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前編 

ホラーというか、怖い話として書きたくて頑張ってみました。。

昭和のサスペンスホラー漫画をイメージしてみました。

そろそろ熱くなりますので、怖い話はいかがでしょうか?


「おばあさま~」


可愛らしい少女の声が庭から聞こえる。

孫のリズは今年3歳になった。

生まれた時からちょっと不思議な子で手のかからない良い子であった。

どこか妙に大人びたような仕草をするこの可愛らしい少女は息子の娘である。

私はこの可愛い孫にちょっとだけ苦笑して、少しだけ呆れた顔をして声をかける。


「どうしたの?お庭で大きなお声を出して。

 リズがいつも言っている淑女らしくないわね。 

 でもリズの可愛いお声なら私には嬉しいだけですけど。」


途中から可愛さに顔が緩んでしまってはお説教にもなりません。。

でも仕方ない。この子は私にとって可愛い、可愛い宝物なのですから。


「あのね。お母さまに赤ちゃんができたって。」


興奮したように言う彼女は目がキラキラと輝いています。



「そうなのね。嬉しいわ。次は男の子だといいわね。

 弟ができたら、お家も助かるわ。」


私がそう言うとリズはむっとした顔をしました。


「ダメ、妹がいい。 弟はいらない。」


「でもね。我が家は貴族なのよ。だから家を継ぐ男の子が必要なのよ。」


そういうとリズが聞いたこともないような低い声でぼそりと呟きました。


「弟はいらない。弟なら・・・」


「そんなこと言わないで。弟も可愛いわよ。」


私はただ姉妹が欲しいだけだろうと思い、手を伸ばしリズを抱きしめようとしました。

するとリズがその手を払いのけたのです。


私は思いのほか強いリズの拒絶と不機嫌な態度をあらわにした姿に酷く驚きました。



「リズ?どうしたの?」


今までにないリズの様子に少し震える声で尋ねると暗い眼をしたリズは私に向かってなのか、他の誰かに向かってなのか、わからない様子で、


「いらない。いらないのよ。弟は・・・」



それだけを呟くと走ってどこかへ行ってしまいました。


今まで見たことのないリズの態度に驚いた私は追いかけることもできず、その場に立ちすくんでしまいました。



その後の夕飯の時、息子夫婦から懐妊のことを改めて聞き、お祝いの言葉を述べました。

その間、リズはずっと黙ったままでした。

ただ、先程のような不機嫌な様子ではなかったのでホッとしました。

昼間のこともあるので次の子も元気であればいいわねとだけ告げて、後はいつもの食事の風景となりました。



それから月日が巡り、秋の終わりに息子嫁が第二子を生みました。

男の子でした。






それからはリズにはおかしな行動が続きました。



ある日、リズが弟を抱っこしたいというから抱っこさせた時でした。

いきなり赤ん坊を床に落としたのです。

慌てましたが、4歳児の手から落ちただけで大事には至りません。

父親である息子から怒られたリズはただ黙って俯いていました。

その時は4歳の子に抱かせた私たちも悪かったのだと思い、大事にはしませんでした。



しかし、その後、リズは弟が寝ているベッドにクッションを大量に入れてしまいました。

多すぎるクッションで危うく孫息子の息が止まるところでした。

気づいた息子嫁がクッションを除いて、抱き上げると孫息子は泣き出しました。

その時も起こられても黙って俯くだけのリズでしたが、乳母が慌てて


「私が『今日は寒うございますわね』とお嬢様に言ったせいです。

 きっと暖かくしてあげようとしたのです。

 私のせいです。申し訳ございません。」


と泣きながら言うのですから、この時も大事にしませんでした。


それからしばらくして、母親が弟を抱いていたところにリズが急に飛びついてくるようになりました。

何度注意しても止めないリズでしたが、子供の甘えなので、強くは言いませんでした。

しかし、ある日、同じように飛びつかれて嫁は孫息子を抱いたまま転倒してしまいました。

しかもほんの少し先が階段だったのです。

一歩、間違えば母子ともに落ちていたところでした。


その時ばかりは、父親にも強く叱られて俯くだけのリズでしたが、小さな声で

「お母様・・・」

と言ったところで母親はすぐ気が付きました。

ずっと弟ばかり抱いていて寂しくなって抱きついてきたのだと・・・

母親が弟を乳母へ手渡し、リズを抱きしめるとリズがしっかりと母親に抱きつき静かに涙を流しました。


それを見て、私たちは今までの弟への行動がリズの寂しさからきていたのだと結論付けました。


それからしばらく、皆がリズをことのほか可愛がるように気を付けていると何の問題も起こらなくなり、平和な日々が続きました。



しかし、あの恐ろしい事件が起こってしまったのです。


リズが6歳、孫息子が2歳になった夏の日でした。


息子家族は別荘地へ避暑へと向かいました。

私は誘われましたが、家へ残りました。

あの避暑地は苦手なのですが、それを言っては嫌な気分にさせてしまうので、年寄りが一緒に行くより、若いものだけで行ったほうがいいでしょうと言って見送りました。


それから5日ばかりしたあの日。

息子夫婦から急ぎの知らせが入ったのです。


孫息子が池に落ちるという事故にあったというのです。

取るものもとりあえず、大急ぎで私は息子家族のもとへ急ぎました。


別荘についた私が見たのは意識が戻らずベッドに横たわった孫息子の姿でした。

ベッドの側で息子嫁が泣いています。その肩を息子がしっかりと抱いておりました。


「何があったの? 知らせでは溺れたとだけあったけど、何故?

