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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
王の隠し子編前
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15 錬金術




再び部屋に入った姚とクロエは口を半開きにして唖然としていた。

輩は顔はげっそりと疲れているのに肌が艶と張りのある肌になっている。

その隣では汗を拭きながらエリオットが満面の笑みを浮かべている。足元にあるずだ袋からはみ出た豚肉を隠しながら。

シャルというもの、一見、無表情だが心做しか目を輝かせでいるようにも見える。



「…実験したんじゃないわよね?」



姚は厳しい視線をシャルに突き刺さす。

以前に人体実験についての話をして、絶対にするなと釘をさしたところなのだ。



「いえ、治療をしていました」

「は…? 治療?」

「はい、治療です」

「せやで、治療やで!」



シャルは輩の腕の服を捲り、姚に見せつけた。そこには傷一つのない、白い肌がある。

その腕を見た姚は目を見開いた。

なぜならそこには『到底治せないであろう火傷の傷』があったのだから。

長年、薬師をしている姚が酷い傷だと思ったほどの傷だったはずなのに、そこには痛々しい傷はない。

人や薬で成せる技ではない。



「治療もできて聞き出すこともできてお互いに得のあることかと」

「……傷がなかったらどうするつもりだったの?」

「…他の手段を使うまでですかね」



シャルは目を逸らして言う。



(嘘ね。…だから錬金術師のエリオットちゃんを連れてきたわけね)



姚は錬金術、そもそも魔法についてはそれほど詳しくはないが、エリオットの隠していた豚肉でそれなりには検討がつく。

錬金術とはただの石を金に変えたりと物を操ることに()けた魔法だ。

錬金術科では優秀なエリオットだ。豚肉を人肉に変える手術を施したのだろう。

肉を肉に変えるなら簡単だ。それが動物の肉か人間の肉かの違いだけなのだから。

加えるなら豚は脂肪が多い。艶や張りがあるのはそのおかけでもあるのかもしれない。より人間の肉にしたいならばまだ詰めが甘い。


かつて姚の友人が同じことをしていたのをよく覚えている。

その時、友人は高笑いをして素晴らしいと叫んでいたことも。


姚は脳裏に過ぎった思い出を振り払い、シャルを見た。



「治療はいいけど麻酔くらい使いなさいな」

「それでは私達に得がありません」



ああ、そうだった。と姚はこめかみを抑えた。

シャルは自分の得になることと金が儲かることじゃないと動くことは無い。

実に困った娘だ。

そしてエリオットもエリオットだ。

洗脳されているというべきなのか、それとも自ら崇拝してるのか、はたまた何か違う思いを持っているのか、シャルのやる事を止めることは滅多にない。

あるとしてもシャルに危険があると判断した時だ。

それ以外は助手としてシャルの傍で働く始末。依頼によれば学校まで休んでまで助手をやろうとすることもある。


奇妙で不思議な姉弟だと思っていたがここまでくるとそんな可愛い言葉では収まらない。



「…まったく、恐ろしい姉弟だわ」

「それはどうも」

「褒めてないわよ」



姚は軽く流し、シャルの頭を叩くが後ろにいたクロエは流せなかったのか、ゴクリと唾を飲み込んでいた。

顔も心做しか青ざめている。

人間、隠し事なんてできない生き物だ。

クロエもまたそうだとすればーー、



(…深く入り込まれたら誰だって恐れるものよね)



姚の伏せた目の裏にはかつての恐れ知らずの友人が映った。




◆◆◆




「傷を治してもらったのは感謝してるがお前らは悪魔だ! 悪魔なんだからな!」



輩はシャルやエリオットに怯えながらも何故か礼を言う。同時に念を押すようにも罵倒もしている。

傷を治してもらったことには感謝はしているが麻酔無しで治療したことは根に持っているようではあった。

涙目になりがらありがとうと悪魔を交互に言っている。



(どっちだよ…)



