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13 花咲き娘、考える


「俺と一緒に城に来て欲しい」


最近定番になりつつあるミストさんとミャーシャさんのイチャつきを死んだ目で見つめながら、店の片付けをしていたある日の昼下がり、突然アルトさんからそう言われた。


「え·····。嫌ですよ」

つい反射で答えてしまった。


「即答かぁ」

くすくすと笑うアルトさんは相変わらず、何を考えているのか分からない。

「またなんでそんな急に」

「急じゃないよ。俺はずっとアリーサちゃんに城に来て欲しいと思ってた。国王様も君が城に来るのを待ちわびてる」

「はあ?」


危うく手に持っていたお皿を落としかけた。

·····どういう事?

私、知らないうちになにかしちゃった?それとも貴族の時のこと?


ぐるぐると色々な可能性が頭に浮かぶ。


「大丈夫だよ。アリーサちゃんが何かしたとか何かを咎めるとか、そういう理由じゃないから」

恐らく、余裕のない表情をしていたであろう私にアルトさんは優しく微笑んだ。その様子はいつもと何処か違う気がするのは気の所為だろうか。


「ただ、少し聞きたいことがあってね」

「·····聞きたいこと?」

「そう。だから城に来て欲しい」

「ここで聞けばいいじゃないですか」

どうやっても城に行きたくない私がそう提案すればアルトさんは苦笑しながら首を横に振った。

「ごめん、それは出来ない。とても大事な話だから」


その言葉に私は何も言えずに黙り込む。


「·····申し訳ないけどこれは俺だけで何とかできる話じゃないんだ。だから、出来ればアリーサちゃんの同意の上で城についてきて欲しい」


つまり、私に拒否権はないと。

私が断ったところで、城に行くことは避けられないらしい。


それでも、私はアルトさんに了承の意を伝えることが出来なかった。


アルトさんが私の過去を知っているのか、貴族界で私の扱いがどうなってるのか、自分は何も知らない。

だけど、国王はさすがに知っているだろう。私が絶縁されたことを。


私がアリーサ・ローズと知った上で呼び出そうとしているのかなんの目的なのかも分からない今、不用心に城に行くのはさすがに躊躇われる。

それに·····。


私はお祖母様が亡くなる直前に仰っていたことを思い出す。



『不必要に国の要人に近づかないように。私たちは大きな権力を持ってるとはいえ、国から命令されたら抵抗できない立場の人間でしかないのよ』



あの時、あまりに真剣に言い聞かせるお祖母様に何故かと問うた。

でも、お祖母様は悲しそうに微笑むだけで何も教えては下さらなかった。


·····お祖母様、あの言葉はどんな意味だったの?


