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2 花咲き娘、再び出会う


「あれ、うちの団長なんだ。図体でかいし、ああやってすぐミャーシャさんとイチャつくから引き剥がすの大変でさ」

そう言って私に謝ったのは絶世のイケメンだった。


オレンジとブラウンの中間の色をした髪に·····って、あれ?この人、前にどこかで会ったことある気が·····。


「·····というか、俺達どっかで会ったことある?」

ちょうど私と同じタイミングで目の前のイケメンが不思議そうに首を傾げていた。

「お、なんだ兄ちゃん!来て早々に俺らのアリーサに手を出そうってか!俺は認めねーぞ!!」

二人で顔を見合わせて、いつ会ったのか思い出していると常連のおっちゃんが茶化し始めた。ったく、このおっちゃんはすぐに人のこと茶化す。


「あのねぇ·····。お客さんにあんまり失礼な事言ってるとお店、出禁にするよ」

失礼でしょ!と怒ると、他の常連さんたちが「これは、嫌われたな」とか「あ〜あ、もう話してくれねぇぞ」なんて野次を飛ばす。


「な?!それは困る!アリーサちゃん、今のは冗談だからな!すまん!許してくれ!!」

「謝るんなら私じゃなくて、この人に」

「ああ、いや大丈夫、大丈夫。気にしてないから」

イケメンが苦笑いで私たちのやり取りを止めた。


「それより、思い出したよ」

「へ?」

「君と、どこで出会ったのか。雰囲気が違うからなかなか思い出せなかった」

ニィ、といたずらっ子のような笑みで男は私の右肩に手を置いた。

未だに思いだせない私は男の言葉に目を見開いた。


「うん。ほら、確か二ヶ月くらい前にがく·····」

「あー!!!はいはいはい!なるほど!思い出しました!」

いきなり大きな声を出された男は目を見開いて私を凝視する。

うん、ビックリしましたよね。いきなり大きな声を出してごめんなさいね。

でもね、私も思い出したんだよ。思い出してしまったんだよ。あなたと出会った場所を。


私はこの人と二ヶ月前に、()()で会っている。


確か、断罪されるちょっと前に、廊下でこの人とぶつかって少し会話をした気がする。その直後に頭から花が咲いたからよく覚えてる。


よりによって学園……。



ミャーシャさんや、周りの人には 私が元伯爵令嬢だったことは言っていない。

変に気を使われたくなかったし、事情が事情だったから自ら進んで話すには少し時間がいると思った。

だから、令嬢だった頃の私と会っている目の前のイケメンは、非常に面倒臭い存在だ。


·····そう考えると、逆にこの人よく思い出せたな。貴族が食堂で働いてると思うか、普通。それもあの一瞬、会っただけで。


「えっと·····?」

イケメンが私に戸惑いの表情を向ける。

あ、やばい。さっき、大声出したっきりなにも喋ってなかった。


「あ、なんか久しぶりに会ったら二人で話したくなっちゃったな。できれば二人っきりで!!ミャーシャさん、少しお店空けても大丈夫ですか?!」

「んー?いいよ、いいよ。いってきな」

団長、もとい旦那さんとイチャついていたミャーシャさんは上機嫌で頷いた。

後から常連さんとかミャーシャさんとかに根掘り葉掘り質問されそうだけど、今は目の前のこのイケメン騎士をどうにかしないと。


私は未だに驚いて固まっている騎士の手を取って二階へと上がっていった。




「……すみませんでした。突然大声出して」

一階とは打って変わって静まりかえる二階で私はまず、男に謝罪する。

取り敢えず、へらっ、と愛想笑いしてみるとイケメンは「いえ」と言いながら私に合わせて愛想笑いを返してくれる。

よし、このままそれとなくフェードアウトして話題を逸らせば·····

「でも、どうしてここに貴女のような人が?」


全然逸らせなかったぁ·····。


愛想笑いを引きつらせる私。

「いえ、あの諸事情がありまして·····」

口ごもる私を見て彼は何か感じ取ったのか「ああ」と小さく呟いた。


「なるほど、これは失礼。えっと、名前を聞くのはセーフかな?」

「あ、名前も名乗らないで失礼いたしました。私はアリーサと申します。二か月程前からこの食堂で働かせてもらってます」

軽くお辞儀をすると、イケメンさんは「アリーサちゃんね」と頷く。

「俺はあそこでイチャついてる団長の下で働いてる騎士のアルト。君の過去のことは他言しないと誓うよ」

「ありがとうございます」

軽く頭を下げてお礼を言う。話の分かる人で良かった。

是非とも学園で会ったことは墓場まで持って行ってほしい。



取り敢えず、話も終わったので二人で下に戻ると既にミャーシャさんは厨房にいた。

「あ、遅くなってすみません」

なにか料理を作っているミャーシャさんに謝るとミャーシャさんはニカッと笑った。

