25 花咲き娘、またも再会する
「アリーサ様!アリーサ様!!いらっしゃいますかー!!」
資料室を出てすぐ、いくつかの足音と共に大きな声が聞こえてきた。
「私はここにいます、よ?」
オドオドしながら手をあげると足音がピタリと止まった。
そして足音が一斉にこちらへ向かってくる。
え、なになになに!怖いって!!
怯える私の元に二人の男性と一人の女性が来た。
女性の方は昨日私に説明してくれた人だけど、男性二人組の方は見覚えがない。茶髪と紺髪の二人は体格がいいところから見て騎士なのかもしれない。
「アリーサ様、おはようございます。部屋にご挨拶に行ったら誰もいなかったので驚きましたよ。今度からはちゃんと誰かに行き先を伝えてくれませんと·····」
と、二人を観察していると心配そうな顔でこちらを見る女性に怒られてしまった。
「すみません、ちょっと用事があって」
「まあ、私もいた事だし大目に見てあげて」
頭を下げると後ろから王弟殿下が声をかける。
「お、王弟殿下?!アリーサ様とご一緒だったんですね」
「うん、偶然ね。この後は護衛の紹介かな?」
「はい。あと、このあと来客の方がいらっしゃるそうなのでアリーサ様は後で準備を致しましょう」
前半は王弟殿下に向けて、後半は私に向けて説明される。
·····来客って誰だろう。
もしかして、と頭に一人の男が思い浮かんだのを頭を振って消す。いや、それは無いだろ。·····多分。
「来客ってどなたですか?」
「申し訳ありません、私もまだ詳しいことは聞かされていないんです。午後から来るということしか分かっていなくて·····」
「あ、いえ。それならいいんです」
と答えてから、後ろの控える男性二人組が目に入った。
えっと、多分護衛うんぬんってこの人たちのことだよね?
目が合ったので軽く頭を下げると、二人とも同じように軽く頭を下げる。
「この二人は、昨日言ってた見張り役兼護衛のミカオとランサです」
そんな私たちの様子に気づいた女性が二人を紹介してくれた。
なるほど、茶髪がミカオで紺髪がランサね。
「はじめまして、私はアリーサと申します。よろしくお願い致します」
「俺はミカオっす!気楽に話しかけてください」
「俺はランサです。よろしくお願いします」
茶髪が軽く挨拶したのに対して、紺髪は若干固い感じがする挨拶をした様子からして、これだけでも何となく二人の性格がわかってくる。
まだ初々しさを残したその様子にほのぼのとした気持ちでいると、横にいた王弟殿下から「一応言っておくけどこの三人は君が聖女だとは知らないからね」と耳打ちされる。
「·····え?でもあの女性はずっと私に色々教えてくれたりしましたよ?」
「恐らく、案内なんかの仕事は任されているのかもしれないけど、聖女のことについては何も知らないと思う。その証拠にあの子たちの口から一度も聖女だなんて言葉は出てきてないでしょ。きっとこの城での君の扱いは、今のところ王に招待された客人って所かな」
「なるほど。あ、でもこの人たちは私が貴族だったことは知ってるんですか?」
「いや、三人とも平民の出だから貴族に関してはあんまり明るくないんじゃないかな。知らないと思っていいよ、·····まあ、だから選ばれたんだろうけど」
二人でごにょごにょと話していると、さすがに三人とも訝しげにこちらを見てくる。
「じゃあ私はこの後、業務と調べたいことがあるから先に戻ってるね」
「あ、はい。ありがとうございました。·····また」
「うん、また近いうちに」
そう言うと王弟殿下は三人にも軽く声をかけて、行ってしまわれた。
後ろ姿を見送ってから三人の方に向き直る。
「えーっと、朝からお騒がせしました。ミカオさん、ランサさん、あと·····」
女性の名前を聞いてないことを思い出して言葉を詰まらせると、彼女が「ミユハです」と答えてくれた。
「ミユハさん。改めてよろしくお願いします」
もう一度頭を下げた私に三人はそれぞれ挨拶を返してくれた。
その後、少しだけ三人で談笑をしながらお昼を食べ終えると、ミユハさんの言う通りに午後から来客に向けての準備を始めた。
準備の最中、来客なんだからドレスを着た方が良いと言われた。正直物凄く嫌だったけど勧められたら断るわけにも行かずに、結局私は今、仕方なくドレスを着させられている。
·····あー、このお腹の締めつけとか動きヅラさとか懐かしい。
最近、ドレスなんて着てなかったからな。
ギュッとコルセットを締められながら感慨にひたっているうちにメイクアップまで終わったらしい。
トントンと肩を叩かれミユハさんに声をかけられた。
「とりあえず、メイクアップまで終了致しましたので、来客の方が待つ部屋へ向かいましょう」
「わかりました」
誰が来るのか未だに分からない来客の待つ部屋に向かうと思うと緊張してくる。
歩いている最中、何度もコケかけた。
うん、やっぱり歩きづらい。
幸い、前を歩くミユハさんと後ろの二人にはバレていないけれど、この調子だといつか本当に転びそうだ。
そんなことになったら実に笑えないので細心の注意を払いながら久し振りのドレスに悪戦苦闘していると、ミユハさんから「ここです」と声がかかった。
意識を扉の方へ向ける。
「来客の方は既に中にいらっしゃるそうなので、あとはおふたりでごゆるりと。私共は扉の前で待機しております」
え、三人とも中に入ってきてくれないの?!
一気に心細さが倍増した気がする。
とはいえ、駄々を捏ねて中に来てる来客の方を待たせるのも宜しくない。·····誰が来てるのか知らないけど。
私は様々な予想をしながら、部屋のドアノブに手をかける。
背筋をピンと伸ばして、ドレスがより映えるように立つ。
淑女然とした姿を意識しながら、ゆっくりと扉を開けた。
「久しぶりだな、アリーサ嬢」
心地よい低音の声が聞こえてきて、顔を上げる。
そこにいたのは予想もしていなかった人物―――生徒会長その人だった。
「かい、ちょう」
予想外の人物に固まっていると会長と目が合った。
「そのドレス、よく似合っている」
「·····ありがとうございます」
私の着る青のドレスを見て目を細めた彼は優雅に微笑んだ。
その姿にいつまでも呆けている訳にもいかないと、私は気合を入れ直すと短く言葉を返した。
「やはり君にはドレスが似合うな」
「勿体ないお言葉です。会長、本日はどうしてここへ?」
真っ先に気になっていることを質問すると、会長は立ち話もなんだと私に席を勧める。
なんかこの人やけに楽しそうにしてるし、これは長期戦になる予感·····。
ため息をつかないよう、気をつけながら席に着くと会長は愉快そうに微笑んだ。
携帯がぶっ壊れました·····。
そのせいで昨日、投稿出来ませんでした。申し訳ないです。なんとかログイン出来て良かったです。
お読みいただきありがとうございました!




