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桃に願いを  作者: ぽんきち。
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トイレの神様

-数日後-

藤堂に声を掛けられてから、桃子は藤堂の事が気になってしまうようになった。

藤堂の声や動きを、自然に目で追ってしまう。


そんな桃子の様子に、少しずつ桜も気づいていった。

「桃ちゃん、もしかして…」


そんなある日-

体育の授業で、桃子のクラスは男女に分かれて、バスケットボールをする事になった。


運動が苦手な桃子は、ボールが殆ど回ってこない。

やっとボールが回ってきて、ドリブルをした時、足がもつれて転倒し、少し足を捻ってしまった。


「小谷!大丈夫か?!」先生が呼ぶと、

桜が「先生、保健室行ってきます!」と、桃子を連れて保健室に向った。

その様子を、藤堂が見つめていた。


「桜ちゃん、ゴメンね」と謝る桃子に、

「桃ちゃん、大丈夫?気にしないで」と桜は言った。


保健室に着いて、養護教諭に湿布を貼ってもらい、少し足を引きずりながら、桃子と桜は教室に戻った。

体育の授業が終わって、今から教室の掃除だからだ。


クラスの皆も教室に戻ってきて、机を後ろへ持って運んでいく。


桃子も、自分の机と椅子を後ろへ持って運ぼうとした時、スッと桃子の机と椅子が後ろに運ばれた。


「ありがとう、桜ちゃ…えっ?」


桜が運んでくれたのかと思っていたら、藤堂だった。


「あの…あ、ありがとう」

びっくりした桃子は、そう言うのが精一杯だった。


「足、大丈夫?無理しないで。」

そう言うと、藤堂は手際よく掃除をして、桃子の机と椅子を元へ戻した。


桃子は顔も体も熱くなっていくのを感じて、なんとか落ち着こう、と手にした雑巾で、まるで雑念を拭い去るように窓を拭いた。


しかし、ドキドキはなかなか止まらなかった。


「藤堂くーん、これお願い!」

クラスの女子が藤堂を呼んだ。

藤堂の周りには、男女問わず、いつも人が居て笑顔が溢れていた。

クラスでも人気者の藤堂の姿が、桃子には眩しく映った。


ホームルームが終わり、桜は図書委員に、桃子は清掃委員の仕事に向った。

桃子は運動場のトイレに着くと、不思議と気持ちが落ち着いた。


いつもより時間がかかってしまったが、トイレの掃除を終えて、記録用紙に記入して、壁に引っ掛けた。

手を洗っていると、


「小谷桃子よ…。」


と声がして、天井が光っている。


びっくりして天井を見つめていると、光り輝く小さなおじいさんが天井から降りてきた。


「私はこのトイレの守り神じゃ。いつもそなたは、綺麗にこのトイレを掃除しておる。お陰で私は快適に過ごしておる。」

トイレの神様は、笑顔で桃子にそう言った。



びっくりして呆然とする桃子に、トイレの神様は笑顔を絶やさずに続けた。


「そなたには、礼として、私の力を少し授けよう。

そなたの大切な人の願いを、1つだけ叶える力じゃ。」


そう言うと、トイレの神様は、桃子に手をかざした。

すると、桃子の体が光り輝き、トイレの神様は消えていった。


「何だったんだろう…?」

桃子は状況が全く分からないまま、きっと疲れてるんだ、と思い、教室に戻っていった。


教室に戻ると、桜が桃子を待っていた。


「ごめんね、遅くなって…。」

桃子が言うと、


「全然大丈夫だよ。それより、足、大丈夫?」

と、桜は心配そうに桃子に尋ねた。


「だいぶん痛みも引いてきたから、もう大丈夫。ありがとう。」

桃子は桜に笑顔で応えた。


「じゃあ、帰ろっか。」

桜が言うと、桃子は頷いて、2人は校舎を出た。


校舎を出ると、運動場が見えた。

サッカー部が練習している。


思わず、桃子は運動場のサッカー部の中にいるであろう、藤堂の姿を探してしまった。

その様子に、桜は気付いて確信した。


「桃ちゃんさぁ、藤堂君のこと好きなの?」

桜が言うと、


「ほぇっ?!」と桃子は変な声を出して、みるみる顔が真っ赤になった。


「桃ちゃん、顔真っ赤だよ…。

そっかー。藤堂君、優しいもんね。もっと仲良くなれたら良いね。私、協力するよ!」

と、桜は桃子の手を取って言った。


「…うん…ありがとう。」

桃子は顔が真っ赤になりながら、桜に伝えた。


暫く2人は歩くと

「じゃあ、私今からバイトだから、ここで。」

桜が桃子に言った。


「桜ちゃん、ありがとう。お仕事頑張ってね。」

と桜に言って、桃子は祐太の待つ保育園へと向った。



祐太を保育園から連れて帰り、桃子は帰宅してから、急いで夕食を作った。 


正親はいつも仕事が忙しく、夕食の時間には間に合わない。


