第4話 エクスカリバーさん
気が付いたのはいつも通りの魔神神殿の中だった。もはや見慣れた光景である。
ポンコツ駄天使をこっちに送り込んで反省させようとしたが、自分までここにきてしまったようである。
人を呪わば穴二つとはよく言ったものだ。
案の定、駄天使はハーデスに絡まれていた、否、煽られていた。
「バカですねえwwwそりゃ魔王様怒りますよwwwwwどうせあの人のことだから最初のほうは我慢していたんでしょう。それを察しないあなたが悪いんです。あ、もう一度言ってあげましょうか?
『バカですねえwwwwwwwwww』」
「お前まで!おまえまでばかにしやがってえええええええええ!」
一応、罰にはなっているようだ。自分が煽られるとものすごく腹が立つが、今は見ていて小気味がよかった。明日は我が身なのでばれないうちに逃げることにするけど。
自室に戻ると勇者はい・・・なかった。しかし、『魔王さんへ、絶対読んでほしいっす』と書かれた手紙が置いてある。あのずぼら勇者がこんなことをするなどよっぽどのことである。何かあったのだろうか。そう思いつつ手に取る。
『魔王さん、アパートの部屋の件で大家さんに呼び出されたっす!なにやってんすか!
ともかくなんとか言いくるめておくので絶対来ちゃダメっす!絶対、絶対っす!!!』
どうやら迷惑をかけてしまったようだ。いや、魔王が勇者に迷惑をかけるのは本来普通なのだが。
本人は絶対に来るなと言っているが、そういうわけにもいかない。こういうのは当事者がしっかりと詫びを入れるべきだ。それに、絶対来るなと言われたら行きたくなるものである。魔王としての性だ。
すでに三度もあの世界に行っては殺されているが今回は生身の人間が相手だ、恐れるに足りない。
・・・と思ったけど不安なので護衛は連れていくことにした。召喚魔法を唱え、魔物を呼び出す。
もちろん駄天使ではない。あのポンコツは二度と連れていくもんか。
召喚したのはスライム系最上位種『スライムドッペル』。倒せば33万3333経験値を得られるよく狩られそうなやつである。しかし、人間たちに一度もこのスライムに攻撃を通せたものはいない。このスライムは敵対者を感知するとそのものが一番攻撃したくないものに擬態する習性をもつ。さらに、自身の周囲に多重結果意を常に展開しているので万が一にもしっかり対応できる。護衛にはもってこいだ。問題は意思疎通ができるかという点だが・・・まあ何とかなるだろ。
「いいか、お前は俺の護衛として常にそばにいるんだぞ?」
スライムはよくわからない動きをして答える。ちゃんと伝わったかは不安だがまあ大丈夫だろう。少なくともいないよりははるかにましなはずである。準備が整ったので転移魔法を唱える。
ーーーーーーーーーー地球、魔王城ーーーーーーーーーー
転移先は魔王城地球支部で、部屋の主たる魔王がいないので部屋には誰もいない・・・はずだった。
しかし部屋には顔がパンパンに膨れ上がった勇者らしきものと・・・
フライパンを持った10歳に満たないぐらいの幼女がいた。
二人が同時に声をかけてくる。
「魔王、さん・・・うらむっすよ。てか、来ちゃダメって、言った、じゃ、ないすか・・・」
「おにーさん、おにーさん。メイのおうちに穴が開いちゃったの。おにーさんなんか知りませんか?」
メイのおうち、ということはこの幼女が大家のようだ。にわかには信じられない。あの勇者が恐れていたので万が一にも備えたが杞憂だったようである。あれ?なんで勇者がボコボコにされているんだろう?
まあ、いいか。適当にごまかせるだろう。
「うーん、おにーさん知らないなあ。部屋間違っちゃったみたい。ごめんね?」
「そっかあ、おにーさんもわからないか。じゃあ、エクスカリバーさんに聞いてみるね!」
それはどう見てもフライパンだろ。伝説の聖剣の名前を付けるな。
直後、
ズガンッッッ!!!という衝撃が部屋に響く。
勇者はフライパンで殴られてキッチンのシンクの中に顔を突っ込んでた。
「エクスカリバーさんが、ヒトミおねーさんが犯人知ってるって言ってたの。おねーさん知りませんか?」
勇者は顔を突っ込んだまま、ピクピクと震える手で俺のほうを指してきた。
まずい、これは俗にいう絶対に怒らせちゃいけない奴ってパターンだ。慌ててスライムに防御を指示する。頼む、なんとかしてくれ。
しかし、スライムは俺のそばにいたはずなのに消えていた。見渡すと『れいぞうこ』を必死に開けようと一人格闘している。だめだ。意思疎通できない奴を護衛に選んだ俺が間違っていた。
「おにーさん、ウソついたの?ウソついちゃダメって先生言ってたよ?おにーさん悪い人だからお仕置きします!メイが許しても、エクスカリバーさんが許しません!」
「あー・・・その、なんだ?多分お互い誤解があるから落ち着いて一度話し合おうぜ?な?だからそのフライパンを下ろしてく
「エクスカリバーさんはフライパンじゃありません!伝説の聖剣エクスカリバーさんです!!!」
ズガンッ! パガンッ! パガンッ! パガンッ! ズガンッ!
ガスッ! ガス!
パガンッ! パガンッ! パガンッ! ガスッ! ズゴンッ!!!!!!
部屋中に響く鈍い音とうめき声。そしてフライパンを振り回す幼女。地獄のような、あるいはちょっと特殊な人は喜びそうな光景が広がる。もちろん魔王にとっては前者だ。
やがて鈍い音とうめき声がやむ。部屋中血だらけになっており、その中心には挽肉が落ちている。
「ふう、部屋中汚れちゃったね。お片付けしないと。エクスカリバーさん、ケチャップこぼしちゃだめだよ?」
今日はハンバーグですかね。ちょうどフライパンもありますし。
ズガンッ!
・・・・・・・・・・・・・。
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失礼しました。最後までお付き合いいただきありがとうございます!
評価、感想のほうもよろしくお願いします。
そろそろネタが尽きるのと、飽きられそうなんで話進めます・・・。