第1話 俺は不滅だ
魔王が目覚めたのは魔王城の教会『魔神神殿』の中だった。全身穴だらけにされた感覚はまだ残っているが、傷は一つも残っていない。
「あ、魔王様おはようございます。ここに来たってことは一度死にましたね(笑)おつかれさんです。何があったんですか?」
話しかけるのは悪魔司祭ハーデス。『魔神神殿』の管理者である。戦闘力は皆無だが、彼の能力『永遠の呪詛』によって死亡した魔物や魔族たちは全てここで生き返る。魔王軍が圧倒的な力を持つ一因といえよう。魔王すらも生き返るのはチートなんてもんじゃない。
「聞いてくれ、おもちゃだと思ってた人間の武器に穴だらけにされた!一瞬だよ、一瞬!意味わかんねえよ!なんなんだ地球!!!」
「えwwwちょw、人間にボコボコにされたんですかwwwちょっと待って無理www
ブフォォォォォォォォォwwwwww」
「…お前、相変わらず失礼だな…。普通なら
<魔王様の仇、晴らさずおくべきか!>みたいなこと言って街の一つや二つ滅ぼすべきだろ…」
「無理です。私は蘇生しかできないので。それよりwww人間に殺されたってwwwww
もう無理w腹痛くて死ぬwwwwwwwwww」
「…………………………………………………死ね」
ハーデスを燃えカスにして魔王は考える。地球人たちがつかっていた武器『さぶましんがん』、あれに対抗するにはしっかりとした調査と対策が必要だ。それにはまず拠点となる場所を確保し、地球についてもっと知らなければならない。
自室に戻ると、学校帰りの勇者がジャージ上下でゴロゴロしながら地球のお菓子『ぽてとちっぷす』を頬張っていた。
「あ、お帰りっす。聞きましたよ。死んだみたいっすね。ごしゅーしょーさまっす」
「なあ、お前の世界どうなってんだ!?『さぶましんがん』とかいうやつ半端ねーぞ!
物理結界も魔力結界も全部無視して穴だらけだよ!…あんな武器ばっかりじゃねえよな!あれが一番強いんだろ!?頼む、そう言ってくれ!!!」
「あんなの序の口っす。もっとバケモンみたいな武器なんて山ほどあるっす。一瞬で辺り一面更地に変えちゃう爆弾とか、建物を一瞬で廃虚にしちゃう乗り物とか、ビームサーベルとか…」
「やめろぉ、わかったからそれ以上言わないでくれ…」
魔王は真っ白になっていた。あんなのが序ノ口?冗談じゃない。
普通なら諦めているところだろう。しかし彼はこの世界を手にした魔王。ここで諦めてはプライドが廃る。それに、地球の宝は当然自らも欲しいが、それと同時に他の魔王に対する強力な交渉材料となるとも考えていた。
なんにせよ、ここで怖じ気づいて引き下がる訳にはいかない。
「なあ、拠点を構えたいんだけどいい場所知らない?」
「ああ、それならうちのアパートの隣の部屋が空いてるっす。大家さんに話し通して…
「お!お前の家の隣か。ありがとう。今から転移して魔王城地球支部としよう!」
「あ、待つっす!大家さんめっちゃ怖いんで先に話し通さないと…………行っちゃった。
大家さんめっちゃ怖いから勝手に住んで怒られるだろうなあ…。…私しーらないっ!」
-----地球、日本、某所にて-----
「よし、転移成功だな。ここが地球の新たな拠点か。結構ボロいな。まあ、たまにはこんな家も悪くないだろ。庶民の生活に対する理解が深まるな!…しかし寒いなここ、なんとかならんのか?ゲホッ」
季節は2月。今が一番寒い時期だ。そして、『アレ』が流行る時期でもある。魔王の咳音はその恐ろしい悪夢の予兆だった。
数日後、魔王は床に伏していた。高熱、胃痛、吐き気、全身の倦怠感および寒気。筋肉の弛緩。劇毒を食事に盛られたときですらこんなに辛くはならなかった。
「ゲホッ、なんだよこれ、ゲホゲホッ!…あー無理。また、俺、ゲホッ!死ぬ…のか?」
そう、悪夢の正体は『いんふるえんざ』。日本ではもはやありふれたものとなり、予防接種などで対策すれば健全な人ならあまり怖くない病気だ。しかし、魔王は異世界からやってきた存在。彼の体にとって『いんふるえんざ』は余りにも深刻な病と化す。
そして、また彼の命の灯火が未知の悪夢によって掻き消されたのであった…。
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