そのため、今日も、桃子は祐太と2人で夕食を摂り、お風呂に入れて、祐太の歯磨きの仕上げをした。


祐太が布団に入る直前に、正親が帰ってきた。


「ただいま。おっ!祐太、間に合った〜」


正親は祐太を抱きしめると、嬉しそうに言った。


「お父さん、お帰り!」

祐太も嬉しそうに言った。


正親が、「でも…もう寝る時間だね、おやすみ」と、少し残念そうに言うと、


「おやすみなさい」

と、祐太も残念そうに、布団に入っていった。


「お父さん、お帰りなさい」

桃子が正親に声をかけた。


「ただいま。桃子、今日もありがとな。いつもすまないな。」と、正親は言った。


「あとの片付けとかしておくから、桃子はもう、自分の時間に使って良いよ」

と、正親は桃子に微笑みながら言った。


「ありがとう。…じゃあ、そうするね。お父さんも、ゆっくりしてね」

と、桃子は正親に言うと、自分の部屋に向った。



桃子は、先日、桜と一緒に上杉先輩からお勧めされた参考書を片手に、数学の予習をした。


予習が終わると、今日1日の出来事が、頭の中にいっぱい溢れ出てきた。


藤堂君のこと、そして…

トイレの神様に、出会ったこと。

あれは、幻だったのかな…。

大切な人の願いを1つだけ叶える力、か…。


いろんな事で、頭が一杯になった桃子は、

「寝よう!」と、とりあえず寝ることにした。



-翌日-

授業が終わって、桃子は運動場のトイレに行った。

清掃委員の仕事の時間だ。


昨日出会ったトイレの神様は、一体何だったんだろう。


そんな事を考えながら、掃除を進めていく。


掃除が終わって、手を洗っていると、


「小谷桃子よ。」

と声がした。


昨日聞いた、トイレの神様の声だ。


声のする方へ振り返ると、小さなおじいさんの姿のトイレの神様が、トイレの小窓に腰掛け、笑顔で桃子を見下ろしていた。


「今日も綺麗に掃除をしてくれて、ありがとう。

そなたとは波長が合うみたいじゃの、こんな風に会話できたのは、そなたが初めてじゃ。」

トイレの神様は、笑顔で桃子にそう言った。


桃子はびっくりして、

「…ありがとうございます。あの、夢じゃないんですね」

と、トイレの神様に言った。


トイレの神様は笑って、

「夢ではないぞ。私はいつもこのトイレで、そなたを見守っておるぞ。何かあったら、いつでもここに来なさい」

と桃子に言った。


そして、トイレの神様は消えていった。


桃子はまだ驚きを隠せなかったが、夢じゃなかったんだ、と思った。


桃子がトイレの掃除を終えて、教室に戻ると、

桜も丁度、図書委員の仕事を終えたところで、教室の前の廊下で2人は会った。


「桃ちゃん、今終わりー?」

「うん。桜ちゃんも終わったの?」

桃子が尋ねると、桜は頷きながら桃子の手を掴んで、階段の方へと隠れるように急いで連れて行った。


「桃ちゃん。藤堂君、今、彼女いないらしいよ!」

小さい声で、桜は桃子に言った。 


「へっ!?」

桃子は突然の事で、びっくりして変な声が出てしまった。


「藤堂君と同じ中学の子に聞いたんだけど、ずっとサッカーばかりしてて、彼女いないんだって!でも狙ってる女子は多いらしいよ!」

桜は少し鼻息荒く言った。


「来週、調理実習あるでしょ?なんとか桃ちゃんが藤堂君と同じ班になれるように、私、頑張るから!」


桜はそう言うと、立ち上がり、桃子の背中をポン、と軽く叩いた。

「桃ちゃんの初恋、応援するからね!」


恥ずかしいながらも、桜の気持ちが嬉しい桃子は、

「ありがとう、桜ちゃん。」

と言って、立ち上がった。


「じゃあ、帰ろっか」

と教室に戻ると、桃子は、まだ教室に藤堂が居るのを見つけた。


藤堂も、桃子と桜に気づいた。

「おっ!お疲れ!」

藤堂は2人に笑顔で言って、教室を出た。


「桃ちゃん、良かったね!」

桜が嬉しそうに、桃子に言った。


「…うん」

少しうつむきながら、恥ずかしそうに、桃子は頷いた。


2人は校舎を出て、桜はバイト先の「星ブックス」へ、桃子は祐太の待つ保育園へと向った。



祐太と帰宅した桃子は、いつものように夕食作りや家事を急いでこなし、祐太のお世話をして、正親の帰りを待った。


正親が帰宅して、復習や予習をして、桃子の1日が終わった。



朝になり、桃子が桜と一緒に教室に着くと、少し遅れて藤堂が友達と一緒に教室に入ってきた。

サッカー部の朝練の後のようだった。


「おはよう!」藤堂は2人に明るく挨拶した。


「おはよう、藤堂くん。」桜が言うと、


「お、おはよう…」と、桃子も続けて言った。


藤堂はにっこり笑うと、自分の席に座った。


恥ずかくて、藤堂の前の自分の席に着くまで、桃子は胸がドキドキしていた。


1時間目の授業は、家庭科だ。

来週の授業で調理実習をするため、今日はその班決めをすることになっていた。


