サンジマン
「さぁさぁ座って座って!折角の熱々のピザが冷めてしまう!」
「あの、えーと?」
突然の展開過ぎてついていけない。
お屋敷の中に入った時から漂っていた良い匂いはテーブルの上に広げられたピザのもので間違いない。
で、それを作ったのは今目の前にいる鼻と背の高い金髪碧眼の外国人。
ここまではまだ分かる。けど、なんで私がもてなされてるの?
「話はピザを食べながらゆっくり聞こうじゃないか。ミエコの孫よ」
「!」
お婆ちゃんの名前……じゃあやっぱりこの人が《サンジマン》さん?
でも、もしこの人がお婆ちゃんの話に出てきた人なら80歳は越えていないとおかしい。なのに目の前のこの人はどう見ても20代から30代ぐらいの年齢にしか見えない。
肌はピンと張っていて皺の1つも無いし、髪にも艶がある。
一体どういう事なのだろう?
「僕の事を警戒している、と言うよりは驚きに満ちていると言った方が正しいのかな?まぁ無理も無い。ミエコから僕の事を聞いたのであれば外見が余りにも若く見えてしまうのだろうからね」
私の考えはお見通し、か。
「その辺りも食事をしながらゆっくり話そう。ほら。座って座って」
私は《サンジマン》さんに言われるがままに椅子に座り、テーブルに並べられたピザを眺めながら待った。
「よし。こんなものかな?ごめんね待たせてちゃって。お酒は好きかい?良いワインがあるんだけど?」
「ごめんなさい。未成年なのでお酒はまだ……」
「あぁそうか。今の時代の君ぐらいの歳の日本人はあまりお酒に馴染んでないんだっけ。ならオレンジジュースで良いかな?」
「あ、はい」
今の時代の君ぐらいの歳の日本人……?
昔も今も20未満の人ならそんなにお酒に馴染んで無い筈だけど……
妙な違和感を感じたけど、とりあえずそれは今考えない事にしよう。
「このオレンジジュースがまた美味しいんだ。おかわりはいくらでもあるから飲み干したら遠慮なく言ってね」
「あ、分かりました」
「それじゃミエコの孫と出会えた今日と言う日を祝して……乾杯!」
「乾杯……?」
まだあまり理解が追いついていないけど、その場の雰囲気に合わせて私も《サンジマン》さんと同じようにグラスを胸元ぐらいまで上げ、グラスとグラスを当てるような動きを真似てから注がれたジュースを口元まで運ぶ。
「あ……良い匂い。それに、美味しい」
まだ口に入れた訳でも無かったのに、オレンジの芳醇な香りが鼻を通りながら味覚も刺激し、いざ口の中でジュースを転がしてみると香りと同じ味が口いっぱいに広がった。
こんなオレンジジュース今まで飲んだ事がない。
「そうだろうそうだろう。これはかの有名なリシャン・テル・ワードナーが人生を掛けて作り出した奇跡とも呼べるオレンジを使用したジュースなんだ。祝い事がある時は大体このジュースを用いる程、僕のお気に入りの1つさ」
「そうなんですね。あまり海外の農家?の、人についつはあまり詳しくないので存じませんが、とても美味しいジュースだと言う事は分かります」
「まぁ通な人なら誰でも知っている、というレベルだからね。普通に生活していれば興味を持たない限り知る事はないだろうさ。それよりもほら、ピザも食べて食べて。冷めないうちにほら!」
「あ、えぇ。はい」
ジュースの香りもそうだけど、ピザの香りもさっきから無視出来ない程に強い。
スーパーに売っているような菓子パン系・冷凍系とも、ピザ専門店で頼むようなモノとも違う、まさしく本物のピザの香りと言えそうな程香ばしくてとろけるような香り。
本物のピザなんて見たことも食べた事もないし、そんな事が言える程ピザに詳しい訳じゃないけど思わずそう言ってしまうような香りが目の前のピザから漂っていた。
「このままだと少し食べにくいから簡単に切ってっと。これぐらいでいいかな?」
「すいません。ありがとうございます」
「いやいやいいんだよ。さ。食べて食べて」
《サンジマン》さんが私が食べやすいようにピザを手のひらサイズにカットしてくれて、それを小皿に添えて私に渡してくれた。
……うん。やっぱり良い香り。
「……頂きます。……!?」
凄い。口に入れた瞬間チーズやハムやソーセージの味が広がって、たった一口なのにピザを丸ごと含んでいるかのような満足感が得られてる。
こんなの、初めてだ。
「ふふ。お気に召してくれたようで何よりだ。僕も頂こうかな」
《サンジマン》さんも私にカットしてくれたようなサイズを小皿にとり、同じように食べる。
けど、やはり食べ慣れているのか特に驚嘆したような様子はなく、パクパクとものの数十秒で一切れを食べ切ってしまった。
私はまだ二口目を食べれずにいるというのに。
「少し気合を入れ過ぎたかな?焦って食べる必要は無いからゆっくり味わって食べてね」
「は、はい。すいません」
別に謝る必要はないのだろうけど、思わず謝ってしまった。
「大丈夫大丈夫」
その後私は二口目、三口目でやっと味に慣れる事が出来、その後はお腹が減っていた事もありあっという間に丸々1枚を食べ切ってしまった。
そんな私の様子を見て満足したのか、《サンジマン》さんは終始ニコニコと屈託のない笑顔で私を見ていた。
「いやぁ嬉しいねぇ。やっぱり自分が作ったものをこうも美味しそうに食べて貰えると調理者冥利に尽きるよ。食後のデザートを持ってこようと思うのだけど何かリクエストはあるかな?大体のものは用意出来るよ?」
食後のデザート……
正直甘くて美味しいバニラアイスが食べたいけど、深夜にピザを1枚食べた上にアイスを食べるとなるとお腹が太……
ううん!考えるのは止めよう!
明日頑張って食事制限すれば大丈夫!
「なら、バニラアイスがあれば食べたいです」
「バニラアイスだね。それじゃ持ってくるからちょっと待ってて」
《サンジマン》さんは食器をあらかた重ねると、レストランのウェイターのようにそのまま片手で持って奥へと行ってしまった。