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41 花咲き娘、キャパオーバーする

難産でした·····!


ふかふかとした布団に包まれている。

寝心地が良くてもう少し寝ていたいのだけど、何故か起きなければいけない気がして私はゆっくりと目を開けた。



目を開いて視界いっぱいに広がったのは、恐ろしい程に美しい顔だ。


「ひえっ!!」



それがアルトさんの顔だと認識した瞬間、思わず口から情けない声が出た。

逃げるように飛び起きた私を見てアルトさんが顔を意地悪そうに笑った。


「酷いなあ。起きて早々に人の顔みて悲鳴あげるなんて」


そう言いながらベッドに腰掛けたアルトさんは私に紅茶のはいったコップを渡してくれる。

「はいこれ。ちょうど今淹れてきたんだ」

「あ、ありがとうございます」


素直に受け取って紅茶を口に含む。

「·····美味しい」


思ったよりも喉が渇いていたようで貰った紅茶は直ぐに飲み終わってしまった。


「お口にあったようで良かった。どこか痛いところはない?」


アルトさんに言われて思い出した。

そうだ、私は確かジュリーナ姫に攫われてそれで·····。


「あ、あの後どうなったんですか?!ジュリーナ姫は?!あの女の人は!」


焦る私にアルトさんは優しく微笑んだ。


「大丈夫だから、少し落ち着いて。アリーサちゃんは身体大丈夫だね?」


「はい、私は大丈夫です。それよりジュリーナ姫は·····」


「今治療を施してもらってるよ。まあ、多少の腫れはあるけど骨とかに異常はないみたいだから安心して」


「そ、そうですか·····」


「うん。あと女の人っていうのはアンナ・リーメンのことだよね?」


「フルネームは分からないですけど、ジュリーナ姫はアンナと呼んでいました」


「じゃあその人で間違いない。アンナ・リーメンは今牢屋の中にいる。逃亡しているところを騎士団が捕らえた」


牢屋の中·····。


黙り込んだ私の頭をアルトさんが撫でた。


「どうせアリーサちゃんの事だからそんな顔するんだと思ったよ。大丈夫、あの人の処分についてはアリーサちゃんが起きてから決めて欲しいって頼んでおいたから」


そんな顔ってどんな顔だ。


とはいえ、そうか。まだあの人の処分は決められてないのか。良かった。


ほっとため息をつく。


「俺は許してないけどね」


ポツリと低く呟かれた言葉に顔をあげれば、真剣な顔をしたアルトさんがいた。

「幸い俺達が間に合ったからアリーサちゃんは今元気だけどもしも間に合ってなかったら死んでたかもしれないんだよ?そしてその犯人がアンナ・リーメンだ。許せるわけが無い」


それに、と続けたアルトさんは私の手首を掴んだ。

その手にはいつの間にかくっきりと手形の痣がついていた。

多分あの男の人に掴まれた時についちゃったんだろうな。

かなり強く握られたし·····。

なんて思っているとアルトさんがそれを見て顔を歪ませた。


「こんな痕がつくほど強く握られて·····」


すりっ、と撫ぜられるのがこそばゆくて僅かに腕を引こうとするも上手くいかない。

それどころかやんわりと掴まれているはずなのに掴まれた腕はビクともしなかった。


「攫われたって聞いて、頭が真っ白になった」


いつもより甘く、低い掠れた声で囁かれて私の心臓はバクバクとうるさく音を立てる。多分顔も真っ赤になっている。


だって、なんかこれ凄く大事にされてるみたいで·····。


これ以上何か言われると色々バレてしまいそうで手を離して欲しい、とお願いしようと顔を上げて、アルトさんと目が合った。


アルトさんは掴んだままの手首を口元まで持っていくと、ちょうど痣の部分に口付けた。


チュッ、と軽いリップ音がして柔らかい感覚が離れてゆく。

「なっ、なっ、なっ、なっ!!」


「アリーサちゃんの手首を掴んでいる男を見て、正直な話殺してやろうかと思ったよ」


慌てる私から目をそらさずにアルトさんがまるで何かを抑えているように話す。

初めて見た明確な怒りの様子に驚く私に気づいたアルトさんは、「でも」と言うと眉を下げて微笑んだ。


「·····本当に無事でよかった」


そして、ふわりと抱きしめられる。


優しい香りに包まれて体温が伝わってきた。

あ、まって。これは、やばい!!何がって!色々!



最早、顔が沸騰しているレベルで熱くなっている私はもごもごと藻掻く。


「お願い。もう少しだけこのままで居させて」


が、好きな人に耳元でそんな声で囁かれたら、動けなくなるに決まってる。


今度はぴしりと石のように固まる私を抱きしめるアルトさんは何も言わない。

そのせいで聞きたくもない自分の鼓動がうるさいくらいに聞こえてくる。気のせいか、鼓動の音もドコドコドコとか意味不明な音を立て始める。大丈夫かな。私死なないよね?