「いいの、いいの。今はただミストに出すご飯作ってるだけだから。それより逢瀬はもうすんだの?」

「お、逢瀬?」

この状況に明らかにそぐわない単語に私は嫌な予感を覚える。

「いやぁ、アルトなんかと知らないうちにくっついてたんだね。何も言ってくれないなんて水臭いじゃないか」

「ミ、ミャーシャさん、それ凄い誤解です」

案の定、豪快な勘違いをされていた。


「も~、照れなくたっていいのに。あ、手が空いてるならこの料理運んでもらっていいかい?」

運よくすぐに話がそれたので私は「はい」と返事をして出来上がった料理を持ってミストさんのもとへ向かった。



「どうぞ」

席ではミストさんとアルトさんが座って話をしていたので邪魔にならないよう料理を置くと、ミストさんに笑いかけられた。夫婦で随分そっくりな笑い方をする。

「おー、ねーちゃんがアリーサちゃん?」

「はい、そうです。はじめまして」

ぺこりと頭を下げると、ミストさんは「ミャーシャから手紙で聞いてたんだ」とおしえてくれた。

「どう、お店には慣れてきた?」

「はい、おかげさまで。ミャーシャさんもお客さんもとってもいい人です」

「そうだろ、そうだろ。いい店だろ?」

そう言うミストさんは本当に愛しいものを見るように目を細めた。その姿にミストさんがどれだけここを大事に思っているのかが伝わってくる。

「ミャーシャの手作りの料理も食べるの久しぶりだな」

「でも、これからは毎日食べられますよ」

「そうだなぁ」

にこにことおいしそうに料理を食べながらミストさんがアルトさんの言葉にうなずいた。

その言葉の意味を質問しようとしたとき、後ろから「まあ!」と声がした。

「ミ、ミスト。今の言葉、本当かい?!」

後ろを向けば、そこには追加の料理を持ったミャーシャさんが目を丸くして立っていた。

「ああ、ハニー言うのが遅れてごめん。もう当分は地方の仕事はないんだ。だからまた二人で暮らせるよ。」

「ミ、ミスト……」

涙ぐむミャーシャさんにミストさんが近づき抱きしめる。

後にアルトさんから話によるとミストさんは結婚してすぐの頃に団長になり、度重なる仕事で二人の時間をとれることがほとんどなかったらしい。


「よかったな、ミャーシャ」

常連の一人がミャーシャさんに声をかけると彼女は勢い良くうなずいた。

「今年の祭りはミストと行けるんじゃねぇか?」

「ああ、俺も祭りに連れて行ってくれ。さみしい思いさせてごめんな」

「私のことはいいんだ。ミストこそ長年、遠方でのお仕事お疲れ様」

「ありがとう」


二人のそんなやり取りを常連さん達が温かい目で見守っていた。





それからしばらくの間、ミストさんは常連さんたちと昔話に花を咲かせていた。

店自体も昼をすぎてだいぶ落ち着いてきたのでミャーシャさんと私も話に加わっていると、祭りの話になった。

「あ、さっきも言ってましたけどその祭りって何なんですか?」

「え、アリーサちゃん祭りのこと知らないの?」

常連さんに問いかけられた私は素直にうなづく。

「豊作祭って言って神様に今年も豊作でありますようにって祈るのと、去年のお礼を兼ねたお祭りだよ」

「たくさん出店があって楽しいよ、たしかもうすぐだったよな」

「へぇ~。私も今年は行ってみようかな。あ、でもお店はどうするんですか?」

ミャーシャさんに問いかけると、彼女はにこりと笑った。

「お祭りだからって張り切ってお店を開けるところもあるんだけどね。うちはお祭りの日は完全に休みさ」

「そうなんですね」

頷いて、それならどこに行こうかと思いを巡らせているとミストさんが「あ」と声を上げた。

「そうえば、アルト。お前、祭りの日非番だったよな」

「はい」

「アリーサちゃんのこと、エスコートしてやれよ」

「え」

思わず声を出してしまったのは言わずもがな、私だ。

なんということを言うんだ、ミストさん。


「いや、私のことはお気になさらず。それにわざわざ非番の日に私のために時間を使うなんて」

「あれ、アリーサちゃんのタイプじゃなかったか。女たらしっぽい見た目してるけどそんなことないぞ。優良物件だ」

そういう問題じゃないんだ、ミストさん。

「いや、アルトさんにも彼女とか気になる人の一人や二人……」

「アリーサさんがいいなら俺は別にかまいませんよ」

と、味方だと信じて疑わなかったアルトさんから突然の裏切りにあった。

何を言うんだ、アルトさん。

「いやいやいや。アルトさんまで……」

「俺と行くのは、嫌かな?」

尚も言い募ろうとした私にアルトさんが追い打ちをかけてきた。

助けを求めようにも周りの人は面白そうにこちらをうかがうばかり。

そして微笑むアルトさんを見て、私は悟った。


これは回避不能なやつだ、と。



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