僕の君41
あーまただ。
また、簡単に終わってしまった。
「なぁ、君は一体何を思って、何をしたんだ?」
向かいの塀にもたれかかったそれに、話しかけても応答なんて有るわけないが、仕事に慣れた頃から対象に話しかけるようになった。
理由は分からない。
今の仕事に、何ら罪悪感は感じないし、悲しくもない。
退屈なのかもしれない。誰かに自分の話しを聞いて欲しいのかもしれない。
いくつか、理由の候補がでてきたが、どの理由も釈然としない。
「なぁ、俺は何で話しかけてるんだろうな?」
「知らないよ…」
誰だ!?こんな人気のない所に!女の声…
「何だ?こんな人気のない所に一人でいるなんて危ないぞ」
「えっ…何ですか。あなた?今一人で話してましたよね?」
「そうだ。話し相手が居ない。悲しいヤバい人だよ。」
「話し相手が欲しいんですか?私が聞いてあげたら悲しくなくなりますか?」
「何が欲しい?金か?」
「お金は欲しいけど、今は要らない。でも聞くだけでくれるなら、欲しいけど。」
「なんだ。それは…とにかくだ。こんな所にいるのは危ない。ほらあっち側が明るいだろう?あっちにいけば安全だから、あっちに行け…いいな?」
「分かった。じゃあね!悲しい人。」
「早く行け!…」
男より少し若く見える娘は素早く踵を返して、パタパタと慌ただしく走っていった。
(全く、度胸があるのか、虚勢をはっているのか分からない奴だ…)
男は隠し持った血塗られたナイフを赤いハンカチで拭き取りソケットにしまった。
「みなとさーん!申し訳ありませーん!遅れました」
みなと「うるさいぞ。お前はもう少し静かに来れないのか。」
「はっ!?すみません。つい癖で…あははぁ…」
走ってきた男の名前はオシノ。オシノは上目遣いでみなとの機嫌を伺いながら苦笑いした。みなとが視線を切り、諦めたような表情を浮かべるとオシノはすかさず、話しを続けた。
オシノ「あ、これですね。今回の処理対象は。」
みなと「そうだ。いつものように痕跡を残さないよう、宜しく頼む。」
オシノ「はい!任せてください。これだけは誰にも負けません。」
…
…
…
仕事を終えたミナトは本部に帰った。
組織に忠誠を誓った極少数しか知らない「裏口」から中に入り薄暗い長い廊下を歩いていき、広場に着くと子供達がキラキラと輝いた目を向けてミナトに近付いた。
「みなとさん!また、ナイフの使い方教えてください!」
「ずるいぞ!俺が先に言ったんだからな!」
「みなとさん!みなとさん!私、投げナイフ上手くなったよ!今度見に来てね!」
ミナトを囲んで、子供達の輪ができた。
みなと「あぁ。わかったよ。順番にな。」