当然、答えはかえってこない。

今は、私自身で考えて行動しないといけないのだ。


「·····前向きに検討しておいて」


何も言わない私にアルトさんは眉を下げて笑う。

私はそれに頷けないまま、この話を終えた。





その日の夕方。


一人、市場に買い物に来た私は溜息をついた。


·····城に行くって話。私はどう答えるのが正解なのか。


どちらにせよ拒否権はないのだから、結果的には城に行くしか選択肢はないということは私だって分かっている。

それでも·····、私は、私の意思で未来を選択したい。


そうしないと、私は前に進めない。



まあ、どうすればいいのか解決策はひとつも浮かんでないんですけどね。


つい、また大きな溜息が出てしまう。


「アリーサちゃん、今日は元気ないね。大丈夫?」

ローテンションで果物を見ていたところ、果物屋さんのおばさんに話しかけられた。

「あー、うん。大丈夫。ちょっと考え事してて」

「あら〜、アリーサちゃんは可愛らしい笑顔が一番似合うわよ。はい、これ。アリーサちゃんが笑顔になれるように美味しい野いちごサービスしちゃうわ」


おばさんは袋いっぱいに野いちごを詰めて私に渡してくれた。

「え!いいの?」

「ええ!今が旬だから美味しく食べてね」

「ありがとう!!」

「うふふ、その笑顔よ!考え事、解決するといいわね」

「はい!今度お礼するから、食堂来てね」

「楽しみにしてるわ」


優しいおばさんに別れを告げて私は再び市場をまわる。

おばさんのおかげで少しだけ気持ちが明るくなった。


この野いちご、ジャムにしても美味しいだろうな。

帰ったら気分転換にスイーツでも作ろうかしら。


ミャーシャさんとミストさんの喜ぶ顔を思い浮かべながら私は鼻歌まじりに食材を見ていた



その時。



「あね、うえ?」


聞き覚えのある声がした。


幻聴かと、勢いよく後ろを振り向く。

「姉上ですよね·····?」


銀髪の青年は信じられないものを見たかのように目を見開いた。

その姿に私も固まる。


数秒後、ふわりと微笑んだ彼は私を抱き締めた。




「·····ユ、ユーリイ?」

「はい、姉上」

銀髪の彼の名を呼べば、彼は私を抱き締めたまま耳元で返事をする。·····こそばゆい。


「どうしてここに?」

「あなたを探して」

「·····え、は?」


戸惑う私にユーリイは抱き締める力を強めた。

数ヶ月前のやり取りが思い出されるその仕草に私は全身から力を抜いた。

取り敢えず、この前見かけた時よりは元気そうでよかった。


「·····元気だった?」

「身体は元気でした」

「身体()?」

「お恥ずかしながら、姉上が居なくなってからは少し荒れていまして」

「·····えーと」


ユーリイの言葉に思わず微妙な反応を返してしまう。

これは、私が居なくなってから面倒事があったってことかな?


「ああ、そういえば姉上が行方不明になって、会長から姉上のことについて詰め寄られました」

「え"、あいつユーリイのところにも行ったの?」

「ええ。·····まさか姉上も既に会長に会ってるんですか?」

「つい最近図書館でね」


私が応えると、ユーリイは急に黙ってしまう。

何その沈黙。怖い。


「ユーリイはどうしてここがわかったの?」

「姉上、偽名でしたが僕に手紙を出してくれましたよね?」

私の質問にユーリイは質問で返す。

私の知恵を振り絞って考えた手紙のことが普通にバレてることに地味にショックを受けながら頷く。


「あの字を見て姉上だとわかって、手紙の出処を探しました」

「は?」


思わず、本日何回目になるか分からない石化をする。

「えっと、字?」

「はい。字です」

「私の字、そんなに分かりやすいかしら?」

「いえ、僕が姉上の字を覚えていただけです」


·····ん、んん?どういう事だ?


私は抱きつかれたままなのを思い出して一旦、ユーリイから距離をとる。

ユーリイはこちらを残念そうに見ていたけど今は無視だ。


「えっと、私今まであなたに手紙を出したことなんてあったっけ?」

「手紙というか、メモ書きのようなものを一度」

「一度?」

「はい。一度」


真顔で答えるユーリイ。

·····この子、こんな子だっけ?いや、無表情なのは前からだけど。


黙る私にユーリイはポケットから一枚の紙切れをだした。


「これです」


それを受け取って見ると、確かに私の字で『これでも飲んで早く治してください。アリーサ』と書いてあった。


「これは?」

「僕が風邪をひいた時、起きたらベッドの横にこのメモと蜂蜜入りのホットミルクが置いてありました。どういう形であれ、姉上から手紙のようなものを貰えるのが初めてで嬉しかった僕は、この紙を取っておいたんです。それでもしかしてと思って見比べたら全く同じ筆跡だったので」

「そ、そう」


昔、お祖母様に教えてもらったシスターコンプレックスという言葉が脳裏によぎる。

·····いや、そういう感じでは無いだろ。よりによってユーリイだぞ。

しかも姉はこの私だ。うん。それは無い。ないない。


首を振って浮かんだ可能性を消す。

他にも聞きたいことがある、と口を開いた私は、しばらく考えてから、本来口に出そうとしていた言葉と違う言葉をユーリイに投げかけた。


「と、取り敢えず·····、うちにくる?」



顔見知りの店から感じる興味津々と言った感じの視線が気になって仕方がない。取り敢えず、私は人目を気にしなくていい所へ移動することを最優先させる。


「い、いいんですか」

「立ち話もなんだし·····。嫌なら別に」

「ぜひ」



食い気味なユーリイの返事によって、食材探しは終了を迎えた。

























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