このままだと心臓破裂しそうだ。

ドキドキしすぎて何かが終わる気がする。主に人生的な何かが。


なんてことを真剣に思い始めた頃、アルトさんが僅かに私を抱きしめる力を強めた。






「アリーサちゃん。好きだよ」







「·····は?」







一瞬、時が止まったかと思った。

というか、間違いなく私の心臓は一度動きを止めた。


だって、へ、は、今この人なんて·····?


「大事なことを黙っていたせいで護れないのも、近くにいないせいで護れないのも、もう嫌だ。こんな奴に好かれたアリーサちゃんを可哀想だとは思うけど、君を離したくないんだ」


混乱する私にアルトさんが語り掛ける。


「ま、ままままってください?え、へ、は?え、ちょっと、え?だってアルトさんは私の事共犯関係にしか思ってないって、え?」


取り繕う余裕もなくて心の声をそのまま口に出す私にアルトさんは少し身体を離すと苦笑した。


「うん。最初は本当にそう思ってた。でも段々と分かんなくなってきて次第にもっとアリーサちゃんの引いた線の内側にはいりたいって思うようになった。·····あの頃よりは距離が縮まったと思ってたんだけど。俺の気の所為だったかな?」


首をこてんと傾げるアルトさん。

せ、成人男性が首を傾げたところで可愛くもなんとも·····。


と言おうとした私にアルトさんが眉を下げて困ったような笑みを向ける。


·····クソ。滅茶苦茶に可愛いです。

絶対に分かっててやってるだろ、それ。顔面兵器め。



「俺はアリーサちゃんが好きだよ。アリーサちゃんは?」


恥ずかしいやらなんやらで下を向く私の頬に大きな暖かい手が当てられた。

近い。

あまりに近い。


美しすぎて直視したくないのに無理やり目を合わせられる。触れられた頬が、熱い。


「ど、うせ、分かってるんでしょう」


緊張で声が裏返る。


いつもいつもこの人は私の上をゆく。そして悠々と笑ってるんだ。

だから、きっと私が必死に隠していた心の奥底でさえも既に知っているに違いない。


が、しかし。


私の予想とは違いアルトさんはゆっくりと首を横に振った。


「いや。分からないよ。アリーサちゃんが俺の事をどう思ってるのか、今何を思ってるのか、何も分からない。だから、アリーサちゃんの口から聞かせて欲しい」


これが揶揄うような声ならまだ逃げようもあったのに、本当に真剣な顔で私のことを見るから、私は最後の抵抗として僅かに目線を逸らした。


「·····好きです。私も、アルトさんのことが好きです、よ」


小さな小さな私の声が静かな部屋におちた。


恥ずかしすぎて死にそうだ。

なんでアルトさんはあんな恥ずかしい台詞を平気な顔して言えるのか。私なんかこの一言だけで顔真っ赤だぞ。



心の中で照れ隠しにそんなことを考えるものの、一向にアルトさんから何も言葉が返ってこない。


·····え、なんで返事してくれないの?



気になってチラリとアルトさんの方を見るとそこには顔を真っ赤にさせたアルトさんがいた。



「え·····」


「見ないで」


バッとすぐに手で目隠しをされてしまったせいで見えなくなってしまったけど、確かに今アルトさんの顔、見たこともないくらい真っ赤になってた·····。



「ア、アルトさん」


「何も言わないで」


「あの、アルトさんも照れたりするんですね」


ちょっと心に余裕がでてきた私がそう言えばアルトさんが「うるさい」とぶっきらぼうに言う。


その様子がいつもより少し幼げ、というか年相応の青年に見えて笑っているとまだほんのり頬の赤いアルトさんに睨まれた。


「·····アリーサちゃんはそんな余裕あるんだ。へえ」


そしてアルトさんはスッと目を細める。


いやなよかん。



顔を引き攣らせる私にアルトさんがニコリと笑う。


そして、少しずつそのあまりにも美しい顔が近づいてくる。



「え、ちょっ、まっ?!え?!」


「俺とは違ってアリーサちゃんは余裕があるんでしょ?」


「え、いや!あの·····」



抗議しようと口を開こうとすると、柔らかいものに塞がれた。


思わず目を見開くとアルトさんの長い睫毛が見えた。


そして、伏せていたアルトさんの宇宙を思わせる綺麗な瞳と目が合った。





あ、無理。




自分の心臓の限界と脳みそのキャパオーバーを悟った私の意識が遠のいていく。




遠のいていく意識の中で、何故か頭上からポンッとかいう聞き覚えのある音がした気がしたけど、知らない。私は何も知らない。

もう、色々無理だから!!!















お読みいただきありがとうございました!

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