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第6話 イチゴ園を目指して

 再び道を歩いていく。外の日差しは眩しくアスファルトを照らしている。

 さっきまでいたギルドの建物の中は空調が効いていて快適だったこともあって和音はもう段々と外を歩くのに疲れてきていた。

 桜来の方はまだまだ元気でイチゴが楽しみな子供のように両手を振って歩いている。こんな時はクールな和音も毒舌を吐きたくなる。


「あんたは元気ね。お子様みたい」

「でも、お腹が空いてきたわ。このミッションが終わったらお昼ご飯にしよう」

「これが終わったらって、それ死亡フラグ? あんた死ぬの?」

「死なないし結婚もしないよ!」


 そんな些細な冗談を言っている間に都市の町並みを抜けて、緑の田園風景が広がった。ここは都市の中に作られた緑の区画のようだった。


「この先にイチゴ園があるのね」

「そうみたいだね。行こう」


 依頼書の地図を見て目指す場所が合っていることを確認し、桜来と和音は再び歩き出す。騒がしい都会から落ち着いた風景に代わって疲れていた和音もちょっと元気が出た。

 のどかな道路脇のポストの横に<各地のスタンプを押そうコース>の判子があったので二人とも押した。和音はパンフレットを見て少し微笑んだ。


「このコースのスタンプもやっと3分の1と言ったところね」

「これを全部集めたら神龍でも出てくるのかな。出でよ、神龍!」

「ナメック語をマスターしておいた方がいいかもしれないわね」


 くだらない冗談を言いながら歩いていく。そして、ほどなくして目指していたイチゴ園に辿り着いた。

 そこは緑の生垣に囲まれた広そうな場所だった。


「わりと本格的だね」

「都市のアトラクションの一部として整備されているのかもしれないわ」

「よーし、入るよ。たのもー」

「うわっ」


 入ろうとしたらちょうど一緒に来た観光客と肩をぶつけあってしまった。入口は人が一人通れる幅しか無かったのだ。

 ぶつかった相手はツンツンとした髪をしたロックバンドでもやっていそうな体格の良い青年だった。

 恐い人だったらどうしようと桜来は思ったが、彼は優しい気づかいを見せてくれた。


「大丈夫だったかい? お嬢ちゃん」

「はい、これぐらいなら」


 目上の人からお嬢ちゃんなんて言われたらさすがの桜来でもちょっと照れてしまう。和音はムッとした。


「隼人さん、早く入りましょうよー」

「もーちゃん、イチゴ園は逃げないからそんなにはしゃがないの」


 男の傍では彼の連れだろう小学生ぐらいの背の低い二人の少女がいて、天真爛漫そうな少女が跳ねて真面目そうな少女が注意をしていた。

 園の入口は一人が通れる幅しかない。桜来と隼人はお互いに数秒見つめ合って、


「「どうぞどうぞ」」


 お互いに譲り合ってしまった。もーちゃんが驚きと不満の声を上げる。


「隼人さん、まさかあたしというものがありながらその子と付き合って……!」

「お兄さんって本当に小さい女の子が好きですよね」

「何でだよ! 道を譲ってやっただけだろ!」


 何だか言い合いを始めたのを、桜来はぼんやりと見ていた。聞こえてきた話によると大人の男性は隼人、小学生の女の子二人は桃乃と律香という名前らしい。

 そして、小学生の桃乃と大人の隼人さんは付き合っているらしい。どういう関係かよく分からない。

 ぼんやりと見続けていると、和音が袖を引っ張って囁いてきた。


「長くなりそうだし、先に入りましょう」

「うん」


 促され、先に入ろうとすると、桃乃に気付かれた。


「あー、隼人さん! 先に入られます!」

「いいんだよ。先は譲ってやるもんだ」

「さすが隼人さん! 大人の対応だー」

「もーちゃんも大人になってよ」


 律香がやれやれと肩をすくめる。三人は本当にどういう関係なのだろうか。和音に背を押されながら桜来は気になったが、すぐにどうでもよくなった。

 目の前にイチゴ園の風景が広がったからだ。受付の農民らしい老人が声を掛けてくる。


「イチゴ園は有料。冒険者のテストを受けに来た人なら一回限りで無料だよ」

「わたし達、テストを受けに来ました」


 桜来はギルドで受け取ったミッションの紙を見せた。老人は確認してうなずいた。


「ふむ、ではこの籠にイチゴを集めておいで。制限時間以内にな」

「制限時間があるの?」

「あるよ。冒険者になるのが簡単なことだと思ったかね?」


 瞼を上げた老人の眼光は鋭く、彼がかつては凄腕のベテラン冒険者であったことが伺えた。

 その気迫に吹き飛ばされそうになりながら耐え、桜来は逆に気迫を押し返した。


「やるよ、わたしは! ここでイチゴを集めて世界一の冒険者になるんだ!」

「ならば結果を出してその気概を見せてみよ!」

「もちろん!」

「別に世界一じゃなくても良いんだけど……」

「行くよ、和音!」

「あ」


 そして、桜来は和音の手を掴んで引っ張り、イチゴ園の中へと踏み込んでいった。

 果たしてそこでは何が待っているのだろうか。

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