19 花咲き娘、自分の能力を知る
「·····本当に傷、ないね」
呆然とつぶやく私に女の子は力強く頷いた。
「すごい、すごい!おねーちゃん、まほうつかいみたい!」
「ははは·····」
なにがなんだかわからないで棒立ちする私は力なく笑うことしか出来ない。
·····なに、この能力。
手に持つ花を見る。
もう一度、詳しく調べてみようと顔を近づけた途端。
花は粒子のような光の粒に変わると、さらさらと私の手から抜け落ちてしまった。
そうして私の手にあったはずの花は消え失せた。
「わぁぁ!おねーちゃん、またおまじないしたのね!!」
女の子が無邪気にはしゃぐ。
·····おまじないしてない。わたし、おまじないしてない。
一瞬、私の目が死んだ。
が、キラキラと目を輝かせる女の子の手前、夢を壊す訳にもいかず私は曖昧に笑って返す。
·····ええええ。めちゃくちゃ怖いんですけど、この能力。
私みたいなポンコツにこんな危ない能力持たせて何がしたいんですか。
誰にすれば良いのか分からない抗議を心の中で繰り返す。
とはいえ、このまま何もしない訳にも行かないので私は屈んで女の子と目を合わせた。
「·····あのね、この力のこと誰にも言わないで欲しいの」
「どうして?」
「この力のことを沢山の人に知られるとこの力が使えなくなっちゃうの」
「え!!それはたいへんだね!わかった、わたしだれにもいわない」
そう言うと女の子はギュッと口を一文字に結んで意思の強い目を向ける。
その心強い姿に私は微笑みながら女の子の頭を撫でた。
「ありがとう」
「うん!」
可愛らしく笑う女の子にお礼を言うと、私は立ち上がる。
「それじゃあ、もう転ばないように気をつけるんだよ」
「うん、おねーちゃんほんとうにありがとう!」
「いいの、いいの。·····じゃあね」
女の子に手を振ると、女の子はブンブンと手を振り返してくれる。
「またねーー!」
ばいばいじゃなくてまたね、という言葉が嬉しくて私も「またね」と言葉を返して女の子と別れた。
思わずほのぼのしてしまう。
が、すぐにほのぼのしている場合じゃないと思い直す。
·····なんだったんだろう、さっきの光。
脳裏に浮かぶのはさっきのファンタジーのような光景だ。
·····というか、花消えたし、傷治ったし。血も出てなかったし、意味がわからない。
あれが本来の花の力なのだとしたら、とんでもない能力だな。
まだ、色々と分からないことだらけの能力だけど·····。
誰もいない道で、私は一人身震いをする。
·····このこと、絶対にバレないようにしないと。
心の中で強くそう決めると私は自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
その翌日のことだ。
アルトさんからお城に行く日を知らされたのは。
彼の顔はなぜだか少し強ばって見えた。




