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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

前見た怖い夢

作者: ゴードン松下

ボロカスレビューでも勉強になるのでどんどん貶してね

本編


「バタッ!」という今となっては聞きなれてしまった音が今日も工場に響く。人間の倒れる音だ。それから飛ぶ看守の怒号にももうなれてしまった。俺たちはただただ毎日奴らに言われたとおりこの工場で剣や銃火器などの武器を作る。死にたくないから、生きる道はそれしか残されていないから…。

「あいつ、これでもう何回目だ?」

という僕の問いに

「さあな、5回は倒れてるからもうダメだろうなあいつは。ありゃもう"廃棄処分"だろうな」と作業の手をとめず答えるのはAだった。元は軍隊にいたとかで屈強な体をしており右肩には軍人時代に受けたとかいう銃痕が残る。

この施設では使えないと"奴ら"に判断されたものは容赦なく殺される。それがこの場所でのルールであり俺たちはただ生きるために毎日過酷な労働に耐えている。強制労働に体がついていかず吐血したものの血、奴らの遊びの拷問によって流れた血、使えない者を使って新武器を試した時に吹き出した血、工場の至る所に人間の血が流れ、固まり、赤黒く変色したコンクリートの壁や床からはむせかえるような嫌な匂いが立ち込める。毎日の過酷な労働に加えこの環境だ。若い俺たちが耐えかねているのにあんな老人に耐えられるわけがない。それもこれも俺たち人類が"亜人種"と呼ばれる種族に生存競争で敗れ、奴隷となってしまったことが原因だった。人間のような二足歩行をしながら顔や体は動物に近いと言った種族で動物の身体能力に加え人間と遜色ない知性を持つ彼らに我々人間は敗れた。

「クソっ!あの魚野郎!」

Aの怒りの視線の先では全身を鱗で覆われ魚のような顔をした半魚人型の亜人が先程倒れた老人を"処刑台"にのせベルトコンベアのような機械によって大量に流されている武器の中から一本の大剣を取り出し試し切りをしている真っ最中だった。

「っ!!」

反射的に目を背けた。ここにきてある程度ああいうのにはなれたつもりだが生きた人間が苦しみ悶え死んでいく様というのは何度見ても慣れなかった。隣ではAが他の看守に見つからない程度に魚人を睨みつけている。軍人として彼らに敗北し、結果国家を守れなかったことを悔やんでいるのだろう。

「胸糞わりぃ。移動するぞ。」

「ああ、そうしよう…。」

本当はあの爺さんを助けてやりたい。だがそんなことをしても返り討ちにあうのは目に見えている。圧倒的な力の差。知性を武器に生態系の頂点に立ってきた人間もその力を使われて仕舞えばかくもひりきな存在になるのだ。Aのあとを追い第二作業場に移動する途中視界に入ったものがいた。

「Cだ…」

いつからいるのか、どこからきたのか、あいつについては誰もしらない。明らかに奴隷に適さない痩せこけたガリガリの体、一度も話すことはなく声もださない。あげくいつも白濁した目を見開き無表情なものだから誰も奴に近づこうとしない。あの目は見えているのか、いないのかも俺にはわからない。

「ああ、あのイカれ野郎か。一体あの体のどこからあんな力がでてくんのか…。やつが倒れたり作業を滞らせてるとこなんて見たことねえな。まぁなんにせよ関わらねえのが1番だな、気味がわりぃ。」

その時なぜか無性に気になってCを見ていた。変なやつを見かけると関わりたくはないけどなんとなくそっちを見てしまうあの感覚だ。いつもは無表情のCがニタァっと口角をあげあたりを歩く看守の背中を凝視していた。子供のような無邪気で狂気に満ちたその顔におれは筆舌しがたい恐怖を覚えた。

「(なんだよあの顔……!!)」

するとやつがゆっくりと顔をこちらに向けようとしているのがわかった。なんとなく今目を合わせてはいけない気がする。

「(やばい、やばいやばい!なんかわかんないけど、今のあいつに見られたら…!)」

言い知れぬ恐怖の中あまりの不気味さに動けずにいた俺は

「おい、早く行くぞ!」

Aの俺を呼ぶ声にハッとした。急いでAの方に向き直り、今見た光景をかき消すように次の作業場に向かった。

「顔色わりぃぞ、大丈夫かお前?」

「あぁ、うん。大丈夫大丈夫」

あの一瞬、向き直る一瞬、やつと目があった気がした。

<2章>

1日の作業が終わり夜も更け、わずかな休息の時間を俺は過ごしていた。最低限の休息を与えるのは作業に慣れた奴隷を少しでも長く使役するためだろう。幸いにもCへの恐怖感は1日の過酷な作業のおかげでだいぶ薄れていた。こんな時ばかりは考え事などしてる暇がないほどの過酷さに少し感謝してしまった。しかし一体あれはなんだったのか…。あの表情が頭から離れず作業が終わってからはずっと考え込んでしまっていた。

「大丈夫?さっきからぼーっとしてるけど」

話しかけてきたのは同室のBだった。俺たちには当然個室なんてものは用意されず15〜20人が同じ部屋に詰め込まれている状態だ。Bは小柄で力仕事には向かず殺されてもおかしくなかったが手先の器用さから整備作業を行っていた。

「おう、こいつ昼間もなんかいきなり立ち止まったりしてよお。ほんとに大丈夫か?」

「悪い2人とも、大丈夫大丈夫。ちょっと気になることあってさ」

A、B「「?」」

「いや、Cのことでさ…」

「お前またあいつのこと考えてんのか。やめとけって気持ちわりぃ」

「俺君その人とは関わらない方がいいかも……」

「B、あいつのこと知ってるのか?」

「うん。整備班の古株の人が言ってて、Cは結構前からいるらしいんだけど昔大部屋で暴れて同室の人間を殺しちゃったって…」

「まじか…。おかしなやつとは思ってたが…」

驚くAとは対照的に妙に納得している自分がいた。あぁ、あいつならやりかねないなという感情が強かった。

「それにしてもよくあの体格でここにいる人間を殺すなんてできるもんだな。武器でも使ったのか?」

「いや、それがCは異常に力が強いんだって言ってた。大柄な男と喧嘩してそのまま…って。あとすごく音に敏感だって言ってたかな」

「音?」

「うん。部屋で少しでも音を立てるとそっちを向くとか。」

「ますます不気味な野郎だな、嫌になるぜ。こんな話してねえでよ、もう寝ようぜ明日に響く」

「あー、うん。そうだな、そうしよう」

Cについての情報、少しは得られたがまだまだわからないことだらけだな。


<3章>

あれから数日俺は作業の合間に見かけるCをよく観察するようになっていた。相変わらずの無表情で淡々と作業をこなしていく。誰かと関わるどころか声すら一度も発しない。だがあの日見たあの不気味な笑顔はあれ以来一度も見せてはいなかった。

「おい貴様ら、4班の奴隷が2匹死んだ。ここにはまだ余裕があるから代わりに作業に加われ。」

俺たち2班の監視を担当するあの魚野郎からの指示だった。そして4班は…

「あのイカれがいるところか…」

Cのいる班だった。


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