 誰もいなかったの?ねぇ。

 この子は大丈夫なんでしょう?ねぇ!」


取り乱し、興奮状態で聞く私に息子が立ち上がり、私の肩を抱いて椅子へ座らせてくれました。


「母さん、落ち着いて聞いてくれ。

 ちゃんと話すから。」


暗い顔をして息子が話してくれたのは何とも言えない奇妙な話でした。


その日、晴れて暑い昼下がりに子供たちは護衛の騎士と乳母、そして森に詳しい地元の案内の領民と共に散歩へ行きました。

ちょうど息子夫婦にはお客があり、手が離せなかったのです。

部屋の中で退屈しきった子供たちを少し歩かせ、疲れさせたら昼寝でもするだろうと思い、しっかりと複数の大人を伴わせて近くの森に散歩へと行かせました。

この森は貴族の散歩道として整備されたところが多く、2歳の孫息子にもちょうどいい道だったそうです。

道端の美しい花々を見たりしながら子供たちは池の側まで来たそうです。

この池はとある教会の管理になっているため、誰も立入らないよう道が作られておりません。

少し離れた場所にある手すりから眺めるだけの池なのです。

水辺の側は少し涼しく、小休止をしたそうです。

孫息子はしっかりと乳母に手を繋がれ、その反対側には騎士がいたそうです。

リズは乳母の反対の手を握り、その池を眺めていたそうです。

そして、ちらりと池の真ん中に光でしょうか、白いものが見えたその時、恐ろしい出来事が起きました。

乳母としっかり手を繋いでいたはずの孫息子が見えない何者かに攫われたかのようにあっという間に池の方へ飛んでいきました。

そして、まるで氷の上を滑るかのように池の真ん中まですうっと移動し、音もなく水の中へ消えてしまったのです。

それは本当に一瞬の出来事で孫息子は水面に置かれた小石のように「とぷん」と沈んでしまったそうです。

護衛の騎士と地元の案内人は驚いて池へ走り、二人は池へ飛び込みました。

池は深く、何度も何度も孫息子を探して潜ったそうです。

乳母はリズを抱きかかえると走って助けを呼びに戻りました。

その後は地元の警備のものや池の管理の教会の人たちで大騒動となり、なんとか孫息子を池から引き上げることができたそうです。

そうして命は助かった孫息子でしたが、引き上げるまで時間がかかったせいか、意識が戻りませんでした。

目を覚まさない孫息子の側で息子嫁はさめざめと泣いておりました。


「散歩にでも行ってきたらと言ったのは私だったのです。

 申し訳ありません。申し訳ありません。」


そう言って頭を下げる嫁に


「君のせいではない。

 大丈夫だ、きっとこの子は元気になる。

 大丈夫だから。」


息子はそう何度も繰り返し言っては励ましておりました。

私も同じように息子嫁を慰めておりました。


ふと、私はこの場にリズがいないことに気が付きました。


「リズは?」


「お部屋においでです。」


側の侍女がすぐに教えてくれました。

私はこのようなことになってどんなに怖かっただろうと思い、息子夫婦には黙ってリズの部屋へ行くことにしました。



部屋の前で、ノックをしようかと思いましたが、寝ているかもしれないと思いそっと扉を開けました。


リズは窓際に腰かけて、外を見ておりました。

声をかけようかと思った時、リズが何かを呟いたのです。


「今度は……」


聞こえてくるのはいつものリズの声ではありませんでした。

少女の声ではなく、女性の声、そう、少し大人の女性の声。


「今度は私の番よ。もう譲らない。」


そしてそれは私のよく知っている、『あの子』の声でした。


10年以上も前に亡くなった娘、エリーの声です。


あまりの恐ろしさにその場に立ち尽くしていると


「今度は弟に譲らない。

 弟ではなく、私が結婚をするの。

 そうよ。

 弟がいなければ、お母様は私の持参金を使い込んだりしないわ。

 私のものだったのに……

 そうよ、あれは私が小さいころから貯めていたお金よ。

 弟にはあげないわ。

 今度は絶対にあげないから。

 今度は私が幸せになるの……」


エリーの声で何度も何度もつぶやかれるその言葉の意味を私が一番、わかってます。


いえ、私しか、その言葉の意味はわからないのです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


