表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある異世界の冒険譚

気づくと私は異世界にいました。


「ここは異世界よ。」


美少女は言いました。きっとそういう決まりごとなのでしょう。普通であれば私はこの美少女を引き連れていざおとぎの世界で冒険譚等と洒落込むのがセオリーなのでしょうが私はそういった出版社のマーケティングに根ざした通俗的な世界観には甚だ疑問を抱いていたものですからこの世界の水先案内人たる彼女にこう問いかけたのです。


「異世界?確かにこの世界は僕にとっては異世界かもしれない。だけど君にとっては通常世界だろう?君にとっては他ならない僕が異世界の住人のはずだ。もう少し畏怖の念をもって接してもらってもいいだろう。君があまりにもほら待ってましたと言わんばかりに、ここは異世界ですと言うものだから私は全てが用意されているんじゃないか、ことによると君が黒幕なのではないかと疑ってかかることなってしまうよ。」


「・・・この世界を救ってほしいの、この世界を黒の組織ブラックシンジケートから救えるのはあなたしかいないのよ!!」


「またまたそうやって常套句を枕詞の様に並べたてて君は比較的簡単な対立構造を作ろうとするじゃないか君は。もう少し世界を俯瞰して見る必要があるよ。いや、君だけじゃない、昨今はあらゆる人間や媒体に共通することだけど、世の中はちと複雑なんだ。利権、協力、裏切り、世論操作、面子、スポンサー・・・そういった要素が絡み合って今の対立構造を作っているんだ。だいたいなんだいその黒の組織だとかブラックなんとかだとか。それはね、ポーズだよポーズ。一見恐怖心を煽る様なことをしておいて、目的は別の所にあったりするんだよ。スポンサーが武器商人だとか、ある特定の団体に悪印象を植え付けさせようだとかね。もちろん私も今ここに来たばかりだから軽はずみなことは言えない。言えないけど、これだけは言わしてくれ。相手を倒して全て終わりじゃないんだ。後片付け、これが一番大事なんだよ。」


ここまでお読みになった読者諸君はもしかしたらふとこう思ったのではないでしょうか。この作者は異世界転生について十分な知識を持っていない。生半可な知識で「ここは異世界だと自分から言う美少女」だとか「黒の組織」の様なズレたイメージの敵を登場させているのではないかと。これについて告白させていただくと、確かに私は異世界転生について十分な知識を持っていないのです。ですがこれだけは言わせて欲しい。世間の認識等そんなものであると。世間からすれば歌舞伎は「なんかイヨーみたいな奴。」落語は「なんかお後がよろしい奴。」程度の認識でありこれは当事者達からすれば噴飯物である。長い歴史を経た歌舞伎や落語ですらそうなのであるから、ここ10年ないうちに定着した異世界転生等という概念にパブリックイメージ等あって無いようなものである。むしろ私はそれに対して無知であることを自覚しているのだから罪の意識はあるのです。世の中にこの罪の意識をもたずズカズカと人の領域に踏み込むふとどき者のなんと多いことか!さてさて脱線はここまでにして私は一向にらちがあかない少女との会話を切り上げて黒の組織とやらの所に行くことにしたのです。


「お嬢さん、して黒の組織はどこにいるのかな。」


「グーグルマップで(35.6633279,139.7546664)よ。」


「お嬢さん。確かに私は先程出版社のマーケティング的な手法はいけ好かないと言った。だけどね、何もグーグルマップの緯度経度でそこを伝えてくるのはいかがかものかと思うよ。読者はね、えてして冒険を求めているんだよ。確かにその冒険の冒険たる形が型にはまりすぎているのは確かだ。でもね、この黒の組織はことによるとラスボスの可能性もあるんだよ。それをね、こんなに早くに緯度経度で伝えてこられたらね、どんな顔して私は先方に乗り込めばいいの?だいたいなんで詳細な場所を知ってるんだって話にもなってくるからね。住所をあっちから伝えてきたのかとか、書簡の往復があったのかとか、読者に対して余計な情報をちらつかせてはいけないよ君。ファンタジーなんだから、ファンタジー。最近はさ、メタ表現なんて言ってあえてファンタジーを壊すなんて手法がよく見られるけど、あれは本来最後の手段なんだよ。楽屋のことは楽屋でとどめる。お客さんには最初から最後まで夢の世界を楽しんでもらう。その中で、エッセンスとしてメタ表現があってもいいと思うよ。でもあくまでそれはおまけとしてだからね。」


「黒の組織を倒すにはアクエナイアス山で修行して、エターナルホーリーサンダーを習得する必要があるわ。」


「あのね・・・どこから言おうかな。・・どこが悪いか自分で分かる?・・あ、分かんないか。あのさ、きょうびエターナルホーリーサンダーはないよ。ちょっといくらなんでも。君、上司とかいるの?あのさ、よくこの手の話に出てくるじゃない、村長的な奴。ホッホッとか言ってる奴。その人に言って直してきてもらって、その何?エターナルホーリーサンダー。うん。これじゃ受けられないから、世界救えないから、エターナルホーリーサンダーじゃ。うん。で、ちゃんとした奴頼むよ。その辺は君のセンスに任せるから。なるはやで、うん、お願いします。」


「村長はあなたを歓迎しているわ。今夜、もてなしの儀式がとりおこなわれるの。必ず来てね。どうしても必要なの。あなたの力が。」


「うん。いけたら行く。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