Episode24 竜殺しの決闘
きっと正面切っての魔術のぶつけ合いになる。
散らかった一直線の廊下。ここは狭い。
戦うにはちょっと動きづらそうだ。
『炎の巨人』を出しても存分に力を発揮できないだろう。
イザベラが身構える俺を見て鼻で笑った。
「ふん、いっちょ前に喧嘩の真似事かい?」
「真似事で終わればいいがな」
挑発を吐き捨てた。
俺の見てくれが幼稚に見えたんだろう。
まだまだ俺も様になってねえのな。
「お前もこんな乳臭いガキに負けるたぁ情けない男だねぇ」
「でも姐御、あいつの魔術すげぇ早業で」
「言い訳してんじゃないよ、恥さらしが」
「ひぃ、すいやせん!」
イザベラが下っ端に吠え散らした。
下っ端はビビって後退。イザベラはその様子に呆れたように溜め息をつくと、一歩踏み出て俺に間合いを詰めた。
――ドク、ドク、ドク。
なんか動悸がするんだが。
このスケバン、竜の血でも混じってんのか。
竜殺しセンサーがちゃっかり働いてやがる。
イザベラが手を翳して魔力を込め始めた。
青い粒子――水属性の魔力がイザベラの手元に集まって形になっている。
『変換』を使った魔力の固形化だ。
そのまま青い魔力は氷の大剣になった。
「悪いねぇ、こんなマガいもんで。今は刀を新調してるところでね。でもアンタにはこれで十分だろ。小手調べだ」
「ご託はいいからさっさとかかって来な」
「おや、大した自信だね」
「生憎、テメェに勝つ自信しかなくてな」
イザベラは氷の大剣を振り上げた。
「その生意気な口、今に塞いでやるよ!」
イザベラが先手に出る。
大振りな武器のくせに、動きは俊敏だ。
俺は刃先の距離を見極めてバックステップで躱した。
「おっと動けるねぇ。じゃあこれはどうだい?
放出開始。氷槍 八連!」
氷のつららが空中に並んだ。8本も。
冷気を帯びた槍みたいなのが現れた。
さすがにこの狭い廊下で8発も連射されたら、躱しきれない。
「おぉら、喰らいなァ!」
「飛び道具だよりかよ。水鉄砲!」
水鉄砲で一発ずつ落とそうとしたが、氷の槍は水を弾く。
凶器がすごい速さで飛んできた。
「しかたねえな」
真打ちを出すつもりはなかったんだが、こっちも早々にネタを出すしかねぇ。
強化魔術で両腕両足を炎属性に強化する。
魔弾の相殺はティミーの雷撃でさんざん経験したことだ。
迫り来る8発のつららを拳と足技で打ち払った。
廊下の壁を蹴り、ときにはバク宙してサマーソルトキックで蹴り潰す――。
「キュ……キュウ~……!」
バク宙でミラが俺の体が落ちそうになった。
慌てて手で引っ掴む。
「ミラはちょっと避難してなっ」
廊下に降して送り出すと、ミラはひょこひょこと走って廊下の隅へ逃げた。こうして見るとただのウサギにしか見えねぇなこいつ。
「呑気にペットの心配かい?」
気づけばイザベラが間近にいた。
氷の剣を振り上げている。
「竜鱗に手ぇ出したこと、あの世で後悔しなっ」
「遅ぇよ」
「なに!? ――ぐふっ」
地面に手をつけ、イザベラに足払いをかけた。
イザベラは態勢が崩れて前のめりになった。
その腹に炎の拳でワンツーを打ち込む。
「ぶはっ!」
そのまま回し蹴りで窓に蹴り飛ばした。
ガシャーンという派手な音がして窓は破壊。
イザベラは外へ放り出された。
確かここ4階か5階だが、外へ蹴り飛ばしたのはマズかったか? イザベラも無抵抗なまま外に吹き飛んでいった。
「何の騒ぎだね!?」
職員室の近くなのもあって先公が何人か登場。
とりあえず無視だ。
窓から身を乗り出して外の様子を見る。
イザベラは氷魔術で滑り台のような彫刻を作り、そこを立って滑りながら、凄い顔でこっちを睨んできた。
氷の滑り台は魔術でどんどん先端が生成され、その矛先はぐるりと旋回して、こっちに戻ってこれるように造られていく。
器用なことをするもんだ。
口調は荒いが、魔術の腕は確かみてぇだな。
「アンタよくも……このイザベラを……ファルマイヤを侮辱したな! 待ってろ。殺してやる」
ヤル気満々じゃねぇか。おもしれえ。
こんな思いきり喧嘩できる奴は久しぶりだ。
「その必要はねぇ!」
俺は躊躇せずに窓から飛び出した。
『雷の鞭』を窓枠に伸ばし、ワイヤー代わりにして空中を旋回。『燃焼』をターボ代わりに勢いをつけ、氷の滑り台を滑るイザベラに飛び蹴りを食らわせた。
「ほら、こっちから来てやったぜ!」
「ガァアアアア!」
蹴った勢いで氷の滑り台も粉々になった。
2人して地上へ真っ逆さまだ。
「アンタ、頭ぶっとんでんのかい!?」
「よく言われる……ぜ!」
落下中、『炎の巨人』の腕だけ喚び出した。
逆さまに睨み合うイザベラをぶん殴る。
イザベラはさらに上空へ飛んだ。
「――ぁあああああ!」
俺は反動で落ちるスピードが速まった。
どんどん地上が迫る。
ここからが秘蔵のアイテムの見せ所だ。
腰に忍ばせた一本の筒を取り出した。
それは学校に来る前、ティミーから頂いた『空飛ぶホウキ』だ。
筒に炎の魔力を流す。
