プロローグ
『ねぇねぇ。知ってる?隣町の幽霊屋敷の噂』
科学と文明が発達し、これまで幽霊の仕業だと考えられてきた現象の殆どが科学的に立証されてきた今日この頃に幽霊屋敷なんて眉唾ものの存在を信じる人は少ない。
けれども例え幽霊の存在が科学的に立証される日が近いとしても、この手の話題に興味を持ってしまうのは私が高校生というお年頃の時期だからなのかも知れない。
ふとした時から噂され始めた幽霊屋敷の噂にはこんなものがある。
1.元々そのお屋敷は第二次世界大戦に日本が敗北し、GHQが日本を統制する為にアメリカから呼び寄せた将校が使用していたお屋敷だという事。
2.今は誰も使用していない筈だが、時折深夜に笑い声や灯りが移動するのを見かけた人がいるという事。
3.外壁やガラスは所々割れているのに何故か庭は綺麗に手入れされているように見えるという事。
4.面白半分、肝試し感覚でお屋敷の中に入って出て来た人は決まって入った後の事を覚えていないと口を揃えて言うという事。
5.夜中にお屋敷の写真を撮ると手足や顔のようなモノが写った心霊写真が撮れる事があるという事。
6.実は今現在もアメリカの諜報員がお屋敷を使用していて、入った後の記憶が無いのは記憶を消す最先端の装置がお屋敷の中に備えられていて、夜中に手足や顔の写真が映るのはステルス迷彩の起動実験を行なっており、それがまだ不完全な代物で姿を消しても写真には写り込んでしまうからという事。
他にもいくつか噂はあるが主に囁かれているのはこんなところ。
1つ目以外はあまり信憑性は無いのだけど、それっぽい噂を耳にすると誰かに語りたくなってしまうのが人の性のようで、人から人へ噂が伝搬していくうちにクラスでの話題は専ら幽霊屋敷の噂で持ちきりになった。
『中学校の時の友達が今隣町にいるんだけど、幽霊屋敷の噂マジらしいよ』
『俺の親戚から聞いたんだけどさ、あの幽霊屋敷の中、実はかなりの数のアメリカ人が居るらしいぜ』
『隣町の警察署には毎日のように問い合わせがあるってマジ?幽霊屋敷に肝試しで入った人が帰って来なくなったって。ヤバくない?』
噂というものは一過性のもので、時間とともに飽きられ忘れ去られていく。
それはどんな内容の噂であれ、当たり前の事。
これまでも数多くの噂がクラスで話題になったが今ではその殆どが誰もの記憶に残っていない。
私自身、以前どんな噂が話題になったか覚えているものは少ない。
だからこそ、この幽霊屋敷の噂もすぐに別の話題で上書きされると思っていた。
けれども私の予想に反してこの話題は暫くクラスを盛り上げ続けた。
隣町というある程度身近に感じられる距離に実在するお屋敷が大元の噂だからか、暫くこういった手の都市伝説的な噂が流れる事が無かったからか。
それとも少しオカルティズムな要素を含んだ噂が多くの人の好奇心を掻き立てたからか。
理由は分からないが、私も今尚幽霊屋敷の噂に虜になっているうちの1人だ。
それ故に時間と共に様々な憶測や考察が飛び交う中、ただ噂話を聞いているだけではどうにももどかしい。
誰もが[誰かから聞いた]という話を伝言ゲームのように話すだけで、その人自らが幽霊屋敷に行って真偽を確かめたという話は聞かない。
どうせならもっと詳しく、より真実に近い話を聞きたい。
でも、誰も面倒くさがって幽霊屋敷まで行こうとはしない。
それならどうしたらいいか。
考えるまでも無い。
自分で直接幽霊屋敷に行って確かめてくれば良い。
これまで聞いてきたあらゆる噂の真偽を自分で確かめれば良い。
そうと決まれば早速準備に取りかかろう。
思い立ったが吉日。
幸いにも明日から土・日・月で祝日を含んだ三連休だ。
親には適当な所に遊びに行くと行って外泊すれば深夜にじっくり幽霊屋敷を探索出来る。
ちょっとワクワクしてきた。
明日が楽しみだ。