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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

完全なるサブミッション

穂丸はアキラたちと合流した。

「おっ、穂丸、コレ見ろよ!」

アキラがどこからか拾ってきた雑誌だった。

男同士が絡み合っている。

「なんだよこれ、きもちわりーなー!」

アキラが顔を赤らめた。

「バカやろう!何考えてんだ!これは関節技だよ!」

「カンセツワザ!?」

「そうだよ、サブミッションだよ」

関節技とは。

相手の関節を極める「きめる」ことによって身体を制圧する技のことである。

「手をこんなふうに」

アキラは穂丸の手首を掴んだ。

「あ、いてててっ!」

「こうすると」

「う、うわわっ!」

「もう身動きがとれないだろ?」

「ほ、本当だ、これは凄いや!」

「殴ったり蹴ったりするより強力だし、しかも相手を傷つけない」

「でも、いてーよ」

「そこは加減だから、やりすぎなきゃ大丈夫だ」

「やりすぎたら?」

ミクルがページをめくった。

「関節が砕けて障害が残ったり、下手したら死ぬわな」

「殺してしまうのは、もう格闘技とはいえないだろーが!」

「そうさ、だから、キメられた、と思ったらすぐに参ったする勇気も必要だわな」

「試合で根性見せるのも大事だけど、競技が続けられなくなったら意味がないもんな」

「これなんか見ろよ」

チョークスリーパーという技だった。

裸絞ハダカジメとも呼ばれる。

背後から腕を首に回して、締め上げるのだ。

「首を絞めるなんて、死んじまうよ!」

「ああ、だから、シメたら秒数を数えないといけない」

「と言う前に、キメられたらすぐタップだよ」

「かといって光速のタップはダサいけどな!」

はははは!とアキラたちは笑いあったが穂丸はいまひとつ乗り切れない。

(関節をキメて相手を服従させる、で、サブミッション、というわけか。)


ミクルの家についた。

一流企業社長の御曹司ミクルの家のリビングには超巨大なテレビがあった。

動画を再生した。

各種の関節技の映像が展開された。

穂丸も前のめりで見守った。

「すっげえな!」

だけど……。

「男同士で練習するのは、ちょっと……」

アキラとミクルも頷いた。

「それなんだよなぁ。」

どうしても身体を接触させなければならない。

アキラが明るく言った。

「だから女子に協力してもらうのさ!」

「ええっ!おまえ、アテがあるのかよ!?」

「ああ、豊満女子校の女の子に頼んでみるのさ」

「何いってんだよお前、いつもフラレてるくせに!」

「ははっ、まぁな、関節技の練習っていえば、絶対オッケーしてくれるはずさ!」

さっそくアキラが端末を操作し始めた。

通信アプリで何やらメッセージを送っている。

その顔に笑みが浮かんだ。

直接通話にこぎつけたのだ。

「そうそう、頼むよ。いやいや、そんなのじゃないって、あくまでも練習!関節技の!健全な護身術だから女子にもタメになるって!」

アキラが会話をオープンにした。

「ほんとにただの練習会なの!?」

この声はゆいりーだ。

穂丸の胸は高鳴った。

ゆいりーが、背後から首に腕を絡めてチョークスリーパーだなんて。

俺、失神しても良いかも?