それは15年前。

その年は国全体が不作で我が領地も非常に苦しい財政難に見舞われました。

16歳になる長女と14歳の長男の二人の子がいる我が家は苦渋の決断をせまられました。


実は長女は16歳から2年間、花嫁修業のため、王都の女学園に行くはずでした。

そして長男は当主となる為、次の年の15歳から2年、貴族学校へ行く予定でした。

しかし、この財政ではどちらか一人しか行かせてあげられないので、夫と話し合い、長女は花嫁修業を兼ねた行儀見習いとして、とある貴族子女のための修道院へと行かせることにしたのです。

その時、長女は悲しそうな顔をしたものの「この時世だから仕方がないわ。」と諦めて修道院へ行儀見習いへと行ってくれました。

別れ際にこちらで2年ほど行儀見習いとして過ごせば適齢期となるので、その頃にはなんとか持ち直して縁談を用意すると言うと嬉しそうな顔をして、「期待してるわ」と笑顔を見せてくれました。

そして、それが私があの子の笑顔を見た最後となりました。


エリーは昔から花嫁になること、結婚することをとても夢見ておりました。

いつか素敵な旦那様と結婚すると物心ついたころから言っておりました。

そして小さなころから、コツコツと小遣いを「持参金にするのよ。」と言いい、貯めていたくらいです。


「素敵な旦那様の下へ嫁ぐのが私の夢。

 旦那様は貴族でなくてもいいの。

 贅沢しなくてもいいけど、お金に困るのは嫌。

 だから私自身も持参金を貯めるの。

 お父様とお母様が用意してくださるって仰ってるけど、少しでも多い方がいいわ。」


いつも夢見るように語っておりました。

 

長女が修道院へ行ってからもうすぐ2年になろうとした頃、夫が亡くなりました。

財政の立て直しで無理をした身体は流行り病に負けて、あっという間のことでした。

長男は16歳にはなっておりましたので新しい当主となることができました。

長女は葬儀には戻らせましたが、その後は屋敷が落ち着くまでと言い聞かせ、またあの修道院へ行かせました。

新しい当主となった長男はまだ学園を卒業しておりません。

だから長女を呼び戻すことはできませんでした。

夫が無理してくれたおかげで財政難をなんとか脱しても余裕があるわけではありませんでした。

それからはとにかく、新しい当主である息子と二人、怒涛の日々でした。

息子は学園の休みには領地へ戻り、仕事を覚える日々、私もそれを手伝う日々で疲れ切っておりました。


そんな日々の中、長女から手紙が届くようになりました。


「もうすぐ19歳になります。そろそろ縁談のことを考えていただけませんか?」


まだ余裕のない私はもう少し我慢してほしいと手紙が来るたびにそう返事をしておりました。

最初は一ヶ月に1度ほどの手紙がいつしか、毎週届くようになった頃、私は返事を書かなくなりました。

当主となった長男に縁談の話があり、それどころではなかったのです。


息子の縁談が決まってから、長女には連絡を取っておりませんでした。

手紙が来ていてもろくに読んでもおりませんでした。

どれも同じ内容で、自分の縁談のことをお願いする内容でしたので、読まなくてもわかるようになっていたのです。

私は長女をないがしろにするつもりはなどなかったのです。

しかし夫亡き後、この家を潰すわけにはいかないという思いが強すぎたのでしょうか、あの子のことは後回しに、おざなりにしておりました。


無事、長男の婚約が決まり、半年後に結婚するとなった時、私は結婚式の費用が足りないことに気が付きました。

当主の結婚ですから、みすぼらしくするわけにはまいりません。

できるだけ切り詰め、自分の宝飾品は最低限を残して売り払いました。

そうしても足りない分をこともあろうか、私は、私は……

長女が大事に貯めていた持参金を勝手に使ってしまったのです。

後でなんとかしよう、なんとかなる、そう頭の隅で思っておりました。

それに家の一大事なのだから、あの子もきっとわかってくれると勝手なことを思っておりました。



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