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37 花咲き娘、ソワソワする



どうにも落ち着けない。


隣からミユハさんの心配そうな視線がビシビシと伝わってくるけど、やっぱり落ち着けない。


·····なんせ、今頃王弟殿下と国王様はお話なさっているだろうから。



今日の結果によってこの先の状況はかなり変わってくる。

朝、連絡が無いまま昼になり、昼食後のアフタヌーンティーを終えるもまだ連絡はない。

そしてとうとう、日が暮れだした。

まだ、連絡はない。


じっとしていると不安にのまれてしまいそうで、取り敢えず足を動かそうと私は庭を散歩する。

もちろん、ミユハさん、ミカオさん、ランサさんも一緒だが私が少し考えたいことがあるからと言った為、話しかけてくることは無い。



特に目的地もないまま庭を歩く。



王弟殿下は国王の説得ができたのか、それとも―――。





その時、私たち以外の足音が聞こえた。

サクッ、サクッと草を踏む音が近づいてきて、後ろに控える三人が息を呑んだ。


恐る恐る、顔を上げる。



「少し、話をしても良いかな」


そこに居たのは、国王様だった。







国王様が二人っきりで話をしたいと言った為、ミユハさん達は少し離れた話がきこえない場所に待機してもらっている。

昨日、王弟殿下とも同じ状況になったけど、相手が国王だと緊張感も倍増する。


何故国王はここに来たのか。できるのなら吉報であって欲しい·····。



大きな冷たい風が吹いて、最初に口を開いたのは国王だった。


「弟と、話したよ」


私は拳を握りしめ、次に来る言葉を一語一句聞き逃すまいと耳をすませる。


「私達の国に、戦争は相応しくない」


次に聞こえてきた国王の言葉に私は勢いよく顔を上げる。

そこには王弟殿下そっくりの優しい微笑みをうかべた国王様がいた。

·····これ、は王弟殿下が説得に成功したってこと、だよね?


湧き上がってくる安堵と歓喜を何とか抑えながら私は国王と向き合う。


「弟に言われて初めて自分が一番大切にしようとしていたものを見失っていたことに気づいた。アリーサ嬢、これまでの行為が許されないことだと分かっている。だが、一言謝らせてくれ。本当に、申し訳なかった」


そう言うと、国王であるはずの男は頭を下げた。


「ちょっ、顔をあげてください!あなたは一国の王でしょう?!たかが一般市民に過ぎない私に頭を下げるべきではありません!」


「だが、私がしたことは恥ずべき行為だ。一国の王として、一人の人間として君に謝罪せねばならない」


未だに頭をあげない国王を見る。

·····なんだか大変な状況になっちゃったなあ。

どうしたものかと頭をかく。


「国王様。謝罪は、受け入れさせていただきます。ですから、これからはお互いに手を取り合うためにもどうか御顔をお上げください」


国王としてはやっと、ゆっくりと顔を上げる。


「·····君のお祖母様にも心からの謝罪とご冥福をお祈り申しあげる。私達の国はこれから変わらなければならない。より良い国へと」


その顔に浮かぶのは深い後悔だ。

それほどの思いがあるのならば、私が改めて責める必要なんてないだろう。


「私に出来ることならば、全力で協力致します。目指すは平和的解決という事でよろしいですわよね?」



国王はそんな私に力強く頷いた。


「ああ」









そして今現在、何故か私は国王と庭を散歩している。

引き続き、ミユハさん達には後ろからついてきてもらっている。

·····何故だ。

何故、私は国王と二人っきりで庭を散歩しているんだ。

しかも、無言。


「·····君は本当に強いね」


そして、国王がやっと口を開いた。

が、何を言っているのか私には理解ができない。


·····私が、強い?


「私、強いんですか?」

「え、無自覚?」


国王に言われて私は頷く。


「君は紛れもなく強いよ。状況に惑わされずに自分の意思を貫き、行動した」

「·····私、自分で選択出来ていたでしょうか」

「なにを当たり前のことを。君は誰よりも自分で考え、最良の選択をしていた。·····私なんかよりもずっと」


私は何も言えずにあほ面のままその場に立ち止まる。


·····そうか。私、自分で選択できてたんだ。

最良の、選択を。


ただのアリーサとして。



なんだかどうしようもなく泣きそうになって、グッと堪える。



「今夜、弟と久しぶりに酒を飲むんだ」


そんな時、国王が突然そう言った。

その顔はとても嬉しそうだった。


「最近は弟ともすれ違いが多くて衝突も絶えなかった。もう関係の修復は無理だとさえ思った。だけど、これからは二人で国を良くしていきたいと思っている。そう思うきっかけをくれたのは、君だ。本当に感謝している」



その言葉に、心底嬉しそうに笑うその笑顔に、過去の私が救われたような気がした。




私が幼い義弟を助けられたのに助けなかったこと、事情があろうともリリアに酷いことを言ったこと、それは到底許されることではないけど。




あの日屋敷で蹲って泣いていた少女は、少しだけ強くなれた。


そう思ってもいいのだろうか。



釣られて微笑むと、国王様が「それでは私はこの辺でお暇するよ」と私の肩を叩いた。


「お迎えも来たようだしね」

「え?」


そう言うと国王に意味ありげにウィンクをされた。

·····お迎え?なんのこと?


その意味を聞こうと後ろを向くと、アルトさんと目が合った。


夕日に照らされ、オレンジブラウンの髪がキラキラと輝いている。


美しいその姿と、想像もしていなかった状況に絶句していると、アルトさんがニコリと笑った。


「なんだかこうしてゆっくり話すの久しぶりじゃない?」


·····ああ、どうしよう。また落ち着かない。







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