僕の君42
待ってくれ!子供と妻が居るんだ!
俺が居なくなったら!
うるさい……何かほざいている…
俺にとってはすごくどうでもいい事。
誰がどんな人間だろうと、依頼書に書かれたターゲットを抹殺する。
それだけだ。
そうだ!君の主に話しをさせてくれ!きっと分かるはずだ!まだ、私は役に立つ!
口を閉じろ……すぐに終わるし、痛みは与えない。
君の雇い主の倍の金額を出す!だから私の下で働かないか?
金なら十分にある……それに俺はターゲットを抹殺する。それだけだ。
何度も何度も、同じことの繰り返しだ。
殺されると分かった奴は必ず最期に自分の命を大切にする。
そうか…ついに私の番がきたか。そうだ!最期に聞かせてくれないか?君は何の為に今の仕事をしているんだ?
何の……為?
それはどういう意味だ?
なんだ?そのままの意味だ。君は何の為に殺しをしている。
最期を悟ったある老人は俺の目を一切の曇りなく見つめている。
なんだ。その目は見たことがない。
俺はその目を知らない。
……
返答できないか…君は考えた事も無かったのだね。
じゃあ教えてあげよう。君は平和の為に殺しをしている。全ては平和の為だ。仕方ないことなのだよ。
妙に頭の奥までと届く懐かしいような声だ。
だが、1つの単語だけが、刺さって抜けない。
平和。
俺がこの世で最も嫌いな言葉だ。
人は誰かを犠牲にして生きている。
これが俺の持論で、人生論だ。
平和とは偽善だ。反吐が出る。
俺はその言葉が嫌いだ。
もう少し生きたければ二度と口にするな。…
おっと。すまない。頼むよ。もう少し君と話しをしたい。殺すのはもう少し後にしてくれ。
君はね君の最も嫌うそれの犠牲になっているのだよ。
何が言いたいんだ。
分かるはずだ。私に聞かなくても。
詰まる所、それは君の犠牲の上で成り立っている。
この事実は俺をハッとさせた。
無意識に見ようとしなかったこの事実を突き付けられた俺は自分の手を見た。
気付いた頃には遅いということだ。
俺はもう、後戻りできない所まで来てしまっている。
俺の手は血に塗れている。
君は。
老人の声が耳に入って、思わず目を見た。
君は、やり直す事は出来ない。
だが、これからの行動は君次第だ。
途端に自分が何をするべきなのか分からなくなった。
もう一度自分の手を見る。
震えている。
震えた手を見た俺は何を思ったのか、踵を返してその場から逃げた。
明るい所が怖くて怖くて、暗闇の中を永遠と走り抜けた。
幸いな事に、暗闇の中は慣れていて恐怖は全く感じなかった。




