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1 花咲き令嬢と事情



「貴女、本当におめでたい思考なのね。頭にお花畑でも広がっているのかしら?」


なんて言ってた次の日の朝。

何故か私の頭の上に花が咲くようになりました。

いや、なんでやねーん。




◇◆◇



私の名前はアリーサ・ローズ。伯爵家に生まれた伯爵令嬢だ。

歳は十八歳。二ヶ月前に、この国では成人とされる年齢になったばかりだ。


人々からは本名よりも「氷姫」とか言うよく分からない渾名で呼ばれることの方が多い。普通こう言う渾名って言うのは美人が名付けられるのがセオリーなのだけれど、私は不細工でもなければ美女でもない。一応言っておくけど、謙遜とかでは決してない。正直、名前負けしてるからやめてほしい。

そんな顔面偏差値ド真ん中の私が何故こんな名前をつけられたのかというと、私はどうやら周りから氷のように冷たい人間だと思われているらしい。多分、あんまり表情筋を使わないせいだと思う。

·····あ、あと最近は特にある女の子を虐めていたから、その話が広まって更にそういう認定を受けたのかもしれない。


そう。そのある女の子というのが昨日、私が暴言を吐いていた相手、リリア・カサラン男爵令嬢だ。

肩の辺りでふわふわと揺れる金髪。雪のように白い肌に血を塗ったかのように紅いぷるぷるとした唇。長い睫毛は植毛を疑いたくなるほどにバッサバサと無駄に烟っている。

そんな絶世の美少女である彼女に私が暴言を吐くようになった原因というか、きっかけは私の婚約者にある。


元々、私には我が家と同等の力を持つ伯爵家の次男坊との縁談の話があり、私の家はそれを了承した。

そうして私達は婚約者となった。

ちなみに何故相手が次男なのかというと、おそらく権力の偏りすぎを抑えるためだと思われる。

強すぎる力を蓄えれば、国からは反逆を疑われる。

その為、次男と婚約することになった私だったが、そこに本人の意思は全く存在しない。

が、まあ今はそのことについては置いておこう。


何はともあれ、婚約を結んだ私達はつかず離れずの関係で年月を過ごした。

そんな関係に変化が訪れたのが半年前の事だ。


きっかけは、学園に転校生がやってきた事だった。

そう、その転校生こそが絶世の美少女、リリア・カサランだ。


その少女は転校して早々に、堅物で鉄仮面と呼ばれていた宰相の息子(イケメン)や、軟派でチャラついた態度とは裏腹に誰にも本心を見せないと言われていた先輩(イケメン)、見分けのつかないイタズラ好きな双子(イケメン)、圧倒的カリスマ性で誰もが従いたくなる俺様な生徒会長(イケメン)その他、エトセトラエトセトラ·····。

とにかく学園中のイケメン·····だけでなく、その他大勢の平凡な男子諸君までもを虜にした。

そしてその中にはもちろん、我が婚約者も入っていた。

因みに我が婚約者のポジションは王子様然とした態度を崩さない紳士でいながら、どこか腹黒さを感じる孤高の天才(笑)らしい。誰だそれ。


まあ私は別に婚約者を愛していた訳でもないので婚約者がリリア・カサランに鼻の下を伸ばしていようが、無様に振り回されていようが心底どうでもよかったのだけれど、やはり周りのご令嬢達はそうは問屋が卸さなかったらしい。

結果、リリア・カサランは女子陣からは蛇蝎のごとく嫌われ嫌われ、学園中の女性達から、虐められるようになった。

が、権力を持つイケメン達から愛されている彼女を虐めてただで済むわけもなく、いじめの首謀者達はあっという間にその罪を暴かれると、婚約者や想い人からそれぞれ、それなりのトラウマになるであろう言葉を投げつけられ、学園からの退学を余儀なくされた。

そしてその一連の流れを見ていた私は思った。

「え、これなんて言う恋愛小説(茶番)?」と。


断罪された令嬢は物語のようにベタな手でいじめを実行し、それを暴いたイケメン達の調査は意外とガバガバ。

そんな流れを見守っていたリリア・カサランも、物語に出てくるヒロインと同じようにイケメン達の背中に隠れて、ビクビクと震えるばかりで重要な証言は何もしない。そもそも、冷静に考えてみればご令嬢達のしたことは確かに悪いことだが、婚約者がいながらほかの女性にうつつを抜かした男性側にも非がある。

