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4 花咲き娘と学園


とはいえ、だ。


理由はどうであれ、私は過去にユーリイに身勝手を押し付けてしまっている。

そのくせ自分はユーリイのお願いひとつにさえ頷けないなんて曲がりなりにも義姉として、というか人間としてダメだろう。


「·····分かった。でも理由を聞いても良いかしら」


頷いた私に一瞬顔を明るくさせたユーリイだったけど、続いた言葉に言葉を詰まらせる。


「·····その、非常に情けない事なんですが学園がもう限界なんです」


ああ、どうしよう。もうその言葉だけで益々行きたくないです。


「·····限界ってどういうことかしら?」


「前に説明した通り、学園は生徒内の対立があり暴徒化する生徒も出てきています。ですがそれでもリリア対立派の生徒はなるべく穏便に事を済まそうとしてきました。

しかし、先日リリア対立派の生徒が傷つけられたことによって生徒間の空気がよりピリついたものになっています」


「·····まって?ユーリイ、なんだかその口ぶりだとまるで私が学園に行けば全てが解決すると言ってるように聞こえるわ」


冗談のつもりでそう言えばユーリイは神妙な面持ちで頷いた。

え、なんだって?


「もちろん、僕もいくら姉上といえどこれ程の騒動を一人でおさめることは不可能だと分っています。でも他の生徒は違う。

皆、本気で姉上の介入を望んでいます。解決とまではいかなくても少しでも生徒の雰囲気を良くして欲しいんです。僕もこれ以上暴力沙汰を増やしたくない。ですから、どうか姉上の力をお貸し頂きたい」


臆病者な私からするとユーリイの話はまるで別人の話を聞いているようだ。思わず顔も引き攣る。


でも、私にはそれが事実でなくとも学園に行く義務があると思う。

なんせ学園が荒れている要因には私も含まれているだろうから。

本当は行きたくない。出来ることならもう一生あそこには行きたくないけども。過去に残した蟠りや後悔にちゃんと向き合う為にも私は頷いた。


「そういうことなら私に出来る精一杯のことはする。·····ただ、一つだけ私からもお願いしても良いかしら?」


「もちろんです、なんでしょう?」



ここまで散々カッコつけたことを言ってきた私だけど、何度でも言う。私はあくまでも臆病者(チキン)だ。

一人であんな茶番を演じた学園に戻るなんて勇気あることは出来ない。だから私はユーリイにあるお願いをした。



「同伴者を一人つけてもいいかしら?」





◇◆◇




「·····は?学園についてきて欲しい?」


ピークも終わりまったりと食堂の片付けをする中、持ちかけた話にアルトさんはぽかんと口を開ける。


「はい。無関係なアルトさんを巻き込むのは本当に申し訳ないと思ってます。でもどうしても一人で行く勇気が出」


「いや、違う違う。大事なのそこじゃない」


「え?」


他になにか大事なことあったっけ?

言葉を遮られた私は考えを巡らせるものの、思いつかない。

が、そんな私を見てアルトさんは驚いたような確かめるような顔つきになった。


「何?アリーサちゃんて元々ローズ家の生まれだったの?」


「·····え、あれ?アルトさん、知らなかったんですか?」


てっきり知っているとばかり思っていた。


驚く私にアルトさんは説明してくれた。

曰く、聖女云々の騒動があった時に幾らでも私の身元を知る機会はあったらしいのだけど、せめて必要以上に私の情報を探らないという約束だけは守ろうと律儀に見ないでいてくれたらしい。

その上、最近貴族社会で社交をしていなかったアルトさんは私の顔も知らなかったという。


「·····なるほど。じゃあ本当に知らなかったんですね」


「だからさっきからそう言ってる。·····じゃあこの前アリーサちゃんの部屋にいた銀髪の男が今回その頼み事をしてきた義弟くん?」


「そうです。私も色々とあの子には世話をかけているので出来れば力になってあげたくて」


「·····ふーん、なるほどね。わかった、そういうことなら同伴するよ」


ニコリと笑うアルトさんに私は思わず拳を握る。

よっしゃ!これはかなり力強い!!


「よろしくお願いします!」


少しだけ軽くなった心で私は頭を下げた。

·····うん。相変わらず休むことなく胃は痛いけど頑張ろう。







それから数日後、私達は約束通り学園に向かった。


正直、寝不足だ。

帰りたい。おうちに帰りたい。今すぐベッドの中でこもっていたい。食堂で常連のおじちゃん達と話してたい。


「大丈夫?リラックス、リラックス」


トントンと背中を叩かれて振り返ると、優しく微笑むアルトさんがいた。

·····なんか今日はいつも以上にイケメンに見えます。お兄さん、眩しいっす。


「·····ありがとうございます」


自分とは違っていつも通り冷静な様子のアルトさんを見習って私も落ち着こうと深呼吸をする。


·····大丈夫。私にはアルトさんがいる。



「·····行きましょうか」


背筋を伸ばして、覚悟を決めて。


私は久方ぶりに学園へと足を踏み入れた。





「姉上」



懐かしい景色をしばらく眺めていると、ユーリイが走ってくるのが見えた。


「お越しいただきありがとうございます。·····そちらが同伴の方ですか?」


「会うのは二回目だよね。よろしく」


アルトさんはユーリイの視線にニコリと読めない笑みを浮かべる。



「よろしくお願いします」


それに応えるユーリイはいつも通り無表情だ。

が、心做しか少し表情が硬い。

なにやらぎこちない両者の雰囲気に戸惑っているうちに二人は視線を逸らす。


「それじゃあ案内しますのでついてきて下さい」


少しのピリついた空気を残して私達はユーリイの後に続いた。




校舎に入るとやけに静かなことに気づいた。いっそ不気味な程に人気がない。

ほぼゼロと言っても良い。


「やけに人が少ないね」


アルトさんが隣で呟いた。


「·····その事なんですが、少し事情が変わりまして」


その声に反応したのはユーリイだ。

何故か気まずそうに下を向く。


「姉上が来ることを生徒に伝えたところ、それなら講堂で然るべき場を作ろうと盛り上がってしまい」


「え」



嫌な予感しかしないぞ?




「結果、多くの生徒が講堂でお二人の到着をお待ちしています」








まーじーかーーー。











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