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18 花咲き娘、女の子と出会う


馬車を使って30分。徒歩で一時間ちょっとのところに、それはある。


「お久しぶりです、お祖母様」


私は目の前の墓石に向かって深く頭を下げた。




ミャーシャさんから貰ったお気に入りのワンピースを身につけて、いつもは結くだけの髪を三つ編みにした私は洋服を汚さないよう、下にハンカチを敷いて草っ原に座った。








ミャーシャさんにお休みを言い渡された日。寝る直前にどこに行こうかと考えたものの、結局特に欲しいものもなければ行きたいところもない私は、一つ平民になってから出来ていないことを思い出して今日の予定を決めた。

それがお祖母様のお墓参りだ。


よほど、余裕のない時以外はなるべくひと月に一度は行くようにしていたのに、平民になってからは全然行けていなかった。


私は持ってきた花束とサンドイッチを墓石の前に置く。

自分の分のサンドイッチも取り出して一口かぶりついた。

お祖母様が元気な頃はこうしてよくこの丘に来て遊んだり、ピクニックをしたりした。

お祖母様の墓石がここにあるのも、ここがお祖母様の好きな場所だったからだ。一応、ここは貴族でなくとも立ち入りは禁止されていないので、平民になった私でも普通にお墓参りができる。



無言でサンドイッチを頬張りながら心の中でお祖母様に今までの怒涛の日々を話してゆく。



何故か頭から花が咲くようになってしまったこと。

皆の前で悪役を演じて断罪されたこと。

ローズ家から離縁されたこと。

ユーリイには悪いと思っているということ。


そして、新しく出会ったあたたかくて優しい人達のこと。



·····私は今、とても楽しく日々を送っています。

きっと、お祖母様はそれを良かったねと笑ってくださるでしょう。

でも―――。




込み上げた不安に思わず唇をかみ締めた瞬間、少し冷たさを伴う大きな風が吹いた。

思わず、髪を手で押さえる。


な、なに今の強い風·····。


驚いて周りを見渡すも、周囲はまるで大きな風など吹いていないかのように、そよそよと穏やかな風が吹いている。


風にそよぐ花を見ているうちに、何故だかお祖母様に背中を押されているような気分になった。

お祖母様はいつも、私が元気がない時は背中を叩いて気合を入れてくださっていた。

今、それを思い出して心にあった鬱々とした感情が出てゆくのを感じる。


「お祖母様、また来ますね」


だから私はそれ以上、語りかけるのをやめて笑った。



一ヶ月後、また。




暖かな日差しが当たる墓石に背を向け、私は来た道を戻った。




◇◆◇



ん〜、もうすぐお昼だしどこかで食べていこうかな。


サンドイッチだけじゃ少し物足りなかった私は道を歩きながらそんなことを考える。


食べるとしたら何がいいかな。

お肉か、魚か、麺か·····。

う〜ん、迷う。



真剣にお昼ごはんについて考えていると、遠くの方からなにか、声が聞こえた気がした。

·····空耳か?


耳をすませてみると、先程よりもはっきりと声が聞こえる。

·····誰かが泣いてる?


慌てて声のする方へ向かう。

その間、声は段々と大きくなり泣き声だとはっきりと分かるようになった。

声を聞くに、恐らく小さい子供だろう。


しばらく、声のする方へ歩いていると一人の女の子を見つけた。

ぺたん、と地面に座り込んで割れんばかりの声を上げて泣いている。


「どうしたの?」

周りに誰もいないようなので、女の子に近づき声をかけると女の子は私をちらりと見て「ころ、んだ」とつっかえながらも教えてくれた。

よく見てみると確かに女の子の左足が擦り傷からでた血で赤く染まってしまっている。かなり深く擦りむいてしまったようだ。


·····あらら、これはかなり痛いやつだ。

一回、傷口洗った方がいいかもしれないな。


「そっかぁ、それは痛かったね。でもこのままだとバイキン入っちゃうから足洗いたいんだけど、歩けるかな?」

えぐえぐと涙を流す女の子に話しかけるも女の子は首を横に振る。

「いたくて、あるけないの·····」

そう言うと女の子はまた泣き出してしまう。


う〜ん、これはもしかしておんぶするしかないか。

痛そうな傷をみるに、なるべく早く消毒した方がいいだろう。


覚悟を決めるか、と気合を入れたその時。

頭がムズムズし始めた。


·····え?


目の前では相変わらず女の子がわんわんと泣いている。

今、この女の子を突然放置することはさすがにできない。


·····でもこれ花咲くよね?咲いちゃうよね?

この女の子の前で?頭に花が咲く?

ど、どうしよう。このままじゃとんでもないトラウマを植え付けることに·····!



ポンッ!

花が咲いた。

幸い、女の子は泣いていてこちらを見ていない!


ブチッ!


