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メメントモリ
歩く度に視界に入る黒い影。
近寄って来るでなく、ただ距離を離さずついて来る。
声をかけても、物を投げても離れない。
その影が誰かに近づくのが嫌だから人と距離を取っても。影は常に笑うわけでも馬鹿にする訳でもなく傍にいた。
ふと、歩道橋から下の道路を見下ろした時、影は前に回ってきた。じっと見ているかの様だった。
目を離せないでいたら、通りがかりの警察官に心配されて声をかけられた。影は見えなくなった。
長い人生の中、裏切りも信用もあったけれど、影はずっといた。私にしか見えなかったのだろう。
私が病床に伏して、病院で静かに寝ていた時に、影は優しく顔を撫でて来た。
影そのものに、いいも悪いも無くただそういうものなのだと分かった。
汝、死を忘れるなかれ。
いつも近くにいたものね。
汝、死を恐れるなかれ。
いつも近くにいたもんね。
私は最期にただ静かにそれに委ねて目を閉じただけだった。
以前投稿した詩を改稿したものとなります。
メメントモリ―汝、死を思え、されど、死を忘れるなかれ。恐れるなかれ。




