞いた霊夢は驚くほど冷静だった。緑茶をすすって一息つく余裕さえある。


「知り合いにそういうことできそうな奴がいるんですよね。だからってわけじゃないけど……まぁ、あんまり興味がないからかな」


 ──興味がない。あんまりといえばあんまりな物言いだが、しかしあなたは図らずも吹き出してしまった。年端も行かない少女がまるで隠居している老人のような事を言っているのだ。あまりのギャップについ笑ってしまったが、それと同時に霊夢という少女がどういう人間であるのかをなんとなく理解する。


「ちょっと、何笑ってるんですか」


 ムッとした霊夢の文句にあなたは愛想笑いで取り繕う。ずいぶんと達観している女の子だな、などと月並みな感想を抱きながら。


「あ、一応言っておきますけどさっきみたいに大金ぽんと出したりはもうしないでくださいよ。幻想郷の財政が大混乱するんだから」


 それについては申し訳ございませんでした。以降は必ず財政に影響がほとんど出ない程度の出費に抑えるという約束を交わす。


「まぁうちとしては大助かりだったけど……というか何よお金が無限にある袋って。なんでそんな素晴らし……いや、背徳的な……良いものを持ってるのよ」


 まるで極上の肉でもおあずけされているかのようなジト目で霊夢はあなたの手元にある袋を睨んだ。欲求と道徳的な良心の間で何かが揺れているようだが、残念ながらこれを渡すわけにはいかない。

 厳密に言えばあなたの無限に近い資金源の正体は袋ではなく、【フエールピッケル】という異世界の道具の恩恵だ。あなたが行ったことのある世界の一つで発見されたもので、その時に相当数確保してきている上に他の道具で増やしまくっている。


「ふ、ふえーる……? っていうか、結構あっさり教えてくれるんですね……」


 なぜピッケルの形をしているのかとかどういう原理なのかなどはあなたの知るところではないが、ともかく性能としては指定したものを増やすというシンプルな道具だ。あなたは新しい場所に来た時には必ずこれを使っている。


「はぁ!? なんですかそのインチキ道具! そんなののべつ幕無し使ったらとんでもない事になるじゃない!」


 驚愕の表情で立ち上がる霊夢の言う通りである。だからあなたはこれを乱用しようとはあくまで考えていないし、完全に無限であるという風にみなしてもいない。いずれにせよこれがなければあなたの旅は立ち行かないので、捨てろと言われても無理な話なのだ。どうか見逃してほしい。


 今回は自分の過失で驚かせてしまったので、あくまで不必要な懐疑心を抱かれないためにタネ明かしをしているに過ぎない。


「……捨てろなんて言いませんよ。妙な物増やそうとしない限り別に咎めたりはしませんから安心してください」


 あなたはそれはもちろんだと笑いながらうなずいた。実は次の世界に持ち越せるお土産があったらこっそり増やして保存してしまおうかと考えているのだが、それは気づかれなようにやれば良いだろう。


「ま、基本的に問題起こさなければ、ここはあなたを歓迎しますよ」


 いつの間にか緑茶を飲み終えていた霊夢が縁側からぴょんと立ち上がり、あなたの目の前まで移動する。

 幻想郷の空の下、霊夢は少しだけ微笑んで。


「私が言うのもなんですけど……ようこそ、幻想郷へ」


 と、言うのであった。言ってから恥ずかしそうにそっぽを向いて、お茶のおかわり入れてきますと母屋の方へ引っ込んでいってしまった。ああいうところは中々どうして、年相応の物腰という感じで可愛らしい。あなたは一人、緑茶の残りを飲みきってから微笑んだ。


「──い、霊夢ー」


 そうしてしばらく霊夢の帰りを待っていると、あなたの頭上に声が振ってきた。声は随分遠いが、明らかに()から聞こえてきている。あなたは音の聞こえるまま正直に目線を頭上に向けた。


「おーい留守かー……って、なんだ? 博麗神社に参拝客とは珍しいな。あんた、今日は特にイベントとかはやってないぜ?」


 空を見れば、文字通り頭上に浮かんでいる箒に乗った金髪の少女が、あなたを見下ろしながら滑空していた。



-異世界お土産名鑑-

【フエールピッケル】

採掘には使えそうにもない小さなピッケル。

コレと何かを調合すると、調合した対象が物の価値によって1~10個まで増える謎アイテム。ちなみに一部生き物やモンスター素材には使えない。

これさえあれば必須級の鉱石にも虫にも困らない超便利アイテムであることは間違いないのだが、どの作品でも入手経路が極端に少なく、狙って集めに行かなければ量産はできないので結局はロマンアイテムの域を出ない。

出展:モンスターハンターP


【はじまりの財布】

ある時から異世界にたどり着くと必ずその世界の通貨が入るようになった普通の小袋。

通貨の存在しない世界では機能しない。

厳密にいえば財布自体にこの効果はなく、あなたには「冒険の資金」という特殊な能力が備わっており、その効果によって資金を得ている。

出展:振り返りません勝つまでは




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