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42 花咲き娘、噂になる


「ねえ、あの話聞いた?」


「あの話って?」


「ほら、例の妖精の奇跡ってやつ!」


「知ってるに決まってるじゃない!今、街も城もその話で持ちきりよ!」



城の中を歩いていると、ヒソヒソと城仕えの人達が話をしているのが聞こえた。

思わず俯く私に、後ろにいるランサさんが気まずそうにそっぽを向き、ミカオさんはプルプルと笑いを堪えているのが見えた。


おい、そこ。目を逸らすのは良いとして笑うな。


ミカオさんを睨みつけると、慌てて目をそらされた。



そんな様子に私は無意識のうちに溜息をついてしまう。

·····まさかこんなことになるなんて思ってなかった。



私のテンションが異常に低い理由。そして、「妖精の奇跡」について話すには時を三日前まで遡る必要がある。





三日前、私は目を覚まして早々にアルトさんのせいで再び気絶した。

そして次に起きた時、城の中はとにかく騒然としていた。


部屋にも誰もいないし、姿は見えないけどなにやらバタバタとしているようだし何か面倒事でも起こったのかと首を傾げていると部屋の扉が開いた。

入ってきたのはアルトさんだ。


「あ、起きたんだね。良かった」


ニコリと微笑まれて先程のことを思い出して恥ずかしさが再発する。

が、それ以上になにが起こっているのかが気になった私はアルトさんに「何かあったんですか?」と問いかけた。


するとアルトさんが目を丸くさせた。

珍しいその表情に眉を寄せると、アルトさんは「覚えてないのか」と呟いた。


·····え、何を?


「アリーサちゃん、外見た?」


「·····え、まだ見てないですけど」


「じゃあ見てみて」



言われた通り、ベッドから出て窓のカーテンを開ける。

すると、そこに有り得ない景色が広がっていた。


現在、この国は冬季だ。その、はずだ。


吹く風は寒いし、草木の葉も散ってどこか寂しげな様子だった。

·····そう、昨日までは。




それなのに、今部屋の窓から見える景色はどう見ても異常だ。



青々と生い茂る草木と、満開に咲き誇る花達。

寒さに弱いはずの花達も関係なく咲いていて、おまけに虹まで出ている始末。


やけに生き生きとしている花を見てある可能性に行き着いた私はひくり、と頬が引き攣るのを感じた。

呆然とする私の後ろからクスクスと笑う声が聞こえた。

·····言わずもがなアルトさんだ。



「ど、どういうことですか」

驚きで目を白黒させながらアルトさんを見るも、彼は「どういうこともなにも」と楽しげに私を見る。


「これ、アリーサちゃんがやった事だよ?」


「·····はい?」



もう一度窓の景色を見る。


「·····これを?」


「それを」


「私が?」


「アリーサちゃんが」


「やった?」


「やった」


頷くアルトさんをまじまじと見る。

·····嘘、ついてる顔じゃないな。

え、じゃあこれ本当に私がやったの?

·····どうやって?



「アリーサちゃん、目が覚めてから直ぐに気絶したでしょ?」


混乱の真っ只中にいる私にアルトさんが説明を始める。

·····まあ、気絶しましたね。原因貴方のせいですけど。


「その瞬間にアリーサちゃんの頭から花が咲いたんだ」


「え"」


「でも、前に見た咲き方と違って今回は何故か小さな花がいくつか蕾のままで空に舞った」


「空に舞った·····?」


そんな花の咲き方、私も知らない。




アルトさんは頷いて話を続ける。


「いくつかの花の蕾が空に舞ってふわふわとしばらく空間を漂ってた。あんまりにも幻想的な景色に目を奪われて俺が動けないでいるうちに、花は一斉に開花を始めた」


その時の景色をなんとか想像しながら話を聞く。


「その瞬間、花から白いあたたかな光が出てこの部屋を、いや、もしかしたら城中を包み込んだ。そして、その光は留まることを知らずに外にまで広がり、世界を白く染めあげた」


まるで何かの御伽噺でも聞いているような気分だ。

まさか私が間抜けに気絶しているうちにそんなことが起こっていたとは·····。

話を聞いても未だに現実感がない。


「全てが一瞬の出来事だったよ。光に目がくらんで瞑っていた目を開けた時にはもう部屋は何事も無かったかのように静まり返ってた。で、何気なく窓の外に目を向けた時にはもうこんな景色になってた」


「う、うわあ·····」


自分でやったこと(らしい)のにドン引きしてしまう。

なんだその能力。やばいな。

意味がわからないにも程がある。


微妙な顔をする私にアルトさんは楽しそうに目を細めた。

「でも、綺麗だろう?この景色」


言われた私はもう一度、窓の外に目を向ける。


「·····まあ、綺麗ですけど」



そう。窓の外の景色は本当に綺麗なのだ。

どの草花木も生き生きとしているし、色とりどりの景色はまさに楽園のようで。


私だって無関係だったら、この幻想的な光景に目を輝かせていただろう。

でもこれが自分の頭から生まれたのかと思うと·····。


恥ずかしがればいいのか、素直に景色を楽しめば良いのか。



結局その日はまだ無理はしない方がいいと説得され、部屋で大人しくしていたのだけれど、大変だったのは次の日からだ。


体調に異常なしと判断され、やっと部屋から出れたと思ったらミユハさん、ミカオさん、ランサさんが真っ青な顔して立っていて、これまでの御無礼云々と謝られたので急いで止めた。

何事だと話を聞けば、どうやら王様から色々聞いたらしい。

一応聖女のことは話していないようだけど、それ以外はかなり危ういラインのところまで説明したらしい。


国王様、いくら国を変えていくと決意したとはいえ、色々一気にぶっちゃけ過ぎだよ·····。


と思いながらも、再び謝ろうとする三人を宥める。

何とか今まで通り接してくれと懇願を続けると恐る恐るではあるものの、三人ともいつも通りに接してくれた。



が、問題はそれだけで終わらない。


城を歩いているうちに嫌でも耳に入ってくるのが、例の狂い咲き(私の能力)についてだ。

あの現実離れした状況はどうやら通称『妖精の奇跡』なんてファンタジーな名前で呼ばれているらしい。

一体何故あんな現象が起こったのか、聖女のことを知らない専門家たちは今世紀最大の謎を解き明かそうと躍起になっているらしい。

そして、あとから聞いた話だとあの力は驚くことにこの国全体にかかっているらしく、今この国ではどこも花が咲き乱れている。

国内外で話題になったその力は当然ミカオさん達も知っていて、私がその原因もとい要因だということを知らない二人は私の目の前で毎日その話をした。


そして、それに耐えられなくなった私が音を上げたのが昨日のことだ。

ずっと色々な憶測と妖精を連呼するミカオさんとランサさんに耐えきれなくなった私は国王、王弟殿下、アルトさんに相談し、自分が聖女であることを明かした。


最初、あまりにも壮大なスケールの話に戸惑っていた二人だったけど先日の件でだいぶ感覚が麻痺しているのか、割とすんなり受け入れてくれた。


そして聖女に関しては口外しないと約束してくれた二人は、結果そのまま私の護衛をしてくれている。

·····とはいえ、いずれ食堂に戻るつもりではいる。

早くミャーシャさん達に会いたいしね。
















キリが悪くて申し訳ないです。

読んでいただきありがとうございました!

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