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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
王の隠し子編前
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6 踊り子と書物



「エレーナさんっ!……って誰よ、あんた達」



小麦色の肌で黒髪の少女はエレーナに抱きつこうとして静止した。

その反応が正しい、とシャルは思いつつ、頭を下げた。

エリオットも続いて頭を下げる。



「前に言ってたコンサルタントのシャルよ。こっちはシャルの弟くん」

「どうも。コンサルタントのシャル・ブレアです。こっちは弟のエリオットです」


シャル達はようやくエレーナの手から解放されて、怪訝そうな少女のために挨拶をする。



「ふーん、あんたがエレーナさんを負かせたコンサルタントね。私は四宝の1人、ファニーよ。ちゃんと覚えておきなさい!」



そう言ってファニーは鼻を鳴らした。

長い黒髪は可愛らしい花の髪飾りで結われており、顔つきはとても幼い。エレーナのような美人とは言い難い。

踊りを売っているからか、服も南の国の踊り子に模した服だ。エレーナより見える肌の面積は多いのに幼い体だからか、妖艶には思えない。胸もシャルより小さいと言っても過言ではないだろう。何にせよ、娼婦にしては珍しい。



「…苦労されているんですね」

「何よ、その目は!! これでも私は20よ!?」

「20!? 自分より年上なんや…!」

「人を見た目で判断するんじゃないわよ、馬鹿!!」



体に似つかない齢にシャルとエリオットは目を見開く。

まさか自分より年上だったとは。

いや世の中、分かったものじゃない。

様々な異常性癖(マニア)がいるのだから。



「で、何故エレーナさんはこいつらを私に引き合わせたんですか?」

「だーって面白いものは共有したいじゃない? それにシャルの講義はためになるわよ?」



(面白いもの)



