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9 花咲き娘、意外な再会をする


国立図書館に入ると私は右の方向を指さした。

「じゃあ、私こっちにいるので何かあったら声をかけてください。用事が終わったら声をかけるので」

「わかった」

珍しく素直に頷いたアルトさんに別れを告げて私は右方向の本棚から花に関する本を探す。


·····まずは花図鑑で昨日咲いた花の種類を調べてみるか。


席についた私はカバンの中から昨日の夜咲いた花を出すと、ペラペラとページをめくる。


これと同じような花·····。あった、これだ。

名前は·····、ラベンダー。あれ、この名前聞いた事あるな。


私は自分の手に持つ紫の花を見た。

相変わらず昨日咲いたとは思えないほど生き生きしているこの花は小ぶりな花がまとまって咲いている。可愛らしい。


説明文も読んでみると、精神安定、不眠等によく効くと書いてあった。まさに今のユーリイにピッタリな花だ。


と、そこまで考えて私はページをめくる手を止めた。

·····あれ?

そう言えば、今回はユーリイの身体を心配した時に咲いた花に疲労回復の効果があった。

そして前回。お祭りの時は、ミャーシャさんとミストさん夫婦のためにと願って花が咲いた。それも夫婦仲に関する花言葉の花が。


私は一度、動きを止めて今まで咲いた花の名前を必死に思い出す。

そういえば、初めてアルトさんと学園ですれ違った時に咲いた花。あの花の花言葉は確か『予期せぬ出会い』

確かにアルトさんとの出会いは予期せぬものだったと言える。

つまり、これもその時の状況と花の特徴が一致している。


·····もしかして、その時の状況に合わせて頭の上から花が咲いてる?


一度、そう考えるとそうとしか思えなくなってくる。

それに、もしかしたら私がこの咲いた花に祈りを込めれば何か起こるんじゃ·····。


花火の時、私は強い祈りを込めた。

ミャーシャさん達が、みんなが癒されますように、と。

その結果、花はああして光り輝いた。


今度、人がいない所で実験してみよう。

咲いた花に祈りを込めて何が起きるのか。


今後の予定を立てながら、私は花図鑑を閉じた。


まあ、取り敢えずこのラベンダーはユーリイの手紙にアロマと一緒に同封するけどさ。

疲労回復効果あるみたいだし。


あとは·····。

私はラベンダーをカバンに戻した。そして周りに人が少ないことを確認してから本棚から一冊の本を取りだす。

題名は『聖女と歴史』


昔、この国には聖女といわれる人がいた。

そして聖女には普通の人にはない特殊な力があったといわれている。

その力は聖女ごとに異なるものだったらしく、あるものは傷ついた身体を治癒する能力を持ち、あるものは万力にも勝る腕力を持っていたという。

だが、この話はこの国ではあくまでも御伽噺として扱われている。

私自身、今まではそう思っていた。だけど自分の身に起きて分かった。

聖女は作り話でも御伽噺でもなく本当にこの国に存在していたんだと。

確かに、この世界に信じられないような力を持つ人はいるのだ。

そしてこの本には遥か昔の時代を生きた聖女のことが書いてある。


……でも、やっぱり私に近い能力の人はいないな。


うーんと唸りながら体を伸ばす。

特にめぼしい情報もないし、収穫はなしか。

国立図書館とはいっても、ここのスペースは誰でも閲覧が可能な本しか置かれていない。

情報を集めるにも限界があるだろう。


くそ、令嬢のころなら無駄に有り余る権力で一般の人が見られないところも見られたのに。

花が咲くようになってすぐの頃にここに来ればよかった。


心の中で悪態をつく。


「ち、ちょっと待ってください!どうして急にそんなことを言うんですか!!」


私がうなだれると同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「急?俺はずっと前から生徒会室は遊ぶ場所ではないと伝えていたはずだが?」

「だってそれは!」


嫌な記憶しか呼び起こさないその二つの声に私は動きを止めた。


……この声、絶対に生徒会長とリリアだ。なんでよりによって今来るんだよ。


言いがかりに近い怒りと焦りを抑えて私は取り敢えず気配を消す。

幸い、まだあの二人とはかなり距離がある。このまま下手に動かず、待機するのが得策だろう。


「ま、前まではなんだかんだ言って会長だって生徒会室に入れてくれてたじゃないですか!だから私……」

「いれないとほかのやつらが仕事をしなかったからな。だが、それももう終わりだ。分かったら俺の前から去れ」

「ど、どうして……。みんなおかしいです!せっかくアリーサ様が学園からいなくなったのに」

生徒会長の厳しい言葉にそれでもなお食い下がるリリア。

そんな会話をハラハラしながら何かの劇でも聞いているような気分でいたのに、突然自分の名前が出てきた私は驚く。


え、そこで私?

どんだけリリアは私のことが嫌いなんだ。まあ、仕方ないことかもしれないけど。


一人で微妙な気持ちになっていると、私の耳に恐らく生徒会長のものだと思われる嘲笑が聞こえてきた。

「はっ、お前は何もわかっていない」

「え?」

「説明するのも面倒だ」

「か、かいちょ……」

「俺はさっき、お前に去れと言ったのだが聞こえなかったか」

声を聴いているだけでも伝わってくる会長の怒気にさすがのリリアも引き下がったようでパタパタと走り去る音が聞こえてきた。


……やっといったか。

私は遠ざかる足音を聞いて肩の力を抜いた。


それにしても、さっきの様子。やっぱり会長は本気でリリアに惚れているわけじゃなさそうだな。

あと、リリアが言っていた「みんなおかしい」というセリフが引っかかる。

みんなって誰だ。おかしいってなんだ。う~む、気になる。



「盗み聞きとはいい趣味じゃないか」

色々な可能性を想像しているうちに、うつむき気味になってしまった私の肩を誰かが叩いた。

アルトさんか?と思って何の気なしに振り向いた先にいた人物に私は見事に固まった。


「久しぶりだな、アリーサ嬢」




そう言った生徒会長は今まで見たことも無いような良い笑顔を浮かべていた。




「……人聞きの悪いことを言わないでくださいますか。あんな大声で話されたら聞きたくなくとも自然と耳に入ってきます」


嘘です。めちゃくちゃ聞き耳立ててました。野次馬根性丸出しにしてました。


数秒動きを停止した私はなんとか本音を隠してそう返した。

っていうか、急に話しかけてくんなよ!!びっくりしちゃっただろうが!


心の中で文句を言うのも忘れない。

「おっと、これは失礼。確かに図書館にふさわしいものではなかったな」

「いえ」


会長の言葉に真顔で返答しながらも私の内心はパニックを起こしていた。

当たり前だろう。いきなりこの人と話すなんて心の準備ができてなさすぎる。

一週間くらい準備期間が欲しい。いや、それでも足りないかも。っていうか根本的に話さずに済むのなら話さないで済ませたい。

とにかく、それくらい私はこの人と話したくない。まして、一対一なんてもってのほかだ。


「まあ、元気そうで何よりだ」

「あら、私のことなんかを心配していてくださっていたとは意外ですわね」

もう悪役のようにふるまう必要はないのについ厭味ったらしい言葉を返してしまう。

すると、会長はそんな私の言葉に笑みを浮かべた。


「ずいぶんな言い方だな。俺は君を探してここまで来たというのに」

「……は?」


今度こそ、思考までしっかりと停止した瞬間だった。














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