修学旅行
小学6年生の修学旅行。生徒たちは朝早くから学校の校庭に集まり、貸し切りのバスに乗って駅まで移動することになっている。
駅に到着すると、先生の指示に従いながら、生徒たちが座席表を確認していく。全員が電車へ乗り込むと、発車ベルを鳴らしながら静かに電車は動き始めた。
電車の中は活気あふれる生徒たちで、お祭りのような雰囲気になっていた。写真を撮る生徒にお菓子を食べる生徒。先生とゲームで遊んだり、他のお客さんと仲良くなる生徒もいた。
「先生、サトウ君が…」
1人の女子生徒が、席に座っていた保健室の先生へ声をかけた。どうやら体調不良の生徒がいるらしい。
「サトウ君、何かあったの?」
保健室の先生が顔色の悪いサトウ君へ優しく話しかけた。サトウ君は、とても病弱な男の子だった。学校を欠席することも多く、修学旅行も欠席すると思われていた。しかし、修学旅行当日の朝、元気そうなサトウ君がみんなの前に現れた。みんなはサトウ君が修学旅行に参加することをとても喜んだ。
「大丈夫です。少し休めば楽になりますから…」
先生たちはサトウ君を帰宅させようとしたが、サトウ君の気持ちを考えた結果、宿泊先に到着するまで様子を見ることにした。しばらくすると、電車が目的地の駅に到着した。ところが…
「先生!サトウ君が帰ってきません…」
電車のトイレに行ったサトウ君が、駅に到着しても戻ってこないと生徒たちから連絡を受けた。先生たちは慌ててトイレの中を探したが、不思議なことにサトウ君はどのトイレにも入っていなかった。
「もう電車を降りて、集合場所に向かったのでは?」
駅の集合場所にいる先生へ連絡を取ってみたが、サトウ君はまだ来ていなかった。先生たちと駅員さんが、駅の中を必死になって探し回ったが、サトウ君を見つけることはできなかった。
途方に暮れていると、先生の携帯電話に学校から連絡が入った。電話に出た先生が、通話先の先生と口論しているのがわかった。
「昨日亡くなった?彼はみんなと一緒に電車に乗っていたんだぞ!」
その場にいた生徒たちは、何が起きているのか状況を理解することができなかった。サトウ君は、修学旅行の前日に母親との無理心中で亡くなっていた。息子の病気に絶望した母親が、家に火を放ったらしい。
生徒たちは急いで宿泊先の旅館へ移動させられると、サトウ君は家に帰ったと説明を受けた。その後、修学旅行は予定通りに行われた。修学旅行が終わった次の日、生徒たちは学校からの連絡網でサトウ君の死を知った。
生徒たちは、サトウ君が修学旅行の後に亡くなったのだと思っている。当たり前のことだ。電車で撮った写真の中に、笑顔のサトウ君が写っていたのだから…