シャルとエリオットは笑顔で話すエレーナを見た。

そして段々、シャルがエレーナを見る目は半眼へと変わっていく。

エリオットもまた止めるすべもなく、苦笑いしながら見守っている。

物珍しさからシャルやエリオットに構っていたことは気づいていたが、もはやもの扱いだったとは。

するとエレーナはシャルの目線に気づいたのか、慌て出す。



「や、やだっ、冗談よ? それに私はファニーにもシャルの元で学んでほしいと思ったから。ね?」

「…検討しておきます」

「地味女に同意です。学ぶかどうかは私が決めますし、第一私には必要ないですから。あ、私、クロエに用があるのでそれじゃあ」



そう言ってファニーは部屋を出ていった。

するとエレーナは眉を下げ、顔にどこか悲しい色が滲む。



「もう時間がないのに………」



シャルはその一言を聞かなかったことにした。

人の事情に手を差し伸べてやるほどお人好しではない。

それはシャル自身もエリオットも重々承知している。



◆◆◆



「ねえ、どうして娼婦の依頼を受けて僕の依頼は受けてくれないの? 何が気に入らないのかな?」

「お前の存在」

「ありゃ、それを言われたらぐうの音も出ないや」

「……自覚はしているのね」

「ふふ、まあね。じゃないと僕だって生きてお前の前にはいないよ」



夕暮れの娼婦から帰宅路。

エリオットを先に帰らせ、シャルは少し野暮用があったため寄り道していた。

するといきなり視界を閉ざされ、うなじにナイフを当てられた。

シャルは驚くことなく、素直に従った。死にたくはないはないからだ。

それに誰の仕業も分かっていた。


そして現在、ノアに連れてこられた飯屋に腰を下ろしていた。



「兄妹水入らずの夕餉なのに」

「どんな夕餉でも夕餉。一緒よ」

「…ほんとお前ってつまんないよね。依頼も受けないし吸血鬼も解決しちゃうし。隠し子くらい御茶の子さいさいでしょ?」

「戯言もそれくらいにしろ。王の特徴と合致するやつを見つければいい話だろ」



シャルは羊肉を口に運ぶ。

だが気難しい顔をしてノアは食事用のナイフをくるくる手で弄ぶ。



「そうもいかないよ。こうして僕はいると豪語してるけど実際は噂でしかない。もしかしたら現国王を陥れようとして流した噂なのかもしれない」

「なら諦めろ」

「だ、け、ど、それで諦めないのがブレア家の血でしょ? 実はその噂が本物だと記されているであろう書物を見つけたんだっ」

「…盗んだものか」

「やだなあ、合法で手に入れたやつだよ」



シャルは出された本を受け取り、ページを捲った。

だが中身は空白だったり、まったく関係の無い王都の歴史が綴られていたりしている。

そのうえ、古い書物故に文字も掠れていて読めたものじゃない。



「どこにも書いてそうにはないが?」

「でも脅したら書いてるって言ってたのになあ」

「おい、今脅したらって言ったか?」

「聞き間違えじゃない?」

「……愚兄がこうしてまだ生きていることが不思議でしょうがないね」

「あはは、僕も!」



(僕もじゃねーよ)



シャルは本を机に置き、葡萄の酒で喉を潤した。

口の中に濃厚な葡萄の甘みが広がり、自然と頬の筋肉が緩む。



「その本はお前にやるよ。それにお前のところの貴族様は何か知っているかもしれないしね。貴族様ならお前に惚れてるから簡単に教えてくれるんじゃない?」

「黙れ」

「辛辣だなあ。まぁ何にせよ、お前が解決してくれるのを楽しみにしてるよ。お兄ちゃんの頼み聞いてくれるよね、シャル?」



ノアの薄暗く渇いた目がシャルをうつす。



「善処する」



それだけ言ってシャルは席を立った。



◆◆◆



(……ドューガルは変わることはないな)



シャルはバロンの後ろに立つドューガルを見た。

あのノアのような薄暗い目はしていないが冷たい目はしている。

だがシャルにはここ最近で何かしでかした覚えはない。困ったものだ。



「それで今日は何の用だ?」



突然押しかけたというのにバロンの片手は紅茶だ。

国王に仕えていれば両手に書類を持っていてもおかしくはないはずだ。

随分と余裕があるようだ。



「バロン様はこの書物をご存知ですか?」

「……この書物はどこで手に入れた?」

「物好きの変態が手に入れたものです」

「…そこらは深くは追求はしないでおこう。ドューガル、席を外せ」

「………………御意」



随分と長い御意だった。

やはり以前のこともあって2人きりにはしたくないのだろう。

気持ちは分かるが主人の命令ともなれば頷かざる負えない。

シャルは何も起きないことを願い、ドューガルの背を見送った。



「この書物には何かあるのですか?」

「何かあるといえばあるらしいが何があるのかは私には教えられていない」

「これは有名な書物で?」

「いや、先代国王と司書と書物の著者しか分からないはずだ。私に聞かされているのはこの書物は保管している司書の許可無しには見れない物だということ」



バロンは紅茶を置いて本をじっくり見ている。

一つ、シャルには違和感があった。

本の構造も中身も同じ本を見たことがある、と。

そう、吸血鬼騒動の際に姚から貰った錬金術の書物だ。

あれは途中から空白になっていてこの本と何かしら合致しているのだ。



(何か分かればいいけど)




そして何か気づいたのか、バロンは顔色を変えた。



「これ…結界魔法が施されているじゃないか…!?」

「結界魔法、ですか。私は気づけませんでしたけど」

「魔法というものは結局、魔法が使える者しか分からない。魔力を持たないお前が気づかないのも無理もない」



若干興奮するバロンに対してシャルは苦虫を潰した顔をしていた。

以前、結界魔法で散々な目にあったシャルにとってそれはあまり良いものとして受け入れ難いのだ。

だが今は関係ない。

シャルはそう自分に言い聞かせ、小さく首を振った。

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