プロローグ
「あっけねえなあ…」
そう、玉座の魔王は声を漏らす。
この日、世界は魔王の手に落ちた。横目には最後まで抵抗していた人間の国の王が満身創痍で倒れている。
人類の存亡を賭けた魔王軍との戦い。開戦時から魔王軍は圧倒的で人類は蹂躙されるだけだった。そこで、王は異世界から勇者を召喚するといういかにもなんとかなりそうな手段に出る。しかしー
「勇者さえ、勇者さえ裏切らなければこんなことには!」
「そりゃ裏切られるわ。平和に暮らしていただけのジョシコウセイ?とかいうやつにいきなり世界を救ってくれって理不尽にも程があるだろ?あんたらの扱いを散々だったらしいじゃん。かわいそうだったから向こうの世界に帰してやるし、迷惑料がわりにこの世界半分やるって言ったら喜んで寝返ってくれたぞ?」
勇者が堕ちてからはさらに魔王軍が圧倒的だった。最前線にあった防衛の要所の村は飢饉に苦しんでいたところを魔王が食料提供を申し出たらあっさり陥落してしまった。誇りに拘り続けていた騎士たちは王国の有る事無い事を吹き込まれると反乱を起こした。貴族たちには今の3倍の領地と給金を与えると言ったら国王たちを取り囲んだ。魔王が呟いた以上にあっけない終わりだった。
「んで?あんたはどうするんだ?お前の娘の王女は命乞いに応じて助けてやったぞ。今は魔王病院の看護師として働いてる。望むならお前の介護ぐらいさせてやるぞ?」
「そっちでお願いします。」
遂に、人類で最後まで抵抗していた男が堕ちた。
-------数日後--------
「なあ、ヒトミ、暇なんだけどどうすればいい?」
「知らないっすよ。見ての通り私は少女漫画『ロマネスク王子の受難』の読破に忙しいんす。そんなに言うならデスペラードさんはそこの『ゴシックな夜に救済を』を貸してあげるっすよ?」
「それはもう5週ぐらい読んだわ…」
言葉を交わすのは勇者と魔王。勇者は結局自分の世界に帰れるのだが自宅より魔王城のが居心地がいいらしく、学校が終わると通いつめていた。一方で魔王は世界統一後、政治は部下たちに任せてダラけた日々を過ごしている。しかし刺激に欠けるようで、勇者から少女漫画を借り受けて退屈を紛らわそうとしつつも、物足りなさを感じていた。当然といえば当然である。
「読んでて思ったんだけど、地球とやらには美しい宝物が沢山あるな。主人公が被ってる冠とか実在するなら欲しいぜ」
「うーん…どうなんすかね。漫画だから脚色はあると思いますけど海外の美術館に行けば確かにこういうお宝はあると思うっすよ」
その言葉を聞いて魔王デスペラードは決意する。自分は魔王なのだ。俺に手に入らないものなどないと。
「決めた。俺はお前の世界のお宝を頂戴する。異世界のお宝だ、なんと惹かれることか。そしてゆくゆくはお前の世界も支配してやろう」
「あ、そうすか。頑張ってください。私はこのままごろごろしてるんで同行は勘弁っす。夕飯はカップ麺持ってきたんでテキトーに食っていいっすよ。」
そういうと勇者は少女漫画『ロマネスク王子の受難』に視線を戻す。自分の世界が魔王によって侵略されるかもしれないというのに全くといっていいほど興味を示さないあたり、彼女に元々勇者の素質などないのかもしれない。こうして、地球に魔王の魔の手が伸びるのであった。
------某国美術館にて-----ー
魔王は武装した警備員たちに取り囲まれていた。展示されていた『シャングリラの王冠』のケースを堂々と破壊し、「これは俺のものだ!」と叫んでかぶろうとしたためである。30秒とその悦に浸られずあっという間に四方八方から銃を向けられてしまった。
「@t&lalc¥:9kxygz7&,!(今すぐ抵抗をやめて王冠を返せ、蜂の巣にするぞ)」
(何言ってるかわかんねえ…日本語とかいうやつはヒトミから教わったけどこの国の言葉じゃねえのか。まあこれを返さなきゃ殺すぞみたいなこと言ってんのかな)
当然魔王にその意思は微塵にもない。自分は魔王なのだ。囲まれているとはいえ、人間に降伏するなど以ての外。もちろん、人間に殺されるなどあるわけがない。
「お前らが持ってる武器は『さぶましんがん』とかいうやつだな。漫画でみたぞ。確か鉛筆の芯みたいな鉛玉を沢山発射するやつだよな。そんなおもちゃでこの俺を倒そうなど片腹痛い。地獄の業火で焼き尽くしてくれるわ!」
そう言い最上級広範囲魔法ヘルフレイム++の詠唱に入る。しかしー
「ぐあああああああ…」
代わりに口にしたのは断末魔だった。
異世界を圧倒的な力で瞬く間に統一し、勇者までも懐柔した魔王。しかし、地球の近代兵器の力を前に為すすべもなく一瞬で肉塊と化した…。
最後まで読んで下さりありがとうございます。初投稿で拙い部分も沢山あるかと思いますが良かったらお付き合いください。感想、ご指摘の方もよろしくお願いします。次回更新は1週間後の19時前後です。