31 花咲き娘、花が咲く
「え"」
思わず出てしまった声にアルトさんが反応して首を傾げる。
「·····どうしたの?」
「え、いや、あの」
まさか「いえ、いま頭から花が咲きそうでして·····」なんて言えるわけが無い。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。そもそも恥ずかしい以前に頭から花が咲くところなんて見られたくない。
というか、なんで今?!
前々から思ってはいたけど花が咲くタイミング毎回おかしくない?!私、今すごく大事な話してたのになんで雰囲気ぶっ飛ばすようなことするんだよ!空気読めよ!
明らかにシリアスだったでしょうが、お前はお呼びじゃないの!!
と、誰に向ければいいのか分からない苛立ちを募らせている間にも頭のムズムズは続く。
「あ、あのですね」
ポンッ!!!
なんとか席を外そうと適当な言い訳を口にしようとした瞬間、頭上から聞き覚えのある音がした。
私の目が死んだ。
「·····は?」
音につられたアルトさんが、ゆっくりと私の頭上に目をやって·····、
「ぶふっ!!!」
吹き出した。
·····あ、消えたい。
私は死んだ目のまま、今までで一番素早く花を抜く。
花抜き選手権最速記録更新ですね、本当にありがとうございました。
「ぶっ、ふっ、·····まっ、まって、ほんと、ごめん·····、笑う気は、な、い·····」
何がツボにハマったのか、笑い続けるアルトさんをジト目で見る。
·····笑う気はないって、今思いっきし笑ってますけどね。爆笑してますけどね。
「いや、ほんと申し訳ない·····、わざとじゃないん」
少し笑いの発作がおさまったアルトさんが謝罪の言葉を口にして、途中で動きをとめた。
そして口を閉ざし、プルプルと震え出す。
·····めっちゃ、笑いこらえてる。めっっちゃ、笑いこらえてる。
だって肩、プルプルしてるもん。
明らかに私の頭上チラチラ見てるもん。花、抜いたのに。
その麗しい御顔をかつてないほどクシャクシャにして笑うアルトさんに対して、私はもうヤケだ。
笑いたきゃ笑え。さっきの悲しそうな顔を見てるよりはマシだ。
なんて投げやりな気持ちでいじけて、数分。
やっと、今度こそ、笑いの発作がおさまったアルトさんは深々と頭を下げる。
「笑ってごめん」
初等部の子供のような謝罪を頂いたので、仕方なく許すことにした。
ああ、先程までの重苦しい空気はどこへ行ってしまったのか。
とはいえ、別に私もアルトさんにずっと暗い顔をしていて欲しい訳では無い。出来れば暗い顔なんてして欲しくないと思っている。
だから、まあ、こんなにボロっくそに笑われても何故かあまり怒りは湧いてこなかった。·····羞恥心はすごいけどねっ!!
それに前ならこんな時、アルトさんはきっと素直に謝ったりしない。多分、ニヤニヤと私を見ているはずだ。
·····ああ、もう
「なんか、もう馬鹿らしくなってきました」
もどかしくなって思ったことをそのまま私が呟くと、アルトさんは下げていた頭を上げてから「え?」と聞き返してきた。
「今まで散々、落ち込んで悩んで考えてきましたけど、よく考えてみたら私がアルトさんに気を遣う必要なんてないんですよね。うん、そのはずです。貴方に元気がないのもいつもよりしおらしいのも知ったことじゃありません」
一人納得する私を見てアルトさんがまた「え?」と聞き返してくる。
珍しく困惑している様子のアルトさんを見る。
「アルトさん」
「·····なに?」
「私、やられっぱなしは性にあわないんです。せっかく自由に選択できるようになったのに、これじゃあ結局あの頃と何も変わらない」
アルトさんは私の言葉の真意が掴めずに、首を傾げた。
だから私は微笑んだ。ver.悪役令嬢だ。
「だから、私に少しでも悪いと思う気持ちがあるのなら、協力してください。誰でもなく、私の選択肢を広げるために」
うじうじしても状況は良くならないし、打開策なんて見つからない。
それに、お祖母様の過去とその想いを知ったから。
「私、自分の未来は自分で決めますので」
堂々と胸を張って微笑む。
アルトさんはそんな私を見て目を丸くしてから、ニコリと笑った。
久しぶりに見る悪魔の笑みだった。
「本当に、アリーサちゃんは面白い」
いつかのように、アルトさんの瞳に不思議な光が宿る。
うん、やっぱりアルトさんは憎たらしく見えるくらいがちょうどいい。
そう思ってしまうあたり、私の趣味も大概悪いだろう。
嬉しくなって更に微笑む私に、彼は続けてこう言った。
「もちろん、喜んで協力させていただくよ」と。
きりが良いところで切ったので短いです。申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました!