「穂丸!」

「えっ、、な、なに!?」

おまえこっちこい、と言われていきなり端末を向けられた。

ゆいりーの顔が映っている。

「あ、穂丸くん、久しぶり!」

「お、おう、ゆいりーも元気そうじゃん」

ゆいりーの後ろから優香が覗き込んできた。

「えっ?この子が穂丸くん!?え、え、噂に聞いてたよりずっと可愛いじゃん!」

「ちょっ、なにいってんの優香」

「えー、なーにー?ゆいりーが一番いつも、かっこいいって言ってるんじゃん!」

「ちょ、もう!何言うのよいきなり!穂丸くん、気にしないでね!」

アキラが鋭い目を向けている。

「テメー穂丸、いつの間に!?」

「いや、まってくれって、なんでもないっての」

ミクルが割って入った。

「まぁまぁ、待てよ。アキラ。お前も穂丸を連れてきたのは、こいつがイケメンだから、女の子たちにもウケがいいはず、と思ったからだろ?」

「ま、まぁな。だけどゆいりーが」

「そういうなよ。他にも可愛い子はいるじゃん。優香だって、豊満だぞ」

「ちょーっと!男子部ー!なにコソコソ話してるのー!?」

「あ、いや、ちょっと。できれば、あと一人いたら、3対3のマンツーマンで練習できるかなぁって」

「ほらちょっと、あんた来なさいよ」

「ちょーっと、やだー!」

優香が画面外にいた蘭世ランゼを画面に引っ張り込んだ。

細身で色白、つややかな黒髪、いかにもなTHE・お嬢様だ。

「このこがアキラくんのこと小学校の頃からスキなんだってー!」

「ちょーっともうー!やーめーてーよー!」

アキラがミクルに向き直ると神妙な顔でいった。

「お前は優香とペアな!」

ミクルが肩をすくめて余裕の表情なのは、さすがお金持ちの御曹司だけのことはある。

「へーへー、お好きに」


「いやぁ、こんなにうまくアポが取れるなんてな」

「よかったなアキラ」

アキラがまた神妙な顔で穂丸にいった。

少し涙ぐんでいる。

「ゆいりーのことは任せたぞ!」

「ちょっと待てよ。そんなあれじゃ、ないだろおー」

といいながら穂丸もまんざらではない。

ミクルはしょうがねえなという顔で笑っていた。

あくまでも関節技の練習会なのだ。


それにしても。

と言うと再びアキラが動画を再生した。

「鮮やかなもんだなぁ」

達人たちが見事に相手の重心を崩し、関節をとり、固めて、制圧していた。

「技に入る前の「崩し」のほうが難しそうだぞ」

「観ただけではマスターできないな。何度も繰り返さないと」

「こうやって動画でみただけでマスターできたのが、あの初代タイロン・マスクの佐竹豪らしいぜ」

「ひえー!さっすが初代タイロン、佐竹先生は格闘技の天才だな」

穂丸はうなずきながら呟いていた。

(観ただけで、マスター、か。すげえな)

ミクルが言った。

「そういえば佐竹先生は言ってたな、これは特別な才能じゃない。誰だって覚醒できるんだって」

アキラが頬を紅潮させていた。

「ってことはよ、俺にも能力が眠ってたりするわけだな!突然、バーッ!と目覚めたり!」


豊満女子校のゆいりー、優香、蘭世との関節技練習会は3日後と決まった。


「じゃ、またな!」


アキラたちと別れたあとも穂丸は興奮しっぱなしだった。

ひとつは関節技の凄さ。

もうひとつは。

「あの村木ゆいりーが、俺のことを」

ひゃっほー!!


大きく深呼吸して頭を冷やした。

(ふぅ・・、にしても、観ただけで複雑な関節技をマスターできる能力か。)

アキラのヤローが一番ありそうだな。

あいつのノリの良さは天才的だし。

おかげで俺もゆいりーと。

と思うと笑顔がまた溢れてきた。


3日後が待ち遠しくてたまらない。


若い警察官がバイクに乗っていた。

穂丸と目があった。

あまり穂丸とトシが違わない。

(俺も学校卒業したら、警官にでもなるかな?)

(公務員だし。悪いやつやっつけて)

(そして、ゆいりーと笑みの絶えない温かい家庭を)

なんつって!

また笑みが浮かんできた。

警官はじっと見ている。

穂丸は慌てて目を離したが、なぜか気になる。

若い警官もじっと穂丸を見ている。

(なんなんだよ?)

警官がバイクを歩道に乗り上げるように行く手を遮った。

(チャラチャラしやがって、とでも思われた?)

(こっちは暑い中勤務してるのに、女子部との関節技練習会を思ってニヤニヤしてたのが気に触った?)

警官は穂丸に詰め寄ると言った。

「持ってるもの全部出して」

「え?なにそれ?」

「やましいことがなければ出せるでしょ!?」

「なんも持ってないっすよ」

「じゃ、早く見せて」

その言い方に穂丸は腹がたった。

「やーだーよー!令状あるの!?」

「職務質問に令状いらない」

「任意ですか強制ですか!?」

「市民からは協力してもらってる」

「任意なんでしょ!だったらどきなよ!」

「なんでそんなに頑ななの?怪しいものもってるんじゃないの?」

(もしやこれがオタク狩り?)

無理やり職務質問して十徳ナイフなどが出てきたら容赦なく微罪検挙する悪質な点数稼ぎだ。

というより、この警官の個人的な憂さ晴らしに思えた。

「オタクじゃねーし!!」

「だったら見せて」

「わーりましたよ!」

財布と鍵を出した。

「そっちの、下のポケットは!?」

「えっ!?」

作業パンツ風のカジュアルパンツには腰のポケット以外にも膝横にポケットがあった。

穂高は手を伸ばした。

(何が入ってたかな)

カチリと手の先に触れる硬さがある。

(しまった、この前釣りに行ったときに使った十徳ナイフが!)

「早く出して!」

「なぜ出せないんだ!?」

「早く!早く!早く!」

穂高は最後に早く!と言われた瞬間、ナイフを取り出すと、握り込んだまま警官の鼻の下に叩きつけた。

ぎゃっ!とのけぞった警官の身体に「崩し」を入れると、そのまま腕をねじりあげつつ、ヒザ下に蹴りこみながら、自らの体重を勢いのまま浴びせた。

スピンしながら同体となって警官の身体を地面に引きずり倒すと、そのまま一層強く腕を絞り上げた。

ぎゃあああっ!!

手首も腕もしっかりキマっている。


穂丸は初代タイロン・佐竹豪の、そして友人たちの言葉を思い出していた。

「誰にだって覚醒できる」

「俺だって、バーッ!と目覚めたり」

本当だった!!

できるんだ!!

会心の笑みが穂丸の顔一面に浮かんだ。

腕のサブミッションを敢えて解いたときに生じた空間をねらって、動きを予測しながら、それに沿うように首に手を回した。

チョークスリーパーがガッチリと決まった。

素早く、かつ、ゆるやかに締め上げるのがコツだ。

警官が何度もアスファルトを叩いている。

光速タップだ!

穂丸は押さえつけた警官の腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、その後頭部に押し付けて引き金をひきしぼった。鈍い破裂音がして警官の動きは停まった。

完全なるサブミッションが決まった。

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