表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/73

24 花咲き娘、味方を得る


怖いほどの沈黙が部屋におちる。


「いまの、なに·····」

思わず呟いた私を王弟殿下が見る。

「·····君にもいまの、みえた?」

「はい」


王弟殿下の反応に私は彼も私と同じものを見たのだと理解する。

二人して未だにぽかんとしたまま顔を見合わせた。


私は今見た景色を頭の中で反芻する。


村に住む一人の少女が聖女になるまでと、それからの話を。


まるで自分が体験したかのような臨場感ある光景は少女の感情までもが伝わってきて苦しかった。

きっと、今のが聖女が言っていた能力を代償に記憶を閉じこめる力なのだろう。


「あの方が先代の聖女で間違えないんですよね?」

私が問えば王弟殿下はまだ呆気に取られた様子ではあるものの静かに頷いた。

「·····というか、まだ気づかない?」

「へ?」


そして、そんなふうに問われた。

気づかない、ってなんの事?


首を捻る私に王弟殿下は少しだけ考える素振りを見せる。

「·····今見た少女、どこかで見たことはない?」

「え。どこかで見た事って、この方今もご健在なんですか?」

「いや、十年ほど前亡くなったと聞いたよ。でも、君は間違いなくこの人を知っている」


王弟殿下は答えるのを待っているとでも言うように私を見据える。

私は、この人を知っている·····?

元聖女であるこの人を?



先程見た少女の顔を思い浮かべる。


さっきは話の展開について行くのに夢中でしっかりと少女のことまで意識が回らなかったけど、確かに今こうして思い出してみると、少女の顔立ちにはどこか見覚えがある。


どこで·····。一体私はどこであの人を·····。




『アリーサ、自分で考えなさい。自分で考えて自分で行動しないと何も変わらないわ』



必死に思い出そうと記憶を遡るなか、一人の優しい人と少女の面影がだぶった。


「·····え、うそ」



無意識のうちに声をもらした私に王弟殿下は優しい、でも少しだけ寂しげな笑みを向けた。


「そう、先代聖女の名はリリッサ・ローズ。君の祖母にあたる方だよ」




一瞬、理解が追いつかなかった。


お祖母様が、聖女だった?

あの、お祖母様が?


いつも私にキラキラとした話を沢山してくださって、何度も私を勇気づけてくださったお祖母様が、聖女·····?



何度も自分の中で繰り返してみるも、上手く状況の把握ができない。

「だって、お祖母様は一度もそんなこと·····」

「それが国王からの条件だったんだよ」

「え?」

「国王は領地で二人暮らすのを許可する代わりに聖女のことを家族にも誰にも話さないことを約束させた。約束を破れば一家を皆殺しにすると脅してね」


ヒュッと喉がなった。

知らなかった。何一つ。

お祖母様がそんな過去を背負っていたなんて。いつだって気丈だったあの方がそんな事情を抱えて生きていたなんて。


きっと優しいお祖母様のことだから、戦争で自分がしたことを理解した時、死んでしまうよりも辛かったはずだ。

それでも、お祖母様は寿命を全うされた。

·····お祖父様が無くなっても、生き続けた。


それがお祖母様なりの償いなのか、何を思って日々を過ごしていたのかそれは分からない。


でもその事実を聞いて何故だか今、初めてお祖母様が聖女だということに実感が湧いた。



「君のお祖母様は実に聡明な方だったよ」

静かな部屋にポツリと王弟殿下の呟きがおちた。

「まだ幼かった僕にも彼女はとても良くしてくれた。僕は手のかかる子供だっただろうに彼女は嫌な顔ひとつしなかった」

王弟殿下の一人称が変わっている。きっと、こちらが素なのだろう。そんな様子に私もお祖母様のことを思い浮かべる。


私の大好きな、大切な人だ。





「·····あれ、ということは今の話にでてきた国王様って」

ひとつの可能性に行き当たった私がそう言えば王弟殿下はゆっくりと頷いた。

「ああ。私達の実の父だよ。暴君だと言われ民から反感を買い、家族からも見放された愚かな私達の父だ」

話す言葉は冷たいものなのに、そういう王弟殿下はとても悲しそうな寂しそうな表情をしていた。


「私は、心を壊してしまった聖女をこの目で見た。薄れつつあったが、その記憶も今これを見て再び鮮明に思い出したよ」

驚く私に王弟殿下は静かに話し始めた。


まだ幼い頃に城にいた一人の女性のことを。

その女性はいつも虚ろな目をしていたことを。


そして、その女性が一人の男によって徐々に変わっていったことを。


「物心ついた時には、もう彼女は城にいていつも静かに佇んでいた。私はそんな儚げな彼女に憧れながらも、笑いかけて欲しくて何度も話しかけたりちょっかいを出したりしていたものだ。でも彼女は優しく相手をしてくれても笑いかけてはくれなかった」


そこで言葉をとめた王弟殿下は昔に思いを馳せるように本に目を向けた。


「·····そんな彼女が初めて笑ったのを見たのがあの人、君のお祖父様といる時のことだった。本当に控えめに、けれど花が咲くように笑う彼女を見て、あれが本来の彼女の姿なんだと、不思議とそう思った」


王弟殿下はそれから懺悔するように「その時の僕は何も知らなかったんだ」とこぼした。

「愚かにも、彼女がなぜあんなにも寂しそうに佇んでいたのか、僕は成人するまで何も知らなかった。そして、大人になって知った。聖女の存在も僕の父が何をしたのかも」

唇をかみ締める王弟殿下に私は密かに驚く。


こんなにも感情をあらわにするなんて、きっと王弟殿下の中ではこの出来事はまだ消化しきれていないのだろう。


「僕はその時に決めたんだ。もしこの国に聖女が再び現れたら次はあんな悲劇は起こさせないって」

それでも、顔を上げた王弟殿下は私としっかりと目を合わせる。

「兄は国を大事に思うあまり、君にこんなことをしてしまっているけど根は良い奴なんだ。あいつに、父がしたようなことは絶対にさせない。だから、僕は君にこの本を渡した」


真剣な表情で本を見つめる王弟殿下は、しかし次の瞬間には破顔した。


「それにこの本を託された時に、君のお祖母様に「あなたになら安心してこの本を任せられる」と言われてしまったからね。あの人とのささやかな約束に誓って必ず僕は君を助けるよ」

本当に嬉しそうな顔をする王弟殿下に私は彼がお祖母様から本を託された時のことを想像して、頬を緩ませる。

きっと、とても喜んだことだろう。

そして、お祖母様と交した言葉通り今まで大切に預かっていてくれた。


「王弟殿下、ありがとうございます。·····どうか、ご協力よろしくお願い致します」

「よろこんで」


頭を下げた私の肩を王弟殿下がポンッと叩いた。




どうやら私には物凄く心強い味方ができたようだ。












あ、あともう少しでラブ要素がはいる、はず·····、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