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1 花咲き娘、食堂で働く

本日二話投稿しておりますので、未読の方はご注意ください


さてさて、時が経つのは早いもので、ローズ家から勘当されて二ヶ月が経った。

私は現在、町の食堂で働いている。


二ヶ月前、私は勘当されてから一週間ほど宿で寝泊まりをしていた。その間に初心者でもできる仕事を探していたのだけれど、住み込みで出来る仕事がいくつかあった。

そしてその中の一つに町の食堂があったのだ。


何故、町の食堂に決めたのかというと幼い頃、お祖母様から聞いた話の中に今の私に似た現状の話があったからだ。


お祖母様は度々私に、ニホンの世界で流行っていた話を教えてくれた。

そのうちの一つに断罪された令嬢が町の食堂で働く、というものがあった。

お祖母様はザマァと呼んでいたその話が、かなりお気に入りらしく、「ないとは思うけどあなたもそういう状況になったら町の食堂で働くのがオススメよ」と何回も私に言い聞かせていた。

それを仕事を探している最中に思い出して、これは運命かもしれない、とこの仕事を選んだのだ。


ザマァの意味は今もよく分からないけど、結果的に今働いている食堂はとても良い職場だし、ここを選んで良かったと思ってる。

まあ、フライパンを持つ手が毎日のように筋肉痛でパンパンになるのは辛いけど·····。




「アリーサ!起きてるー?!」

ベッドの上で目を擦っていると、下の階からミャーシャさんの声が聞こえた。

ミャーシャさんは私が働いている食堂のおかみで、私の雇い主だ。かなりふくよかな身体をしていて豪快に笑う方。

こういうのなんて言うんだっけ、そう、肝っ玉かあちゃんだ。


「はーい、起きてます!すぐに準備しますね〜」

返事をしながら、私はベッドから降りて着替える。

着るのはもちろん、ドレスなんて動きにくいものじゃなくて動きやすい麻のワンピースに少しデザインが加わったもの。

いつも、これにエプロンをつけて仕事をしている。

私としてはドレスなんかよりもこっちの方がよっぽど自分に合っていると感じる。

少しボサついている髪をくしで解いてから、紐で括る。

よし!今日も頑張ろう。


私は鏡の前で笑顔を作ると、下にある食堂へと降りていった。




「おー!俺達の癒しが起きてきたぞー」

食堂に出てお客さんに挨拶していると、常連のおじさんがガハハと笑いながらそんなことを言った。

「なに馬鹿な事言ってるんですか、ほら早く食べて!外にお客さん並んでるんだから」

「なんだよ〜、ちょっとくらい相手してくれたっていいじゃねーかよ〜」


おじさんが口をとんがらせても可愛くない。


私がおじさんをスルーして仕事に戻ろうとすると、彼がいじけ始めたので、仲間のおじさんに慰めてもらうよう頼んでその場を離れる。

「アッハハ、あんたも冷たいわねぇ。おっさん達はあんたと喋るのを楽しみにこの食堂に来てるんだから、ちょっとくらい相手してもあたしゃー怒らないよ」

その様子を見ていたのか、ミャーシャさんに乱暴に頭を撫でられながらそんなことを言われた。


「ミャーシャさんまで·····。ダメですよ、私あんまり体力なくて少ししかお店の力になれてないんですから沢山働かないと」

「そんなのいいのよ〜。

重要なのはこんなジジババだらけの所に若い子がいるってことよ!それに、あんたはなんか独特な雰囲気があるのよねぇ·····」

「ど、独特な雰囲気ですか?」

「そうそう。なんて言うか·····」

「おばちゃん、豚丼定食ひとつー!」

ミャーシャさんと話していると、お客さんからの注文が入った。

「あ、はいはーい!まあ、取り敢えずおっさんだって寂しいのよ。相手してあげて」

「はぁ」

私が曖昧な返事をすると、ミャーシャさんは肩を叩いて厨房へ向かった。

·····え、独特な雰囲気ってなんですか。すごく気になるんですけど?!


私に会いに来てくれてる、とは思えないけど、でもこのお店に来る理由の一つに私がいるからって考えてくれる人がいるのは、嬉しい、かも。


ニヤけそうになる頬を抑えていると、頭の上がムズムズしてきた。


あ、やば。


「ごめんなさい。ミャーシャさん、ちょっと忘れ物したから一回部屋戻るね!」

「おー!いっておいで〜!」

私はミャーシャさんの声を後ろに聞きながら自分の部屋へと駆け込んで、鍵をかけた。


それと同時くらいで頭の上でぽんっと軽い音がした。


·····危機一髪!


