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27 花咲き娘、溜息を吐く


「それなら私、この方がいいわ!」

「は?」


は?


私の心の声とあっけに取られた声が重なる。


思わず話題に上がった人物を見ると、その人物―――アルトさんは珍しく余裕のない顔をしていた。



次から次へと問題が·····。



眉間によってしまった皺を伸ばしながら、零れそうになる溜息を呑み込んだ。






◇◆◇



遡ること二日前。




生徒会長との再会を終えた私はミユハさんのススメで城内の庭でお茶をしていた。

正直、呑気にお茶を飲んでいる場合じゃないとは思うのだけどミユハさんに「少しお疲れのようですし」と心配そうに言われたら断れない。


ミユハさんの用意してくれたお菓子と紅茶を頂きながら、ミカオさんとランサさんの失敗談なんかを聞いていた。

やはり、ミカオさんとランサさんは私が思っていた通り騎士のようで、騎士になろうと思ったきっかけなんかも教えてくれた。


どうやら、ミカオさんとランサさんはある騎士に憧れて騎士団に入ったらしく、自分たちもいつか一緒に仕事がしたいとキラキラとした目で話をする。

その様子にそんなに素敵な人なら私も一度会ってみたいな、なんて思いながらも二人の願いが叶うことを祈る。


ミユハさん達は私が聖女だって知らないらしいけど、もしかしたら聖女関連でその人と会うこともあるかもしれないな。


サクサクと美味しいミユハさんお手製のクッキーを食べながらのんびりとした午後の時。


脳裏にちらりと厄介事(会長のこと)が思い出されもしたけど、今は気分転換のつもりでそれも頭の隅においやって穏やかな時間を楽しんでいた。

その時、



「やあ、楽しそうだね」


いや〜な声がした。



油の刺されていないブリキのようにぎごちなく振り返る。


そこにはやはり、国王がたっていた。




この場に似つかわしくない人物に私と話していた三人が見事に固まる。

最初に動いたのはミユハさんだった。


「こ、国王陛下!」

ミユハさんは座っていた椅子から立ち上がると最敬礼の形をとる。それにならって後ろに控える二人も同じように最敬礼の形を取った。


「ああ、そんなに畏まらなくていいよ。お茶会の途中だったんだろう?アポ無しで来て悪いね」

そんな三人に国王は優しい王の顔のまま微笑む。


「い、いえ·····。ほ、本日はどのようなご用件で?」

ミユハさんの声が震えている。

それもそうだろう。先程、ミユハさん本人から聞いた話だと城仕えになったのは三年前だという。それまでは地元の領主の家で仕えていたようで国王と顔を合わせたのも一、二度しかないと言っていた。

ミカオさんもランサさんもミユハさん同様、国王とは数える程しか顔を合わせたことがないらしい。三人とも、腕は良いけど王弟殿下が言っていた通り、貴族社会については明るくない。

私の世話をしてくれる人は私が元貴族だということを知らないかつ、手厚い対応をしすぎて周りに変に勘繰られる訳にもいかないのでにあまり高くない地位の人達が良かったのだろう。その条件にこの三人はまさにピッタリだ。



