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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
始動編
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5 レイチェルの力と小麦粉


「結局、シャルが買ったのは東の国の和綴本(わとじぼん)と…その変な薬草、だね」



シャルは満足気に頷いて、肩から下げているずだ袋の形をした鞄に和綴本と薬草をしまい込んだ。

表情に少し疎いシャルでも嬉しさ故に満面の笑みだ。



「私はお目当てのものは無かったし…ところでその買った薬草、何に使うの?」

「体の弱いエリオットのための薬。もしかしたら使えるかもって思って。それに元々、東の国にここで生えていない薬草が生えてたりするから、興味はあったの」

「そっかあ。シャルは家族思いなんだね。エリオット君も喜ぶんじゃないかな」



目を閉じればエリオットが新しい玩具を与えられた犬のように喜ぶ光景が浮かぶようだった。



「じゃあエリオット君の薬を作ってるのはシャルなの?」

「うん。薬を買うお金も無かったし、薬を作ることは勉強にもなったから」



シャルはそう言って野菜の入った袋を店から借りた荷車に乗せた。


荷車には肉や塩漬けされた魚も乗っており、それなりの重さになるはずなのだが、



「……レイチェル、疲れてない? 交代しようか?」

「へ? 全然疲れてないよ! むしろ有り余ってるくらいだよ!」

「でも荷車重たいよ? 結構、買ったし…」

「そうかな? わんちゃんを抱っこしてるくらい軽いよ!」



不思議そうに首を傾げるレイチェルをシャルは苦笑いを返した。

それにレイチェルの汗一つない笑顔はシャルの知識欲を煽るだけだった。



(そんな細い体のどこに力があるのか、気になる…)



いつか調べさせてもらおうとシャルは小さく頷き、荷車の後ろを追う。



「あとは小麦粉だけだね!」

「うん。それを買ったら早めに帰れそうだね」

「早く帰らないとエリオット君がまた泣いちゃうもんね」



泣いてたエリオットを思い出し、シャルは苦笑いを返すのみだった。



(子供達に慰められてなければいいけど)



シャルはレイチェルの話に相槌(あいづち)を返しながら青い空を見上げた。



◆◆◆



露店の店主は麻袋に入った小麦粉をシャルに預けた。


「はい、小麦粉ね」

「あれ、小麦粉値上げしてませんか?」



受け取った小麦粉をシャルは荷車に乗せながらレイチェルと店主の話に耳を傾けた。

シャルが耳を傾けたのは少し疑問があったのだ。


値上がりするなら何かしら目に見える災害が起きたから、というのが大方の原因だったりする。


例えば大雨で洪水、虫や鳥などに作物を荒らされたりなどといったものがある。

大抵、ここの露店で出されている食材は孤児院の近くの領土から仕入れているものだ。それはこの店も例外ではない。


そしてそれらの災害が小麦に限らず野菜や米にも影響してくるはずだ。



「うーん、凶作だったんでしょうか? それなら孤児院にまで話が流れ込んでくるんですけどねえ」



意外にも情報通なレイチェルがこの反応だ。値上がりは良きせぬことだったのだろう。


そんなレイチェルは野菜を買う時にはこういった反応は見せていなかった。野菜には何の影響も出ておらず、例年と同じ値段だったのだろう。



シャルは荷車に腰を掛けながら少し頭を働かせる。普段動かすわけでもないので老化防止がてら動かすことにしたのだ。



(ここらの領土は連携して野菜を栽培してる。それは小麦も一緒。確か小麦粉は孤児院から馬車で半日はかかる場所にあるビヴァリー領でまとめて保管してるらしい…だとしたら)



店主から出てくる答えを待ちながら水々しい野菜を眺める。随分と美味しいそうだとシャルはゴクリと喉を鳴らした。



「小麦粉を保管しているビヴァリー領で爆破事故が起きたらしくてねえ。なんでも爆破したのが小麦粉の保管庫らしいんだよ」

「だから保管庫にあった小麦粉がほとんど無くなったってことですか?」


「そういうわけで小麦粉は値上がりしちゃったわけ。こっちも困ったもんだよ」

「その事故っていつ起きたんです?」

「4日前だよ。急に値上げしてくれって言われたのをよく覚えてるよ」



4日前。それならレイチェルの耳に届かないのも無理はない。

レイチェルもしょうがないと思ったのか、話を切り上げてシャルの元に駆け寄った。



「ごめんね、話長くなっちゃった」

「構わないよ。これで買い物は終わり?」

「終わりだよ。帰ろっか!」



腰を上げようかと思ったが、荷車がガタンと動き出してシャルの体が揺れた。


戸惑うシャルをよそにレイチェルはシャルを荷車に乗せながらガラガラと運ぶ。

野菜、塩漬けされた魚に加えて3袋の小麦粉とシャル。



鍛えられた男でも易々と運べる重さではないのにレイチェルは汗一つどころか鼻歌を歌いながら運んでいる。



(嘘でしょ…)



シャルは唖然とするが落とされないように奥の方に座り直す。

やはり周りからの目線は避けられないものである。



「…レイチェル、疲れないの?」

「全然っ!」

「……本当に?」

「本当に、だよ!」



ますますレイチェルに対する謎がシャルの中で生まれるばかりであった。


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