頭の上を触ると、そこにはやはりモサモサとした感触。

あ〜あ、また咲いちゃった。


ブチッ


私は手早く頭の上に咲いた花を引き抜くと、ため息をついた。


そう、あれからも私の頭の上に花が咲くという怪奇現象は続いていた。

相変わらずその原理は全くわかっていない。


ただ、ここで働くようになってから、とりあえず花のことを知ろうと国立図書館に行って調べて見たら、どうやら一番最初に咲いた白い花がガーベラ、二回目の咲いた黄色の花がゼラニウムというらしい。

ガーベラの花言葉は『奇跡』

ゼラニウムの花言葉は『予期せぬ出会い』


結論から言うと、花の名前や花言葉がわかったからといって、謎は何も解決されなかった。

まあ、当たり前っちゃ当たり前なんだけど·····。


取り敢えず、今はまだ誰にもこのことは言っていない。

今のところ実害はないし、まだ自分自身よく分かっていない現象を人に話すのは気が引けてミャーシャさんにも言えずにいる。そもそも頭の上から花が咲く人間って少し気味が悪い気がするし。


さて、戻らないと。

私は花を持ったまま下に降りた。



「ミャーシャさん、忘れ物ついでに綺麗な花が咲いてたから、摘んできたよ〜。飾っておくね」

ミャーシャさんに報告しながら、私は花瓶を出して花をいける。

特に害はないみたいだし、私はこうして自分の頭に咲いた花をちょくちょく店に飾っている。


「あら、ありがとう!あなたの摘んでくる花は不思議と枯れにくいのよね〜。それにとっても綺麗だし、アリーサはきっと花を見る目があるのね」

ニコニコと笑って頭を撫でてくれるミャーシャさんに、常連さんが「ミャーシャに花の良さがわかんのか〜」なんて言って茶化してくる。

ピクリ、とミャーシャさんが反応した。

「あらぁ、レディにそんなこと言っていいのかしら?」

指をボキボキ鳴らしながら近づいてくるミャーシャさんに常連さんが青ざめた。

「い、いや、ちょ、ちょっとした冗談だって、な、な?」

「ふふふふ。私、この前もそんなこと言っていいの?って忠告したわよね?わからず屋にはちょっとおいたが必要よね」

「え、ちょっ、ま、だ、誰か助け·····」


常連さんの雄叫びが聞こえてきた。

見てない見てない。私は何も見てない。


食堂にいる人、全員が一斉に下を向いた瞬間だった。






「お〜、今日も相変わらず賑やかにやってるなぁ」

ミャーシャさんが常連さんを亡きものに·····じゃなくて、お仕置きが終わってからしばらくして、食堂の入口に豪快に笑う一人の男性が現れた。

「おー!ミストじゃねーか!久しぶりだな!」

「おー、おっさん!久しぶり!若干禿げたか?」

「ハゲてねーよ!」


常連さん達と慣れた口ぶりで会話をするかなりガタイの良い男性は私の記憶にはない方だ。

誰だろう?常連さんかな。


でもこの二か月間、一回もお店に来てない気がするけど·····。

昔馴染みの人なのか?


なんて思っていると、後ろからミャーシャさんの「まぁ!!」といういつもより高い声が聞こえてきた。

「ミスト!!やだぁ、帰ってくるなら言ってよ〜!もう、私こんな汚い格好で·····」

「何言ってるんだ、マイハニー。ミャーシャはいつどんな格好をしてても可愛らしいよ」

「もう、ミストったら!!」


·····え、なにこれ。


思わず半目になってその光景を眺めていると、常連さんのひとりが私に近づいてきた。

「ああ、アリーサちゃんはこれ見るの初めてだったっけか?あいつはミスト。見ての通り、ミャーシャの旦那で確か、この国の騎士団長とかじゃなかったけかな。仕事で滅多に帰って来れねぇんだが、帰ってきた瞬間、ずっとあの調子なんだよ。一種のイベントみたいなもんだ」

うへぇ、とでも言いたげな常連さんに私は全力で同意する。


大柄の男性がミャーシャさんを包み込むように肩をだき、ミャーシャさんはそんな男性に頬をほんのり赤らめている。


なんだ、あの甘々な空間は。口から砂糖吐きそう·····。


ミャーシャさんが結婚していて、旦那さんが仕事で忙しくて滅多に帰って来れないというのは聞いていたけれど、まさかあそこまでラブラブだとは·····。


夫婦愛なぞ皆無だったローズ家との差に内心とてもビビっている私に「ごめんね」と声をかけてくる人がいた。



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