女の子が私を見ていないのを確認した私は光の速さで花を引き抜いた。

なんとか、女の子にトラウマを植え付けてしまうことは回避出来た。


ほっと息をつく。

·····それにしても、なんてタイミングで咲くんだ。


思わず恨みがましく花を睨んでしまう。


「あれ?」


が、その花はよく見れば見た事のある花だった。

多分、ラベンダーの花を調べた時に近くに載っていた花だ。

名前は吾亦紅。少し変な見た目と変な名前をしていたので覚えていた。

·····これ、確か外傷に効くんじゃなかったっけ。


くるくると花を回して観察する。


「·····な、なにそれ」

すると、それまで泣いていた女の子が顔を上げた。

「これはね、怪我に効くお花だよ」

少し泣き止んでくれたので、私はくるくると女の子の前で花を回す。

「でも、これ、はなびらがついてない」

「そういうお花もあるのよ」

「そうなんだぁ」

驚いたように女の子は恐る恐る手を伸ばす。私はそんな女の子の手に吾亦紅を持たせた。

女の子は今は好奇心で痛みを忘れているらしく、面白いものを見るかのように目を輝かせながら花を見ている。


·····あれ?


と、そこである考えが浮かんで私は首を傾げる。


この吾亦紅は先程も言った通り、外傷に効く。

そして、今私の目の前には擦り傷を負った女の子がいる。

·····これ、多分偶然じゃないよね。


ユーリイの時も思ったけれど、やっぱりその時の状況に応じて咲く花が変わるのかもしれない。


「いたっ」


私が思考の海を漂っていると、突然下から声が聞こえた。

声につられて、下に目を向けるとそこには先程まで吾亦紅に目を輝かせていた女の子が膝を抱えていた。

「どうしたの?」

「おはなみてたら、まちがってけがのとこさわっちゃった。·····い、いたいよぉぉ」

またじわじわと目に涙が溜まってゆく女の子に私は慌てる。


「大丈夫、大丈夫、痛いの痛いのとんでけー」

咄嗟に傷口を直接触らないようにしながら、女の子の膝の上に手をかざしておまじないを唱える。

不思議そうにする女の子の膝に私はもう一度「痛いの痛いの飛んでいけ」と唱えた。


これは私が幼い頃によく、お祖母様にしてもらったことだ。

お祖母様がいたニホンという国ではよく、転んでしまった子によくやるおまじないらしい。

「なに、それ·····?」

すると、女の子は泣くのをぐっと堪えて、私に問いかけてきた。

「これはね、とっておきのおまじないよ。こうして、あなたの痛みをどこかにとばしちゃうの」

「いたいの、とばすの?」

「ええ」

安心するよう、笑いかけてあげれば女の子は「いたいの、いたいのとんでけ·····」と小さく呟く。

「そう。いたいの、いたいのとんでけ」


そう言いながらかざした私の手が女の子が持っていた吾亦紅に僅かに触れた。






その瞬間、僅かに花が光った。


「·····え?」

目を擦って確かめるも、花は既に光っていない。

不思議に思っていると、女の子が「わあ」と嬉しそうな声を上げた。

「おねーちゃん、ほんとうにいたくなくなったよ!」

「え?」

「いたくない!」

そう言うと、女の子はゆっくりと立ち上がった。

「ほら!」

未だについていけていない私に女の子はぴょんぴょんと飛ぶことでアピールする。


な、何?どういうこと?


意味がわからないが、女の子の膝からはまだ血が出ている。

とりあえず、一度落ち着くように言い聞かせた。

「·····えっと、本当にもう痛くないのね?」

「うん!おまじない、すごいね!」


·····いや、多分それおまじないのお陰じゃないと思うんですけど。


思わず遠い目になりかける。


一先ず、はしゃぐ女の子から吾亦紅を返してもらい、もう一度観察する。


う〜ん、見たところ特に変わったところはないんだけどな。

でも痛みが無くなったのって、多分この花のおかげだよね。

·····もう一度、祈ったらどうなるんだろう。



ふとそんな考えが頭に浮かぶ。


まさか、ね。


痛みが無くなったと笑う女の子と花を交互に見る。

でも、やってみる価値はある、のか?


悩んだ末、私は花を両手で包み込んで目を瞑った。


この子の傷が治りますように·····。


精一杯祈ってから恐る恐る目を開けた。


花からはなんの反応もない。

·····まあ、だよね。そんなことあるはずないよね。


拍子抜けしたものの、少しほっとした。

そんな現実離れしたことあるはずない。


そう思ったのに。





突然、花が光った。



強く、強く、光を放つ花は、あたりを白く染めあげてゆく。

体全体があたたかくて、優しい光に包まれた。



が、それもあっという間のことで私達が驚きで言葉も出ないうちに、光は少しずつおさまっていった。


「·····い、今のは?」

すっかり元通りになった景色を見渡す。

「おねーちゃん、いまの、おねーちゃんがおまじない使ったの?!」

「え?」

混乱する中で、女の子に話しかけられた。

キラキラとこちらを見るその瞳に映るのはすっかり混乱しきった私の姿だ。


「ほら!みて、おねーちゃんがおまじないしてくれたから、傷無くなったの!!」


女の子のはしゃぐ様子に戸惑いながらも視線を下に向けると、そこには本当に傷一つない女の子の膝があった。






·····まじで?










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[一言] 花を咲かせる聖女 こう書くと素敵な聖女になるね!
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