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4 花咲き娘、腹黒に苦しむ

「まずはどこに行くんですか」


隣を歩くアルトさんに質問すると、彼は「う〜ん」と唸った。

「取り敢えず、もうお昼近いし食べ物が多く売ってる通りに行こうかな。それでいい?」

「大丈夫です」

私が頷くと、アルトさんは微笑んだ。

「美味しいもの沢山あるよ」

「楽しみにしてます」

「まあ、アリーサちゃんが隣にいるんならなんでも美味しく食べられると思うけど」

「じゃあ泥団子でも作って差し上げましょうか。丹精込めて作るので隣で食べてください」

「なにそれ」

隣でアルトさんが吹き出した。本気なんだけどな。

「·····そんなことを言ってるから女性に付きまとわれるんですよ」

「いや、さすがに普段はこんなこと言ってないって」

「でも私の髪型褒めてくださった時みたいなことは言ってるんでしょう?」

ジト目で睨む私にアルトさんは首を横に振った。

「いや、あれもアリーサちゃんがそれで少しでも俺に惚れてくれたら動かしやすいかなと思って。あんまり本気になられても困るけど」

「どクズがここにいる」

「知ってる」

嬉しそうに楽しそうにアルトさんに頷かれて私はため息をついた。

「じゃあ今、本性がバレているのにそんなことを言う理由はなんですか」

「え、ああいうことを言われた時にアリーサちゃんの目が死ぬのが面白いから」

「やっぱりクズだ」

私の言葉にアルトさんは気を悪くした様子もなく、けらけらと楽しそうに笑っている。こんな様子だから私もついまた口が滑ってしまう。さっきからその繰り返しだ。



·····にしても。


私はご機嫌そうなアルトさんの横でため息をついた。

相変わらずビシビシと刺さるような視線を無数に感じる。

恐るべし、イケメンの力。


私はキリキリと痛む胃を抑えながらそんなことを思った。



◇◆◇


しばらく歩いていると、辺り一面いい匂いが漂い始めた。

「お腹すいてきた」

私が呟くと、隣でアルトさんが同意する。

「特にこの香り嗅いでると本当に食欲湧いてくる」

「ですね」

私たちはキョロキョロと周りを見渡しながら何を食べようかと話す。

「·····あ」

「どうしたの?」


突然立ち止まった私にアルトさんが質問をしてきたけれど、私はそれに答えられずに一点を凝視していた。


私の視線の先にあるのは、何の変哲もないただの肉の串焼き。


でも、あの串焼きは私が昔、お祖母様と来た時に食べた串焼きにそっくりだった。

今でもはっきりと覚えている、お祖母様との記憶。

こっそりと屋敷を二人で抜け出してお忍びでお祖母様と来た街で食べた。とても美味しかったそれをお祖母様の暮らしていた国では「ヤキトリ」というのだと教えてくれた。

私はそんな話を聞きながら口をタレでベタベタにしながら串焼きを食べていたのを覚えている。


不意に感じた懐かしさから棒立ちでその串焼きをみていると「買う?」と横から声をかけられた。

その声にハッと我に返った。

そうだ、今はアルトさんがいるんだった。

私は慌ててアルトさんの言葉に頷く。



「すみません、串焼き一本ください」

「はいよ!」

私が注文してすぐにタレにくぐらせた串焼きが出てきた。

美味しそうな香りがするそれを受け取った私はすぐに齧り付く。

お祖母様と来た時ぶりに食べる串焼きは相変わらずとても美味しかった。

ん~、やっぱりあの家で食べていたような料理も美味しかったけどこういう手軽に食べられるものもいいよね。


串焼きのあまりの美味しさに頬を緩めていると、隣からアルトさんが近づいてきた。

その顔に悪戯っ子のような笑みが浮かんでいるのを見てヤバい、と思った時にはすでに時おそし。

私の串焼きはアルトさんに食べられていた。

「うわ、最悪……」

「あはは、そんな態度とられたのはじめて。どうしよう、すごく楽しい」

「私は全然楽しくないです」

減ってしまった串焼きを悲しい気持ちで見ているとアルトさんが私の頭に手を置いた。

「もう一本食べる?」