その上、立会人なぞはもちろん居ない。


まさかリアルでもこんなにガバガバなままで断罪が成り立つとは思わなかった。


それが分かった時、私の心を占めたのは歓喜と、どうしようもない期待だった。





いきなりだが、私の家の話をしよう。

私の家はかなり由緒正しき家で、伯爵家の中でも権力はすこぶる強い。そして、そんな巨大な権力を持つ我が家の人間達が私は昔から嫌いだった。

妻や子供に見向きもしないでひたすら領地の開発と貴族の義務を果たす父。そんな父に何も言えずにあいまいな態度をとり続ける母。そしてある日突然、父に気まぐれで拾われて我が家にやってきたもののその後は見向きもされずに放置され続けた義弟。

そしてその現状を知っておきながら何一つ介入する気のない無気力な使用人達。

本当はなにもかもが歪なくせに、有能な領主だと、素晴らしい御家だと言われ続け、私はずっとそれが嫌で嫌で仕方がなかった。

でもそんなことを言って私だって義弟が初めて我が家に来た時、不安でいっぱいだったであろう彼に救いの手を差し伸べ無かった。義弟が今のように心を閉ざした生き方をしているのは私にも責任の一端がある。結局は私も実の子供さえ道具としか見ていないあの男の子供だったということだ。


さて。そんなに家が嫌なのなら家出でも何でもすればいいだろうと思った方もいたかもしれないが、現実はそう甘くない。

なぜなら多くの人間が私が伯爵家の娘だと知っているからだ。つまり、護衛もなしに一人でフラフラしていれば私はすぐにデッドエンド行き。万が一、殺されずに生き延びたとしても父はどんな手を使っても私を探し出し、連れ戻そうとするだろう。

それは実の娘だからとか、心配だからとかの理由ではなく私にそれだけの利用価値があると父が認識しているからだ。

伯爵家で娘は私一人だ。私が居なくなればその唯一の娘役は居なくなる。だからあの人はきっと私の利用価値がなくなるその日まで私に執着するだろう。ただし、その執着は道具に対してのものだけど。


家との縁は切りたい。でも死にたくはない。





そんな悩みを長年持ち続けていた私にとっては先程の茶番じみたやり取りが一筋の希望の光に見えた。


もしも私があの子を虐めたらきっと、婚約者はあの子を私から守ろうと私を断罪するだろう。それに便乗して婚約破棄もされるかもしれない。

そして社交界の縮図とも言えるこの学園でそんな恥を晒した私をきっと父は許さない。父からしてみたらそんな愚かな私の利用価値はぐっと下がるはずだ。

利用価値の下がった役に立たない人間を理由もなく養うほど私の父は家族に対して優しくない。

つまり、待っている処分は勘当の可能性が高いということで·····。

勘当されてしまえば私に金目的や家柄目的で近づく輩もぐっと減る。

イコール、私ひとりで出歩いても殺されたり誘拐される確率もかなり下がる!



私、天才じゃね?!



と、思わずそう叫びたくなった。



そうなると問題は勘当されたあとの暮らしだけど、そこについては問題ない。

私は小さい頃から母の母、つまりお祖母様から家事や働き方についてよく教わっていた。

お祖母様は母とは正反対のしたたかな方で、いつも私に貴族は驕ってはならない、犠牲の上に私達の生活が成り立っているのだ、と言い聞かせ、実際にお祖母様とよく街にお忍びで出たりもした。お祖母様は貴族の中では珍しく、自分のことは自分でやる方だった。

いつも背筋をぴんと張り、凛と立つその姿はお年を召されてもずっと美しいままだった。

一度、お祖母様に「なぜ、貴族なのにそんなに平民の暮らしを知っているの?」と聞いたら、お祖母様は「私はね、テンセイシャなのよ」と教えてくれた。

「テンセイシャ」というのはどうやら前世を持っている人のことらしく、お祖母様は前世、ニホンという国で平民として暮らしていたらしい。

もし他の人がそんなことを言っていたらどうせ嘘だろうと信じなかったけれど、他でもないお祖母様だったから私はその言葉を信じた。


お祖母様は本当に色々なことを知っていて、私はいつも知らない世界を覗いているようでお祖母様が教えてくれることは全て吸収した。

その中で、家事のやり方や上手な買い物の仕方等を教えてもらった。今でもその記憶は鮮明に覚えている。お祖母様が教えてくださる世界はいつも夢のようにきらきらとした楽しそうな世界で私はその話を聞くのが大好きだった。

もしお祖母様が今もご存命だったら、義弟や母にも少しは違う未来があったのかもしれない。



いけない、いけない。つい、思い出に浸ってしまった。

まあ、ここまでの説明で大体皆さん、察して頂けたと思うけど何故、私がリリア・カサラン男爵令嬢を虐めていたのか。


それは家から勘当されるためである。







毎日20時投稿目指します。

お読みいただきありがとうございました!

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