隣のエリオットを横目に見るがシャルとは違い、満足そうな笑みだ。

恐らく、治療に成功した時にエリオットをシャルが今までにないくらいに褒めたからだ。

久々に見た姉の笑顔と貰った褒め言葉がよほど嬉しかったのだろう。

シャルもまた年甲斐もなくはしゃいたものだ。

久々に表情筋を動かしたせいで頬の筋肉が痛い。

あの場にエリオットと輩だけしかいなくて良かった、とシャルは息を吐く。


その後、輩はかなり怖いお兄様方に首根っこを掴まれて、娼館を追い出された。

当然のことだが、店に悪さをした猫が店主に捕まっている様子にしか見えなくてシャルが可愛い、と思ってしまったのはまた別の話。



「それであの者は何と?」

「そうですね、お伝えしたいとは思いますがこれは依頼主であるファニー様にお伝えしてからです」

「…あくまで依頼主のために、ということですか?」

「はい。うちの方針なので」



クロエは苦い顔をしてシャルを睨んだ。

睨みを痛くも痒くも感じないシャルは頭を下げて、部屋を出た。

部屋の外には待機してたであろう、先ほどのエレーナのお付きの者、ニーナが立っていた。

シャルの後ろではエリオットが突然止まったシャルの背中に激突して「うっ」と声を漏らしていた。



「ファニー様はこちらです。案内いたします」

「…何故、私を?」

「詳しいことは後でお話致します故、ついてきてください」



シャルはこくりと頷き、ニーナの後をついていく。

そういえば部屋に姚を置いてきてしまった。きっと今頃、クロエを宥めるなり、気まずい空気が流れていたりするのだろう。

姚には申し訳ないが任せることにしよう。



「ところでニーナさん。何故、私をあの場に呼び出したんですか? クロエさんの命令では無かったと思うんですが」

「……まさかお気づきでしたか。そうです、私が独断で貴方を呼びました」



本来ならシャルはこの河豚事件の招かれざる客だった。

死体のあった部屋に来た時、姚はシャルが来たことを初めて知ってたようだった。

本来、死体のことなら、そして毒死なら薬師である姚だけで十分だ。

それにクロエはエレーナに盛られるはずの毒を食べて死んだと推察していた。クロエの中で事件は解決していたようなものだ。

そう、シャルは呼ばれる必要はないのだ。

それなのにシャルはファニーと共に訪れた。




(つまりはクロエは私に何かを気づかれないように隠している、ことだな)



そもそも改めてこの娼館のことを見るとおかしいのだ。

四宝の1人が何度も命を狙われているというのに街にはそう言った噂は全く流れない。

そして客足も途絶えることもない。

恐らくクロエが色々根回しをしているからだろう。

では何故、根回しをしているのか。

勿論、商売のこともある。

それだけでなく、エレーナにはそれなりに命を狙われる理由があり、それはおおっぴらに公開していいものではないのだろう。

エレーナとクロエは何者なのか。

それを知ったところで何になるわけでもない。

ただ言えることはこの娼館には秘密がある。

だからシャルはクロエを信頼できないのだ。



(そしてファニーの依頼はその秘密を暴くことにもなる)



正真正銘、面倒臭い依頼を引き受けてしまったとシャルはつくづく後悔する。

だが、シャルの仕事はただの助手だ。

全てを暴かずともいい訳だ。

最後に判断するのはファニーだ。シャルが決めることではない。



「遅かったわね、地味子」

「すみません。色々、ありまして」

「構わなくてよ。それでエレーナさんを殺そうとした(ドブ)男は何て言ったのかしら?」



脚を組んでまさに女王ファニーの辛辣の言葉にシャルは苦笑を浮かべる。



「輩は後日、金と河豚を渡したやつに会うそうです。その時にエレーナは河豚を食べて死んだ、と伝えろとも言いました」

「なっ…!しっ、死んだって…!」

(デマ)ですから。恐らくこういった面倒臭い手口で殺そうとしてきた人物ですから恐らく、エレーナさんの死体を確認しに来るかと」

「呼び出す、ってわけ?」

「はい。トカゲのしっぽ切りになるとまた一からやり直しにもなりますから」

「…そうよね。その方が手っ取り早いわ」



意思は決まったようにファニーは真っ直ぐにシャルを見た。

後ろでエリオットが「何!? 危ないことするん、姉さん?!」とあたふたしているが気にしない。

すると先程まで黙っていたニーナがおもむろに口を開けた。



「あの…どのようにしてエレーナ様の死体を見せるのですか? 商売上、そうそう死体を見せることは…」

「そうですね…死体安置する部屋はあったりしますか?」

「ほとんどの娼婦の死体は人目のつかないところに捨てられたり、森に埋められたりします。ですが四宝が亡くなったともなれば葬儀は盛大にされますからそう簡単に埋められることはないかと」



淡々と話すニーナとシャルの会話にファニーがぷるぷると肩を震わせている。

エリオットが宥めているがまだ我慢してもらおう。



「つまりまだ部屋に置かれるということですか?」

「恐らくは奥の部屋の病人を置かれる場所に」

「死体死体死体って!!エレーナさんはまだ死んでないのよ!?」



ついにファニーの怒りは爆発してしまった。

ダメだったか、とシャルは気だるそうな目でファニーを見る。



「あら、私って死んだことになったの?」

「エ、エレーナ様!?」



確かに本人の了承がないと偽の死体はできないわけだが、今来られると話が混乱しそうでシャルは頭を抑えて唸る。



(なんで悪運は私に味方をするのよ…)



エリオットに慰められるように頭を撫でられながらシャルは好奇心旺盛に目を輝かせるエレーナを見た。

命を狙われているという自覚は無さそうにも見える。

シャルは小さくため息をついた。


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