1時間目が始まるチャイムが鳴り、家庭科の先生が教室にやって来た。


クラスの皆が、起立、礼、着席をして、授業が始まった。


「今日は来週の調理実習の班を決めたいと思います。班は…」と先生が言うと、


はい!と桜が挙手した。


「遠山さん、どうしましたか?」

先生が尋ねると、


「今の机の順番で、班決めが良いと思います!」と、

桜が大きな声でハキハキ言った。


そして

「ほら、この前のオリエンテーションも出席番号順だったし、たまには違う順番も良いんじゃないかな…なんて」と、続けた。


先生が

「今の机の順番で、皆さん宜しいですか?」とクラスの皆に尋ねると、


「それで良いと思います。」

と、教室に声が響いた。


クラスの中でも容姿端麗で人気者、土岐玲香の声だった。

土岐は桃子の2つ前の席で、少し後ろを振り返り、桃子をチラッと見つめた。


「私も、それで良いと思います。」

「俺も…」と、クラスの皆が次々に同意して、

家庭科の先生も、

「では、今の机の順番で、6つに班を分けますね」と言った。


桃子が桜に目をやると、桜がニコっと笑った。


桃子は、土岐、藤堂の他に、男子バレー部の浅井、男子テニス部の真田の5人の「3班」になった。


班ごとに集まって、それぞれ持参する食材の確認や、調理実習の手順を確認していく。


机を突き合わせた5人は、順調に話し合いが進み、調理実習のカレーの食材を買い出しする担当者が決まった。


桃子はジャガイモ、藤堂は人参、土岐は玉ねぎ、浅井はカレールウ、真田は牛肉を持参することになった。


話し合いの間、桃子は真向かいに座る藤堂が気になって、仕方がなかった。


話し合いが終わり、机をそれぞれ元に戻していく。

まだドキドキが止まらないまま、授業が終わった。


休み時間、桜の机に桃子は向った。

「桜ちゃん、ありがとう。」

桜に言うと、


「桃ちゃん、良かったね!頑張ってね!」と笑顔で桜は桃子に言った。


授業が終わり、桃子が運動場のトイレに行こうとした時、

「藤堂君!」と、藤堂を呼ぶ声がした。

土岐だった。


土岐と楽しそうに話をする藤堂の姿を見て、ズキン、と桃子の胸が痛んだ。


運動場のトイレに着いて、掃除を始めると、何故か涙が溢れてきた。


掃除を終えて、小窓を見つめていると、トイレの神様が姿を現した。

「泣いておるのか?小谷桃子よ。」


「ト、トイレの神様!」

桃子は溢れてきた涙を擦りながら言った。


「何かあったのか?」

トイレの神様は、心配そうに桃子を見つめると、小窓に腰を掛けた。



「あの…私、実は好きな人が居て、その人がクラスの女の子と話してるだけなのに、なんか涙でちゃって…おかしいですよね。あはは…」


桃子は、少し躊躇しながらも、何故か自分の気持ちを誰かに聞いてもらいたくなって、息を整えながら、気持ちをぶつけた。


恋をするのって、こんなに苦しいことなんだ。

まだ何も始まってないのに、こんなに。


そう思うと、どんどん涙が溢れてきた。


涙を必死に拭う桃子に、トイレの神様は優しく言った。

「小谷桃子よ、そなたは真面目で心優しき人間じゃ。きっとそなたの想い人にも、そなたの良きところに、気づいてくれるはずじゃ。

人を想う事は、心が豊かになる素晴らしい事。

嬉しい事も、苦しい事も。素晴らしい経験を、今は精一杯過ごしなさい。」


桃子は、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


「ありがとうございます。」


そう言って頭を下げ、桃子は教室に戻っていった。


教室に戻ると、藤堂は既に部室に行って不在だった。


少し寂しかったが、桜と一緒にいつものように帰っていると、元気が出てきた。


祐太の待つ保育園にお迎えに行き、帰宅してからバタバタと時間が過ぎていった。


桃子と祐太が夕食を摂っていると、正親が帰宅した。


「ただいま。」 


いつもより早い帰宅だ。 


「お父さん、お帰り。今日は早かったね!」と桃子が言うと、正親が笑顔で言った。 


「病院から電話があって、お母さんの体調が良いので、予定通り明日退院になったよ。」


正親の言葉に、桃子と祐太は顔を見合わせて、

「やったー!」と喜んだ。


久しぶりに、母・詩織が帰ってくる。

嬉しくて、桃子は祐太をギュッと抱きしめた。



その日、桃子はなかなか寝付けなかった。

恋をすることの喜びと苦しみ。

詩織が帰ってくる喜びと、何故か湧き上がってくる不安。


詩織が帰ってくることは、祐太に「真実」を伝える日が来たということ。



いろんな感情が、桃子を包んでいった。





























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