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17 花咲き娘、休みをとる


アルトさんは手短に私に感謝の言葉を伝えると、詳細は追って話すと言ってその日は、食堂に来たばかりだったのにすぐに帰ってしまった。


それから三日経ったが、まだアルトさんからは何も聞かされていない。が、食堂には来る。

そして普通にお昼ごはんを食べて帰る。

もはや、ここまで何も言われないとあの話は無くなったのか、とすら思い始めてきた。



そして、アルトさんは今日も食堂に来た。



「·····アルトさんってもしかして暇ですか」

つい、アルトさんが注文したオムライスを机に置いてからそう聞いてしまった。


「酷いなぁ、全然暇じゃないよ。割と忙しい方」

そう言うアルトさんはニコニコとした顔でオムライスを頬張る。

「だって、ミストさんは夜になるまで帰ってこないのにアルトさん、ココ最近毎日来てません?」

「忙しい業務の合間を縫って毎日通ってるんだよ」

「いや、別にお忙しいなら無理なさらない方が·····」

「そんな事言って俺が来なくなったら寂しいくせに」

「あ、本当にそういうのいらないので」

「うーん、クールなところも良いね」


最近はいつもこんな感じだ。

とはいえ、何も私だって本当にアルトさんに来ないで欲しいとは思っていない。

そりゃあ、来なくなっても良いのにな、くらいには思っているけど、もちろん心の底から会いたくないレベルではないし、アルトさんだって一応お客さんなのだから、もてなしたいとは思っている。


ただ·····。




「アルト、今日もアリーサちゃん口説いてるのか」

「ま、今日も惨敗みたいだけどな」

「そりゃそーだ!アルトにアリーサちゃんはまだはええよ」

先程のやり取りを聞いていた常連さん達がやんややんやと騒ぎ出す。


·····そう。これ。私はこれが嫌なの!


正直アルトさんの軽口にはもうだいぶ慣れた。

だからそこについてはなんの問題もないのだけど、寄りにもよってアルトさんが来店するのは常連さん達がいるお昼の時間帯だ。

つまり、アルトさんのその軽口は自動的に常連さんの耳にも入ってしまうということで·····。


お分かり頂けただろうか·····。この、私の心労を。


アルトさんが来店する度にああいうことを言うせいで、最近ではミャーシャさんはおろか、常連さん達までもがこうして私達の仲を誤解するようになってしまったのだ。

実に私の胃にやさしくない環境が出来上がってしまった。

アルトさんのせいで!


「あれ?なんか俺、睨まれてる?」


そんなことを考えていたらつい、目に力が入っていたらしくアルトさんにそう聞かれた。

「そりゃあ睨みますよ。貴方、絶対に確信犯なんですから」

「確信犯ってなんのことかな?」

心底不思議ですという顔で問われると、本当にこの綺麗なお顔に熱々のミートパイを投げつけたい気持ちになってくる。もったいないからしないけどさ。


「本当に趣味悪いですよ。私が困ってるのがそんなに楽しいんですか」

「え〜、それじゃあ俺が人でなしみたいじゃないか」

溜息をつきながらボヤくとアルトさんは心外だ、とでも言いたげに苦笑する。


「まさにその通りじゃないですか」

「辛辣だなぁ」

アルトさんはそんな言葉とは裏腹に楽しそうに笑う。


相変わらず、掴みどころのない人だ。


少しいじける私を楽しそうに観察していたアルトさんは、「やっぱりアリーサちゃんは面白い」と何気に失礼なことを言うと、その笑みを控えめなものに変えた。


「でもさ、本当にここは落ち着くんだ。だから忙しくても来たくなる。城にも食堂はあるけど、女性に話しかけられることが多いし、ここほど安心していられる場所ではないから」

アルトさんは店を見渡す。

その顔は優しいものだった。



アルトさんは基本的に軽口ばかりだし、何を考えているのか分からないことも多いけど、この場所や人を心から大切にしているのだということはとても伝わってくる。


·····うん。だから、私はアルトさんのせいで胃痛が止まらなくてもなんだかんだ言って、憎めないんだよなぁ。

アルトさんもここの人達と同じ、良い人だから。



「あ、それに可愛くて面白いアリーサちゃんもいるしね」



軽口がなければもっといいんだけどなっ!!!





◇◆◇



「あ、そうだ。アリーサ、あんたそろそろ休みなさい」

「へ?」


夜、お店の片付けをしていた時突然ミャーシャさんにそう言われた。

「え、ど、どうしてですか?私、休みなんて·····」

「昨日、ふとアリーサがこの店で働き出してからのカレンダーを見たんだけどね、あんた全然休みとってないじゃない!気づけなかった私が悪いけど、休みたい時は遠慮なく言っていいんだよ?私、あんたを雇う時に言ったよね?」

心配そうな顔を向けられ私は頷く。

「あ、でも私、本当にこのお店が好きで働くの全然苦痛じゃないんですよ?」

「アリーサ·····」

ミャーシャさんは眉を下げて私を見る。

お、これならもしかして休まずにいられるかも·····


「でもそれとこれとは別問題。取り敢えず明日は休みなさい。たまには息抜きも必要だよ」


と思ったけど普通にダメでした。


「この前倒れた時も無理して店に出てたし·····。とにかく、明日はゆっくり休むこと。いいね?」

「·····はい」


心から心配しているのが伝わってくるミャーシャさんの言葉を無下にすることも出来ずに私は渋々返事をする。

ミャーシャさんはそんな私を見て満足そうに頷いた。











私は昔から休日が苦手だ。

用事がある時は自分が何をすればいいのかが明確にわかるので問題ないが、用事も何も無い時は本当に何をすればいいのか困ってしまう。

逆に休日を予定も立てずに過ごしてる人を尊敬する。

だって、行き先も何も決まっていないと言うのにどうやって時間を潰すというのだろうか。


貴族だった頃はギチギチに予定が立てられていることがほとんどだったため、自分が時間を潰すのが下手くそだということは最近知ったばかりだ。だから対策も何もまだ分かっていない。

この前熱を出した時なんか、暇すぎて不安になったくらいだ。


だからなぁ。




正直、突然できた空白の時間にとても困っている。


一体、私は明日。どうすれば良いのだろう。




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