·····にも関わらず、今現在目の前にたつのは紛れもなくこの国の王だ。

そりゃあ、焦りもする。


突然すぎる、と若干呆れていると国王と目が合った。


「やあ、アリーサ。調べ物は終わったかい?」

恐らく、聖女の力についてのことだろう。

私はゆるゆると首を横に振った。

「いえ、残念ながら。大変申し訳ないのですがもう少しお時間を頂けると幸いです」

というかまだ一日も経っていないし、そう急かすなよ。

国に聖女の力が必要なのは分かるけど、それにしたってだ。


国王は私の返事に「そうか」と短く返した。

「なるべく早い解決を祈ってるよ。ところで、今日はそれとは別の話をしに来たんだ」


突然話の流れが変わったことに驚きながらも、「なんでしょうか?」と尋ねる。

国王は私から目をそらすと、後ろの三人に視線を向けた。

「任命したばかりで悪いんだけど、明日は彼女につかなくても良いよ。だから通常通りの業務を行ってくれ。明後日からはまた彼女についてもらう」


「し、承知致しました」

ミユハさんが返事をし、あとの二人もたどたどしく続く。

どういう事だ、と思わず三人の方を向くも、三人も困惑したように私を見ていた。

「詳しい話は明日するよ。朝、迎えを寄越すから。それじゃあ邪魔をして悪かったね」


何が何だかわかっていない私たちを置いてけぼりに、国王は私たちに背を向ける。


結局、目的もいまいち分からないまま彼は去ってしまった。




それから私の正体を知らない三人にどういう事だ、と問いたげな視線をずっと向けられていたのだけど、まさか本当のことを話す訳にもいかず痛む良心に蓋をして何事も無かったかのようにその日をやり過ごした。




次の日。

国王が言っていたとおり、朝部屋に迎えが来た。

もちろん来たのはミユハさんではなく、背筋が綺麗に伸びた五十代くらいの女性だ。

女性はこの城の使用人達の長らしい。

「貴方様が聖女さまですね?」と問われた時は驚いたけど、この人はどうやら知っている人のようだ。

国王からの任命だからと言われ、私はドレスに着替えさせられるとあれやこれやという間に謁見の間に通された。


そこで朝から仰々しい椅子に座る国王から告げられた内容が、『明日、隣国から姫と国王がお忍びで来るのでその場にいて欲しい』というものだった。


即答で「嫌です」と答えそうになって、私に拒否権などないことを思い出す。

取り敢えずどういうことか聞くと、どうやら今隣国と我が国は冷戦状態に近いらしく、両国の関係はギクシャクしているらしい。

両国とも国民の一部に過激派がいてその人達がいつ戦争のようなことを仕掛けてもおかしくない、と。

そこで、危機感を覚えた両国の王は親密度を深めるためにお忍びで会談をすることになったらしい。

が、まあそれは建前で本音は両国とも相手側を牽制したいのだろう。


「こちらとしてはあっちが仕掛けてくる気がないのなら何もする気は無いんだけどね。いつ戦争なんて話になってもおかしくない。そのためにやはり聖女の力は必要なんだ。だからまず、君には相手のことを知ってもらおうと思ってね」


なるほど。

私はその言葉に無言で頷く。

国王がやけに私に聖女の力についての解決を急いでいたのもそれなら納得がいく。

あちらといつ一触即発してもおかしくない状態で、やっぱり不動の切り札が欲しいのだろう。


「まあ、かと言ってあちらに聖女と悟られたら不味い。そこで、君には申し訳ないけど使用人のひとりとして変装してもらいたい」

「·····はあ」



ということでその日、私は一日中使用人らしい動き方を叩き込まれた。あ〜、身体中が痛い。







そしてまたまた陽は昇り、隣国との会談がある今日になったという訳だ。

朝、昨日と同じ女性が私の部屋に来て、使用人の服を着させられる。ああ、ミユハさん達のあののんびりした雰囲気が遠い昔に感じられる。懐かしき日々よ、カムバックっ!!



なんて馬鹿なことを考えながら昨日教わった動きを復習し、その時を待つ。


あと少しで約束の時間、という所で扉のドアがノックされた。

扉に目を向ければ、国王が部屋に入ってきているところだった。

「どうされたんですか?」

ちらりと時計に目をやるも、まだ約束の時間ではない。

それに、国王直々に隣国の王達を迎えに行くと言っていたし。


首を捻ると、国王は「君にはまだ言ってなかったからね」と私に向けて言った。

·····なにを?


「今日、同席する騎士だよ」


ニコリと笑った国王の後ろから出てきたのは、アルトさんだった。


















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― 新着の感想 ―
[一言] サブタイトルですが、溜息を吐く(着く、ではなく)かと。。タイトルは誤字報告できないんですね。。
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