「え?」

「美味しかったから俺も食べようと思って。今なら俺のおごりだけど、どうする?」

「いただきます」

おごりという言葉を聞いた途端に即答した私にアルトさんは楽しそうに笑っていたけど、私に悔いはない。私はもらえるものはもらう主義なのだ。


無事、二本目の串焼きもお腹におさめて満足した私はほくほくとアルトさんの隣を歩く。

「機嫌よさそうだね」

「串焼きが美味しかったので」

「うん、やっぱり笑顔のほうが可愛いね」

言われた瞬間、私は笑顔を引っ込めた。

が、アルトさんはそんな私の反応さえも面白そうに見ている。

全く、くえないやつだ。


「あ、そうだ」

そんなアルトさんに恨めし気な視線を向けていると、彼が突然声をあげた。

「どうしました?」

「勘違いしてるかもしれないから一応言っておくけど」

「はい」

「俺、別に団長たちの前で演技してるわけじゃないからね」

「はい?」

そんなわけないだろ、と思わずアルトさんを凝視すると彼は「本当だよ」と笑う。

「俺はあの二人が好きなんだ。だから、あの二人の前では演技なんてする必要もないよ。それに団長は部下のことをよく見てるから、俺が演技なんてしたらすぐにバレる」

「へぇ」

真剣な顔で語るアルトさんに意外さを感じながら相槌をうつ。

「でも新しく店に人を雇ったって聞いて心配だったんだけど、俺の想像よりよっぽど頼りになる子で安心したよ」

「……それはどうも」

「ただ」

アルトさんはそう言うと立ち止まり、私を見た。

「俺はアリーサちゃんの過去を知らないし、詮索する気もないけど、もしも、君が令嬢だった頃のいざこざであの場所に、あの人たちになにか迷惑をかけるようなことがあるのなら―――、俺は君を絶対に許さない」


その瞳は今までのものとは違い、冷たく鋭い。目が本気だと物語っている。

万が一にも私があの人達に害を及ぼすことがあったらきっとこの人は本当に宣言通り私を全力で排除してこようとするだろう。

だからと言って私はこの言葉を無責任に、そんなことあるわけがないと否定することも出来なかった。


何故なら私は学園でリリアを虐めていたから。

昔、お祖母様に教わった言葉に「因果応報」という言葉があったけれど、まさに私はいつその言葉通りになってもおかしくない。だから、私の存在があの人達に害を及ばさないと約束はできない。

できないけれど、私もあの場所が好きだから


「肝に銘じておきます」


もし、そんなことがあったらその時は私自身で全てのケリをつけよう。


「賢い返事だね」

私の返答を聞いたアルトさんは表情を緩ませた。

どうやら、回答は合格点をもらえたらしい。



「さてと。面白くない話はここまでにして、次はどこに行こうか」

切り替えをするように一度、手をたたいたアルトさんにならって私も気持ちを切り替える。

「正直、私はお祭りがどんなものだったのかを見たかっただけなのでアルトさんの行きたいところがあるんだったら私はそれについていきますよ」

「あ、それじゃあ雑貨が売ってる方の通りに行ってもいい?」

「いいですね。私、そっちも興味あったんです」

「じゃあそれできまり」

行先も決まったので私たちは再び、移動を始める。



……移動を始めて思い出した。思い出してしまった。

歩く度に私に向く悪意のある視線に!!


前も言ったけど、私は可も不可もない顔立ちをしている。

これで隣に並ぶのが美女ならこの痛いほどに集まる視線も少しは緩和されたのかもしれないが、残念なことにアルトさんの隣に並んでいるのは私だ。そのため、周りからはひそひそと「なんであんな子が」的なことを囁かれ続けている。

とりあえず、精神的負担が大きすぎて泣きそうだ。

はぁ、この目線と隣の男がいなかったら普通に楽しいんだけどなぁ。


なんて、我慢している間にアルトさんの目的地に着いたらしい。

アルトさんはある雑貨屋さんの出店の前で立ち止まった。

みれば出店には可愛らしい小物がたくさん並んでいる。









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