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14 花咲き娘、怒られる


あの後、市場から逃げるように立ち去った私はユーリイと共に食堂に帰ってきていた。

「こっちから入って」

表からユーリイを連れて入ると面倒なことになりそうなので、とりあえず裏口に案内する。


無事、誰にも見つからずに中に入った私達は二階にある部屋へと向かった。

「ここが、私の今の家」

「·····狭い、ですね」

「そういうこと言わないの。貴族じゃあるまいしそんな広い部屋いらないわよ」

何か言いたげにユーリイが私を見る。


「どうぞ」

だが、私はそれを見てみないふりをしてユーリイに紅茶を勧めた。

「·····いただきます」

先程より少し落ち着いた様子のユーリイがカップに口をつける。



さて、と。なにから聞こうか。

私はユーリイを見る。


「·····私が居なくなってから学園はどんな感じなのかしら?」

まずは近況の把握からだ、とユーリイに質問すれば、彼は僅かに身じろいだ。

「色々と、大変でした。いえ、今も現在進行形で大変ですね」


予想外の言葉に私は飲もうとしていた紅茶を机に置く。

「どういうこと?」


私の問いかけにユーリイは人差し指を一本立てる。


「まずひとつめ。姉上がいなくなった学園はリリア過激派によって無法地帯と化してます」

「はぁ?」


初っ端からなかなかハードな内容に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

リリア過激派ってなんだ。学園が無法地帯ってなんだ。


「姉上がいた時の学園は様々な意味でバランスが取れていました。リリアを好いている者の中には権力の強い者も何人かいましたが、敵対関係である人物の中に姉上がいる以上、派手に動き回ることも出来なかったからです。ですが、姉上が居なくなってしまった今、そのパワーバランスは壊れました」

「·····無法地帯って言うのは具体的には?」

「例えば、リリアに直接ではなくとも誹謗中傷をしたことがある人物やリリアのことをよく思ってない人物に対しての必要以上の制裁、あと無関係の女子生徒達へ心無い言葉を投げかけるやつもいました。さらにタチが悪い者はこの流れに乗じて授業妨害など関係の無い問題を起こしたりもしています」

「そんな状態で教師は一体何をしてるのよ?!」


私が言えた立場じゃないが、それはいくらなんでもやりすぎだろう。無関係の人を巻き込んでしまったら、それはもう当人達の中で収まる話じゃなくなってくる。

思わず言葉尻が荒くなってしまう私にユーリイは少し俯いた。


「それが、よりによって学園長がリリアに惚れ込んでいる者の一人なので·····」

「教師陣は機能してないと?」

「はい、残念ながら。今は生徒会長がなんとか抑えているようですが、恐らく長くは続かないかと」

「リリアは何をしているの?」

「それが、何もしないんです」

「何もしてない?」

「はい。リリアは過激派のことも学園のことも自分には関係ない事だからと」

ユーリイの口から発されたありえない言葉に私は頭を抱えたくなる。

·····あの小娘、だからあの時言ったのに。


口が悪くなってしまうのも今ばかりは許して欲しい。

どうやらリリアには私が断罪後に言ったあの言葉は伝わらなかったようだ。


「二つ目なのですが。」


ユーリイが立てている指を一本増やした。

え、ちょっと待って。まだあるの?


とりあえず落ち着こう、と紅茶を口に含んだ。

のだが。


「先程の無法地帯と化している学園に限界を感じている生徒達が姉上を連れ戻そうとしています」

「はぁぁ?!!」


続くユーリイの言葉で紅茶を吹きかけた。

危ねぇ。淑女としてあるまじき姿になるところだった。


予想外すぎるユーリイの言葉に私は一度、咳払いをして呼吸を整える。

「えっと、詳しい説明を求めてもよろしくて?」

ユーリイが頷いた。


「まず、先程も言いましたが今、学園は収拾がつかない状態になっています。きっかけは過激派でしたが今となっては暴れたいだけの馬鹿達も参加して更に手をつけられない」

忌々しそうに言葉を吐くユーリイに私は勝手ながらも同情する。


「そこで、この混乱を収めるためには姉上を連れ戻すべきだという案が出まして」

「いやいや。待て、話が飛びすぎ」

いきなり飛躍した話に私は思わず遮る。


何がどう、どの方向に行ったら私に辿り着くんだ。

行き先迷子すぎるだろ。


「分かりました。それならもう少し順を追って話します」

「ええ」

頷いてユーリイの話の続きを促す。


「まず、過激派が行動を始めた当初は他の生徒たちも特に何も思っていませんでした。正直、姉上のことを怖がっている人が多くいましたからみんなはどちらかと言うとそちらに気を取られていました」


ユーリイ。そこで中途半端な気遣いを見せなくていいんだよ。

はっきり言いなさい。学園の生徒はみんな、私の事怖がっていたから私が出ていって諸手を挙げて喜んだって。


と、割とどうでも良いことに気を取られている私にユーリイは目を合わせて「でも」と話す。

「過激派の動きが段々と不穏なものになって、頼りの教師も機能しない。その上、当のリリアは知らぬ存ぜぬ。

·····この時点で約半分の生徒がリリアに対して負の感情を抱くようになっていました」

「半分?それは男子生徒も含めてかしら?」

「はい、そうです。最初はリリアを好ましく思っていた者でも、常識ある者はこんな状況になっても何もしないリリアに失望し、対立を始めました」

「なるほど。それは分かったけど、どうしてその流れで私を連れ戻そうなんて話になるのよ」

「それがですね。リリアと対立をしている生徒達の中からこの混乱を収めるためにはやはり、絶対的支配権をもつ姉上を連れ戻すべきだと言う意見が多くでまして」

「ぜ、絶対的支配権·····」


また随分と字面の強いワードがでてきた。

言っておくが、私は王族でもなんでもないぞ。


「最初はそれも一部の生徒だけの意見だったのですが、学園の状況が悪化するにつれて、姉上はむしろわざと悪役を演じていたのではないかという意見まで出てくるようになり·····」


皆さん想像力が豊かなこって。

思わず頬を引き攣らせる。

そんな私に気づかないユーリイは話を続ける。

「それに先日、この意見に生徒会長が賛成したせいで、姉上を連れ戻すという意見はいまや、リリア対立派全体の意見になってしまっています」

「あんの馬鹿野郎·····」


無意識のうちに口から生徒会長への恨み言が飛び出した。

なんてことをしてくれたんだ。


「道理でこの前、やたらと連れ戻そうと話しかけてきたわけだ」

図書館でのことを思い出してゲンナリする。


「あ、いえ。生徒会長は元々姉上のことを貴族社会に連れ戻そうとしていたみたいですよ。今回はそれを後押しする為に生徒達の意見に乗っただけのようですし」

「一体なんの目的で·····?」

「分かりません。なにせあの人は一切隙を見せない人ですから」

「確かに」


そして沈黙がおちる。

なんだか私が思っていた方向とだいぶ違う方に問題が発生してる気がする。

溜息をつきたくなるのをぐっと我慢して私は眉間によった皺を解す。


「·····それで?会長の次はユーリイが生徒を代表して私を連れ戻しに来たってことね」

とりあえず、話を整理しようとそう纏めるとユーリイは数秒の間、ぽかんと口を開けていた。



そして突然勢いよく立ち上がったユーリイは言った。


「なんでそうなるんですか?!!」










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