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百合神様の導きに誘われて  作者: 川島
第一章ー蓮華の葉ー
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3

 すたすたと歩みを進める蓮華は、そのまま葉子の横を通り過ぎる。邪魔だ、というのは本心からの言葉だったのだろう。

 葉子は顔を伏せる。少しでも泣き顔を他人に晒さないように、という彼女の最後のプライドが、そうさせる。

 アスファルトに押さえ付けられたせいか、その頬に埋まるように砂利が刺さっていた。出血はないが、妙に痛々しい姿だ。

 そんな彼女の直前。

 通り過ぎる瞬間に、蓮華は一言、吐き捨てる。


「泣くくらいなら、少しは抵抗すればいいのに」


「っ!!」


 その言葉が葉子の胸に突き刺さる。


(……そんなの…………!)


 ぎりっと奥歯を噛み締め、蓮華を見上げる。

 目尻に涙を浮かべたまま、敵意満々の視線。

 それが蓮華の横顔を射抜いた時、彼女もまた横目で葉子を見る。

 二つの視線が交差する。

 

 蓮華のような強かな人種には、分からないことだろう。

 抵抗することが何を意味するのか。

 よく「抵抗」することで虐められなくなるというが、それはただの成功例に過ぎない。

 中には抵抗することで悪化するような虐めも当然ある。

 そして、今回のものは恐らくそれだ。

 あの女たちのような自尊心が過剰なタイプは、一度二度抵抗したところで止めてはくれないだろう。

 それに彼女の中にもプライドというものがあった。

 他の誰かに助けを乞うこともできなかった。

 いや、したくはなかった。

 それは他人に弱味を晒すことをしない彼女の性質故のものだ。


(そんなの……、わかってる……!)

 

 葉子は顔を伏せ、俯いた。

 第三者の言い分は蓮華のそれと同じだろう。

 誰に訊いても同じ回答が出るはずだ。

 それでも。

 それでも……。

 葉子は、抵抗も、助けを乞うこともできない。

 こんな八方美人を突き詰めたような人間だ。

 虐められるのもある種仕方の無いことだとも言える。

 顔を伏せる葉子の元を過ぎ去り、彼女は歩いていく。


(……でも、……でも! どうしたらいいか、私にも分からないんだよ……!)


 葉子は眼鏡を外し、制服の裾で涙を拭う。


 その姿に私はもどかしいものを感じていた。

 過去に手を出すことはできないため、どうすることもできない状況。過去の彼女が自らの手でその状況を打開するしかない。

 そのことにもどかしい気持ちになる。

 別に「イジメ」という人間社会の排他機能から彼女を助け出したいわけではない。

 ただ、彼女の記憶を共有してるが故に、ついつい彼女の気持ちに寄ってしまうというだけだ。


 しばらくそこで座り込んでいると、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。夕立だ。

 

(……雨、そろそろ帰らないと)


 葉子は俯き、そう思うが、直ぐにその考えを改めた。


(……いや、今日はお母さんもいないし、……どうでもいいか……)


 最初は小雨だったのが、だんだん激しくなっていく。

 本降りになった雨に打たれ、彼女の髪や制服が濡れて、肌に張り付いた。


(……つめたい)

 

 葉子は膝を抱えながら座っていると、不意に雨が止んだことに気が付いた。

 

(……え)


 違う。

 まだ周りのアスファルトが雨に打たれている。

 雨が止んでるのは、自分の元だけ。

 そこでようやく彼女は、それに気が付いた。

 

「いつまでそうしてるつもり……? 風邪を引く」


 目の前に去ったはずの黒崎蓮華が立っていた。

 その手には、ビニール傘。

 それが葉子の元に降る雨の雫を全て弾いていた。


「ほっといてください……」 


 葉子は俯いたまま呟いた。

 だが、そんなことに従うこともなく、蓮華はその小さな手で、葉子の腕を掴み、


「……ちょっとついてきて」


 と引きずるように葉子の手を引っ張った。


「な、なにを!」


「いいからついてきて」

 

「く、黒崎さん! は、はなしてください」


 有無を言わさず葉子は蓮華に連れて行かれる。

 その手を振り払おうにも、力の差がありすぎてまったくビクともしない。

 蓮華のその小さな体のどこにこれだけの力があるのだろうか。

 結局、葉子は早々に諦めた。


 

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