辿り着いた場所は幽霊屋敷
「ここが幽霊屋敷……」
私は今、噂の幽霊屋敷の前に来ている。
時刻は午前0時過ぎ。
辺りからは風の音以外何も聞こえない。
「それにしても……噂っていうのは本当にあてにならないね」
元々この幽霊屋敷は街のど真ん中に佇む廃墟だと聞いていた。
でも、実際に隣街に来てみるとそんな建物は街中には無く、地元の人に聞いてみると近くの山の中にあるという。
事実、幽霊屋敷の噂の元になったと思われるお屋敷は街を一望出来る小高い山の中腹辺りにあった。
こんな場所にこんな建物があればここは幽霊屋敷なんて噂が立つのも納得だ。
「でも、噂通りの所もあるみたい」
1つ目に、このお屋敷は本当に第二次世界大戦後に建てられたものらしく、お屋敷をぐるっと囲うレンガの塀に埋められた金属製の表札?には確かに英語で建築時期と名称が描かれている。
その他の文字は掠れて殆ど読む事が出来ないけど、これだけでも充分噂の証拠にはなる。
2つ目に、レンガの塀で囲まれた内側、つまりはお屋敷の庭はぱっと見確かに綺麗に整えられているように見える。
山の中だというのに落ち葉は殆ど無く、不法投棄されたゴミも見当たらない。
もしかしたら本当に誰かが管理しているのかも知れない。
とりあえず現状噂通りなのはここまで。
次はそろそろ写真を撮ってみよう。
「……うん。特に何も映らない」
写真を撮れば手や足が映るとは聞いたけど、その写真を撮った媒体が何かというのは詳しく説明された事は無い。
インスタントカメラなのか、一眼レフ?とか凄いお金がかかるようなカメラなのか、普通にスマホやガラケーに搭載されているカメラなのか。
いずれにしても私が用意出来るカメラはスマホに搭載しているカメラしか無いのでこれで検証するしかない。
「でも何枚撮っても映るのは何の変哲もないお屋敷や庭の写真だけ、か」
所詮は噂に尾ひれが付いただけのものだったのかな?
確かに雰囲気はあるけど今のところ幽霊屋敷って感じられる程決定的なものはない。
深夜に笑い声や灯りが移動するのが見えるってのもあったけど全然そんな事無いし。
後確かめて無い事は……
「幽霊屋敷の中に入ると入った後の事を覚えていないってやつか」
少し怖いけど、中に入らない事は確かめようがない。
入る前に準備をしよう。
まずは、胸ポケットにカメラレンズが出るように入れて動画撮影の状態にして私の代わりに記録を残すようにする。
これは記憶を無くしても動画で中で何があったかを確認する為。
次に、お屋敷に入った時刻をメモ帳に記入して出てきた時の時刻と比較してどれくらい経ったか確認する。
これは万が一何かしらの理由で動画が撮影出来なかった時、せめて入ってから出てくるまでの時間が分かれば中で何かがあったという事実を残す事が出来るから。
一応5分は中を探索するつもりだから入ってすぐに出る事は無いし、5分以上探索すれば普通記憶には残る。
だから保険の為にアナログな方法で記録残す。
とりあえずこの2つさえちゃんとやっておけば何かしらの結果は得られる筈。
「……動画撮影良し。時刻は午前0時32分。さぁ行ってみよう!」
☆★☆★☆
「……え?あれ?」
私、何したんだっけ?
お屋敷の中に入る準備をして、確かに入った……よね?
……あれ!?なんで記憶が無いの!?
嘘でしょ!?
「すー……はー……落ち着こう。落ち着こう。冷静になれ私」
1つずつ確認しよう。
まず私は動画撮影の準備と入る時刻をメモ帳に記入した。その後間違いなくお屋敷に入った。でも、記憶が無い。
噂は本当だったの……?
スマホに保存されいる筈の動画を見てみよう。
それで何があったか分かる筈。
「……無い。どこにも無い。保存されて無い!なんで!?」
確かに私は動画撮影の状態でスマホを胸ポケットに入れた。だったら何かしらの動画が残っていなければおかしい。
真っ黒な画面だけとか、音声だけとか、何か動画残っている筈なのに、何も残っていない。
これじゃ最初から何も撮影出来ていなかったか、撮影出来ていたけど動画を消してしまったかのどちらかしかありえない。
……駄目だ。考えても何も思い出せない。
でも、自分で消したのなら普通記憶に残る筈だから最初から撮影が出来ていなかった?
だとしても中を探索した記憶は自分で消す事は出来ないから本当に記憶が無くなった……?
メモ帳には何か残って無いだろうか。
今の時刻は午前1時13分。入る前の時刻は午前0時32分。
うわ……41分も間がある。
これはもう疑いようが無い。どうやら噂は本当で、お屋敷の中に入ると記憶が無くなるらしい。
「こんなの信じられる筈が無いけど、信じるしかない、か」
中で何があったのだろう。何を見たのだろう。
何をして、何をされたのだろう。
一番知りたい事が何も分からない。
動画も記憶も駄目となると手掛かりが何も無い。
まさかメモ帳に手掛かりを書いてるとは思えないし……
「あれ?こんなの私、書いてないよ?」
パラパラとメモ帳をめくっていたら、最後のページに何か書かれていた。
『ダイアモンドのペンダント』
この一文だけがメモ帳に残されていた。
他は白紙。あるのはお屋敷に入った時刻だけ。
「ダイアモンドのペンダント……もしかしてあれの事?」
私にはダイアモンドのペンダントと聞いて思いあたる物が1つだけある。
それが何を意味するのかは分からないけど、ここは一度出直そう。
多分これ以上ここに居ても得られる事は無いし何か新しい情報を得る事はきっと出来ない。
「必ずまた来るからね」
そう、一言呟いて私は幽霊屋敷を後にした。