第2話 駄天使
魔王が気がついたのは前回同様『魔神神殿』の中だった。
今はなんともないが、あの全身の不快感は思い出そうとするだけで吐き気を催す。もう二度と風邪なんか引くもんか、やっぱり手洗いうがいは大事なんだ、そう魔王は気づいた。
幸い、ハーデスはこの場にはいないようだった。よく見ると台座の近くに『蘇生者名簿』と『復活者は後ほど順番にハーデスがお伺いします、ご記名にてお待ち下さいw』と書かれた紙がある。地球でいうファミレスかよ。
どう考えても奴が煽るために残したものだ。一刻も早くここを出なければ…
そう思って出口の扉に手をかけると、扉が勝手に開いた。
「…あれ?魔王様じゃないですか。どうかしました???まさか、先日私が心配(笑)して差し上げたのに八つ当たりしといてまだ足りないと?……じゃなくて、また何かあったんですか?」
「…。」
魔王は何も言わずにハーデスを氷漬けにすると、自分の部屋に戻って行った。
部屋では勇者が『じゃーじ』姿で爆睡していた。寝起きの勇者は何をしでかすかわからないのでそっとしておく。そういえば転移のまえに「大家さんがー!」とか言って何か伝えたそうにしていたがわざわざ聞くほどでもあるまい。
魔王としてもすぐに『魔王城地球支部』に戻って現地の情報を集めたかった。しかし、自分一人ではまたすぐこっちに戻って来るハメになりそうなので、今回は部下を連れて行くことにする。
魔族召喚の魔法陣を描き、呪文を唱えると、真っ黒な片翼を持つボサボサ頭の少年が現れた。
「なんだよ、なんか用か?言っとくけどおれは忙しいんだ。他の奴に頼めよ」
「どうせまたくだらないこと考えてたんだろ?それよりずっと面白いことしてるから手伝ってよ」
「はあ?くだらないことだと!?この俺の思考の海の世界をバカにすんなよ!」
「…何について考えていたの?」
「聞いて驚け!『なぜゴブリンに俺は勝てないのか?』だ!いくら考えてもわからねえ!この謎を解き明かせばきっと俺はまた一段と高みに近づく!」
「…それはお前が敵と出くわした時『どうすれば最も効率よく倒せるか?』をボコボコにされるまで考え続けてるからじゃねえのか?」
「な!?その発想は今までなかったぞ!そうか…なるほどなあ…となると…」
彼はそうして『なぜ自分はそこに気づかなかったのか?』を考え込んでしまった。
魔王が呼び出したのは『駄天使ルシフェル』
『堕天使』ではなく、『駄天使』である。
かつて、この世界でも、地球でもない世界、
『ユートピア』において神に次ぐ第二の権力者としてその力を奮ったが、ある時『なぜ俺は神に仕えているのか?』といった疑問を抱きそのまま反逆を翻してしまった。しかし、『どうすれば神を超えられるのか?』を必死で考えているうちに『ユートピア』を追放されてしまい、デスペラードに拾われたのであった。それからというもの、『なぜ?』と『どうして?』を考え込んでは周りにあっさり指摘される、といった日々を過ごしている。あまりにバカなので『駄天使』と呼ばれるようになってしまった。
そんな彼だが、持つ能力は魔王軍の中でも一際貴重な能力である『万物を解析する力』を持っている。いや、その能力がある故にあらゆる事象に疑問を抱くのかもしれない。バカだけど。
「今俺のことバカにしたろ!」
「ソンナコトナイヨ」
「嘘をつくなああああああああ!」
「…とにかく、今俺は地球について調べている。お前がいたらかなり楽になるだろうし、つべこべ言わずついてこい。言っとくけど、お前は解析だけすればいいからな?間違ってもお前一人で『なぜこれはこうなっているのか?』って考え込むなよ?どうせバカなんだから答えなんか見つからないからな?」
「やっぱりバカにしてるじゃねえかああああ!」
お待たせしました、諸事情で立て込んで遅れました。なんとか投稿頻度を戻せたらなと思います。毎話で魔王殺してたら一向に話が進まないんで今回は生存ルートです。期待されてた方すみません。感想、評価よろしくお願いします。