すると筒が伸び、スラスターが展開して轟音とともに空へ舞い上がった。
俺はそれに引っ張られる形で空を翔けた。
「よっと……」
なんとか乗り上がって立ち乗りになる。
普段からホウキ乗りを練習した甲斐があった。
「っしゃあ、待ってろよイザベラ!」
サーフィンみたいな姿勢で校庭の空を翔ける。
最高に気持ちいい。
「きゃあああああああ!」
イザベラは上空に殴り上げられたまま、抵抗できず落下していた。女らしい悲鳴をあげてる。
雷の鞭を伸ばして掴み寄せる。
そのままイザベラを吊り下げながら、校庭で雑に引きずって降ろしてやった。
これで死にはしねぇだろう。
俺も『空飛ぶホウキ』を解除して校庭に着地。
近づいて確かめたが、イザベラは完全に伸び上がっていた。
「ま、腕はあるようだが、喧嘩は素人だな」
ぱんぱんと両手を叩いて汚れを払う。
学校一の不良グループの頭もこんなもんか。
異世界の不良も大したことねぇんだな。
ざわざわと雑音が聞こえてきた。
周りを見回すと、校庭には大勢の野次馬、校舎の窓という窓から身を乗り出す生徒が犇めき合って事態を見守っていた。
一瞬の静けさの後、わぁっと歓声が上がった。
「あぁん?」
「すげぇええ! あのイザベラを倒したぞ」
「は……」
「マジで『竜鱗』の竜を討ち取ったのか!?」
「え……あ……」
「竜殺しだ! ――竜殺し! 竜殺し!」
「竜殺し! 竜殺し! 竜殺し!」
学校中に竜殺しコールがやまなかった。
ここにきてまたそのあだ名が――。
――"名は体を表すとも云う"
"それは謂わば宿命さ。生きていれば、いずれ竜に巡り合い、そして殺し合うことになる"
あの魔女の言葉を思い出した。
どこかで俺は竜と戦う運命なんだとか。
それが『竜鱗』なんていう、ちんけな不良グループじゃないことは分かってる。
「くっ、あたいは認めないよ……」
イザベラがゆらゆらと起き上がった。
息も絶え絶え。髪もぼさぼさで泥で汚れているが、怪我はない。タフだな。
「復帰はやっ」
「あの程度でへばるほどヤワな女じゃないよ」
イザベラは息を荒げながらもまだやる気だ。
突然、乱暴に丈の長いスカートを捲り上げ、太ももに備えた小刀を取り出した。
色気もへったくれもない。
「まだやるってのか?」
「これに賭けて『竜鱗』が負ける訳にはいかねぇのさ」
イザベラは小刀を眺めている。
刀身が太くて短い、変な刀だった。
――ドク、ドク、ドク。
それ見てると俺の心臓もばくばくしてきた。
竜殺しセンサーだ。さっきの反応と同じだ。
「なんだよそれ?」
「これは竜の鱗で作った小太刀さ。これで付けられた傷は何年かけても治らない。そういう竜の性質が宿ってんのさ」
「竜の鱗……そんなもん、どこで……」
「はん、ビビったかい? あたいはアンタをこれで傷つけることに決めた。ファルマイヤを侮辱したんだ。それくらい覚悟決めてやったんだろう……ええ?」
別に刃物なんて今さら怖くない。
何故お前がそんなもん持ってんのかって話だ。
この世界に竜種ってのがサラマンドしかいねぇならアイツの鱗ってことだよな。
でも、サラマンドの赤い鱗とは色が違う。
イザベラの持つ竜鱗の刀は、黒い……。
「ちょっと通して! ごめんね!」
校庭の野次馬を掻き分けて誰か乱入してきた。
横目にも目立つ赤い髪は言うまでもなくリナリーのそれ。
「げっ、リナリー!」
「先生を呼び捨てにしないの。それより一体これは何の騒ぎ?」
他にも教師連中の数人が駆けつけてきた。
派手にやりすぎた。
こうなったら決闘は強制終了。
イザベラも竜鱗の刀を太腿に忍ばせた鞘に戻した。
「首洗って待ってな。必ずアンタをヤる……」
イザベラは捨て台詞を吐いて立ち去った。
野次馬が怖がって、イザベラが行く進路から人が分かれて道を作っている。
これじゃ逆恨みの連鎖だ。
因縁つけてきたのは竜鱗が先だってのによ。
「アンジー」
リナリーが背後から声をかけてきた。
野次馬たちも散り散りだった。
「そろそろいい? 行くよ」
「行くってどこにだよ。俺はトイレに寄っただけだ。今から教室に帰る」
「帰らなくていいから職員室に来なさい」
「はぁ!? なんで?」
「あれ」
リナリーが指差したのは4階職員室付近の窓。
無惨にも粉々に吹き飛んでいる。
「そして、これ」
校庭にはイザベラを引きずった後ができ、庭の花壇が荒らされている。
おまけに氷が突き刺さって草木はズタボロ。
悲惨な状態になっていた。
「それは俺じゃねぇ。イザベラって不良女がっ」
「きみが問題児なことには変わりない」
「くっ……くそ……」
俺もイザベラに貸しが出来たぜ。
今度会ったときはタダじゃおかねぇ。
「まぁまぁ、ちゃんと話は聞くから。ね?」
リナリーは俺にウィンクしてきた。
何かの合図らしい。
ここは形だけ付き合って、と言わんばかりだ。
リナリーは俺に味方してくれるような気がした。
他の先公どもが面倒くさそうに俺をチラチラ見て非難の目を向けてる中、リナリーだけは真っ直ぐ俺の目を見てくれた。




